生（なま）だとて　舌（した）に觸（さは）るは　この意太利麪（パスタ）　猿猴顏（ましらがほ）なる　わが血筋（ちすぢ）ゆゑ : ヴェッキオ コンヴェンティーノ

古來（いにしへよりこのかた）、
麪粉（うどんのこ）を捏（こ）ねて延（の）し、細（ほそ）く截（き）りたるを、
"饂飩（うんどん）"、"切麥（きりむぎ）"などゝ喚做（よびな）す。
但（たゞ）し、その源流（みなもと）を遡（さかのぼ）れば大差（おほいにことなる）。

"饂飩（うんどん）"は、
"餛飩（こんとん）"、すなはち、"雲呑（わんたん）"がその濫觴（はじまり）。
やがて、"切麥（きりむぎ）"のごとき姿（すがた）となり、
"日葡辭書"にも「尤（いと）細（ほそ）く薄（うす）く作（つく）る」とある。

愚按（やつがれおもふに）、
素麪（そうめん）、中華麪條（もろこしのきりむぎ）を含（ふく）め、
秋津洲瑞穗國大倭（わがくに）の麪（めん）は四海（よ）に冠（かむり）たるものあり。
夏華（もろこし）を超越（こ）え、意太利（イタリ）をも凌駕（しのぐ）。

その要諦（かなめ）、
腰（こし）と滑（なめ）らかさを兩立（ふたつながらにならびたゝすこと）にあり。
稻庭温飩（いなにはうどん）、『しゆはり』など、枚舉（かぞふ）るに遑（いとま）あらず。
『松翁』一門（いちもん）が"冷麥（ひやむぎ）"も秀逸（ことのほかすぐる）。

中華（もろこし）の麪條（きりむぎ）に強靭（つよ）き腰（こし）なし。
加旃（しかのみならず）、平滑（なめ）らかさに虧（かく） も稀有（まれ）ならず。
乾燥意太利麪（ほしパスタ）の"アルデンテ"は"腰（こし）"とは異質（こと）なり、
生意太利麪（なまパスタ）は、水團（すいとん）、餺飥（ほうとう）の屬（たぐひ）。

他方（かたや）、
滑（なめ）らかなるばかりで腰（こし）なき温飩（うどん）・ひもかはの類（たぐひ）も、
僕（やつかれ）嗜好（この）むところ。
「徒（いたづら）に腰（こし）需（もと）むるは邪（よこしま）」と譏（そし）るべき。

有一日（あるひ）、天離（あまさか）る鄙（ひな）の地（ち）にて、
リングイネ・ピッコレほどの手打温飩（てうちうどん）に邂逅（たまさかめぐりあふ）。
小人（それがし）以爲（おもへらく）は、
「これは蕃茄（あかなす）に大蒜（おほひる）が最適（よくあふ）」と、、。

かくて、
近來（ちかごろ）、"生意太利麪（なまパスタ）"で評判（おとにき）く、
當家（こちら）『ヴェッキオ・コンヴェンティーノ』に、、。
越ヶ谷宿（こしがやじゆく）より大畧（およそ）一里（いちり、≒4km）。

"先附（アンティパスト）"、"先菜（プリモ・ピアット）"、三色（みいろ）、
"主菜（セコンド・ピアット）"、"甘味（ドルチェ）"、"咖啡（カッフェ）"、
"赤葡萄酒（さけ）"を加（くは）へ、
對價（あたひ）、二千九百七十圓也（にせんきうひやくなゝじふゑんなり）。

やはり狙（ねら）ひは、三種（みくさ）の"先菜（プリミ・ピアッティ）"。
庶幾（こひねが）はくは、
生意太利麪（なまパスタ）と、
蕃茄（トマト）、橄欖油（オリヴあぶら）、大蒜（おほひる）との協演（かほあはせ）。

駭（おどろ）くべきは、
大蒜（おほひる）の芳香（かをり）なく、
蕃茄（あかなす）の紅色（くれなゐ）を闕（か）くこと。
とは云へ、それを補（おぎ）ひて餘（あま）りある皿（さら）も幾（いく）つか、、。

"桃（もゝ）と薄荷（はつか）の冷製（ひやし）タリオリーニ"：
今（いま）が盛（さか）りの桃（もゝ）の甜（あまみ）と香氣（かをり）に、
薄荷（はつか）の顏色（いろ）と爽（さは）やかさが特色（めをひく）。
"タリオリーニ"の食感（はごたへ・したざはり）も心持（こゝち）よきもの。

"赤鰕（あかえび）と白腰豆（しろいんげんまめ）のカヴァティエッリ"：
"カヴァティエッリ"は嗜好（このみ）から外（はづ）るゝところなれど、
"赤鰕（あかえび）"は想定外（おもひのほか）に甜（あま）く嫩（やはら）か。
冷凍牛鰕（れいとうゝしえび）とは雲壤（くもとつち）ほどの差（たがひ）。

"コルツェッティ"もまた、
小人（それがし）には、水團（すいとん）・餺飥（ほうとう）の類（たぐひ）。
やはり、意太利麪（パスタ）は、
デュラム・セモリナ粉（こ）用（つか）ひたる乾麪（ほしうんどん）が吉（よい）。

葡萄酒高脚杯（ワイングラス）、金屬洋食器（カトラリ）、皿（さら）は安物（やすもの）。
建舎（たてや）も安普請（やすぶしん）。
とは云へ、肉用餐刀（にくやうナイフ）は、Laguiole牌（じるし）を驕奢（おご）り、
和庖丁（わばうちやう）も活用（おほいにつかふ）。

老板（あるじ）湯淺克也（ゆあさかつなり）、
鍋（なべ）を振（ふ）るは、清水（しみづ）師傅（おやかた）。
「近々（ちかぢか）、二店舖目（つぎのみせ）も開業（みせびらき）」
と、東道（あるじ）、眼眶（まなこ）輝（かゞや）かして已（や）むことなし。

御内儀（おかみ）は、生意太利麪（なまパスタ）で高名（なだか）きエミリア・ロマーニャ、
東道（あるじ）と師傅（おやかた）はシチリア、
師傅（おやかた）は羅馬（ロマ）でも修業（わざをならひおぼえし）と云ふ。
饗應（もてなし）に當（あ）たる若者（わかもの）も好漢（よきをのこ）。

因（ちな）みに、この日（ひ）の菜譜（こんだて）は如下（つぎのとほり）：

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【先附（アンティパスト）】
　　小桃（こもゝ）、鰯（いはし）、パテ・ド・カンパーニュ、キッシュ、
　　鰤（ぶり）指身（カルパッチョ）にスペルト小麥（こむぎ）

【麪麭（ぱん）三色（みいろ）】
　　グリッシーニ、フォカッチャ、丸麪麭（まるぱん）

【先菜（プリミ・ピアッティ）】之一、
　　桃（もゝ）と薄荷（はつか）の冷製（ひやし）タリオリーニ

【先菜（プリミ・ピアッティ）】之二、
　　赤鰕（あかえび）と白腰豆（しろいんげんまめ）のカヴァティエッリ

【先菜（プリミ・ピアッティ）】之三、
　　西蘭花（ブロッコリ）とペコリーノのコルツェッティ

【主菜（セコンド・ピアット）】、
　　煎鴨（かもやき）
　　　　鴨肉（かもにく）、オクラ、茄子（なす）、青梗菜（せいかうな）、
　　　　紅椒（パプリカ）、藍莓（ブルーベリ）ソース

【甘味（ドルチェ）】
　　ティラミス、クロスタータ、パンナコッタ、グレープフルーツ・ジュレ

【咖啡（カッフェ）】
　　エスプレッソ
　　茶請（ちやうけ）の カントッチ
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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony） α7 II　無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Pancolar 1.8/50 @F2.4～F4
　　　　　　東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Flektogon 2.8/20 @F8