蒲生（がまふ）には　女夫（めをと）两個（ふたり）の　輕食堂（けいじきだう）　牛（うし）の肉末（ひきにく）　今（いま）は煎（や）くのみ : ラトゥール

およそ"翰堡排（ハムビュルグ・ステイク）"なるもの、
店（みせ）・師傅（おやかた）の個性（もちあぢ）が明々地（あからさま）となりがち。
如何（いか）なる肉（にく）を、什麼（いか）ほどの粗（あら）さに刻（きざ）む歟（か）?
火候（ひいれ）の程度（ほど）、醬汁（たれ）の選擇（えらみかた）、などなど、、。

象（かたち）も味（あぢ）も、構成（くみあはせ）により千變萬化（さまざまにかはる）。
「精麁（よしあし）」は另（さてお）き、
己（おの）が嗜好（このみ）とも照合（てらしあは）せ、
相互（たがひ）に競（くら）ぶるは、實言（まこと）、有趣（おもむきあること）。

此度（こだみ）も、平生（つね）のごとく、
"酒（さけ）"→"前菜（さきづけ、アントレ）"→"禽獸肉（にく、ヴィアンド）"→
"飮料（のみもの、テ）"・"甜點（あまみ、デセール）"、と云ふ流（なが）れ。
"禽獸肉（にく、ヴィアンド）"は"翰堡排（ハムビュルグ・ステイク）"。

劈頭（いやさき）に、赤葡萄酒（あかきえびかづらのさけ）：
この玻璃盞（びいどろこつぷ）は專（もつぱ）ら安酒（やすざけ）に適合（あふ）。
"澀（しぶみ）"、"酸（すみ）"、"馨（かをり）"、
無所尖鋭（ひとつとしてとがりたるところな）く、萬人向（よろづのたみむき）。

扨（さて）、"翰堡排（ハムビュルグ・ステイク）"：
肉（にく）は牛（うし）。
豕肉（ぶたにく）混（ま）づる廚師（もの）多（おほ）しと云へど、
愚老（やつがれ）、牛肉（うしにく）ばかりを粗末（あらくきざ）むを嗜（この）む。

古代夏華（いにしへのもろこし）では祭祀社稷（くにをまつ）るに、"大牢（たいらう）"、
i.e.,（すなはち）、牛（うし）、羊（ひつぢ）、豕（ぶた）を牲（いけにへ）とす。
後世（のち）に、中夏（もろこし）・東瀛（ひのもと）とも、
牛（うし）は農耕（のら）に用（つか）はれ、啖之（これをくら）ふは稀（まれ）に、、。

明治以降（めいぢのみよゝりこのかた）、
「牛鍋（うしなべ）食（く）はぬは開化不進奴（ひらけぬやつ）」©假名垣魯文ぱいせん
と云ふ次第（わけ）で、
牛肉（うしにく）は△「人口膾炙」〇「人口烹炙（おほいにこのまる）」ゝことに、、。

本朝（わがくに）で牛肉（うしのにく）は、
肉片（うすぎり）なら、"犂煎（すきやき）"、"涮牛肉（しやぶしやぶ）"、
"朝鮮烤肉（てうせんやきにく）"は厚（あつ）めに片（そぎゞり）、
肉末（ひきにく）なら、この"翰堡排（ハムビュルグ・ステイク）"が筆頭（なにより）。

倩（つらつら）『ラゥトール』の"翰堡排（ハムビュルグ・ステイク）"と、
他店（よそ）の"それ"とを比較（くら）ぶるに、
『ア・ターブル』の"それ"や『ジラソウ』の"あれ"より、
牛（うし）の風味（あぢ・かをり）が强（つよ）く、ドゥミグラスも嗜好（このみ）。

愚按（やつがれおもふに）、
搭配（つけあはせ）・裝盤（もりつけ、よほほひ）を含（ふく）め、
"翰堡排（ハムビュルグ・ステイク）"に限定（かぎる）なら、
日光街道沿（につくわうくわいだうぞ）ひでは當家（こちら）が頂點（いたゞき）。

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【暗匣】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 III 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：旭光學 S-M-C 琢磨（Takumar）1.8/55 @F2.8

久方（ひさかた）ぶりの『ラトゥール』。
此度（こだみ）も、"漢堡（ハンブルグ）定食（ていしよく）"。
これに、前菜（アントレ）と飮料（のみもの）が附屬（つく）。
甜品（デセール）はこれとは另（べつ）。

"ドゥミグラス"に限定（かぎ）るなら、
東都（えど）の有名店（なのあるみせ）に無遜色（ひけをとらず）。
"酸（さんみ）"、"苦（にがみ）"、"甜（あまみ）"の均衡（つりあひ）たるや、
窮（きは）めて高水準（たかきところにあり）。

御内儀（おかみ）に據（よ）れば、
「"甜（あまみ）"は洋葱（たまねぎ）、
"酸（さんみ）"と"鮮（うまみ）"は赤葡萄酒（さけ）に加（くは）へ、
蕃茄（あかなす）に起因（よ）るもの」と、、。

惜（を）しむらくは、牛肉（うしのにく）の粗挽（あらび）きならざること。
叶（かな）ふなら、價格（ね）は高（たか）くとも、
『リトルリマ』のごとく上等牛肉（よきうしのにく）を粗挽（あらび）きにし、
この"ドゥミグラス"で餐（くら）はゞ、もはや遺憾（おもひのこすことは）なし。

しかはあれど、
唐山（もろこし）の點心（むしやしなひ）に瞻（み）るごとく、
粗挽（あらび）きよりも手截（てぎり）りこそ理想（それがしがねがふところ）。
肉挽機（にくひきからくり）では過均一（ひとしくなりすぐ）る憾（うら）みあり。

米飯（こめのいひ）のあまりの美味（うまさ）に吃驚（たましひをうばゝる）。
粒（つぶ）が立（た）ち、しかも舌（した）に滑（なめ）らか。
臼齒（おくば）で噛締（かみし）むるに、粘（ねば）ること糕（こなもち）のごとし。
蝦夷地（えぞち）の粳米（こめ）"ゆめぴりか"とのこと。

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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 II 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Pancolar 1.8/50 @F2.4

「上質（よ）き小餐館（ビストロ）あり」との評判（うはさ）を耳（みゝ）にし、
蒲生（がまう）なる停車場（ていしやば）まで遠征（とほで）。
この近邊（あたり）とならば、僕（やつかれ）、西口（にしぐち）『ジラソウ』。
當家（こちら）東口（ひがしぐち）『ラトゥール』には所縁（ゆかり）なし。

勿駭（おどろなかれ）、
今猶（いまなほ）東口（ひがしぐち）には、居多（あまた）商家（あきなひのいへ）、
軒（のき）を連（つら）ね、甍（いらか）を爭（あらそ）ふ。
その縁由（ことのよし）不詳（つまびらかならず）。

開店（みせびらき）と同時（ひとし）く、舖内（なか）に、、。
菜單（しながき）より選擇（えら）みしは、
"晝飧特別套餐（ひるめしとくべつコース）"、
對價（あたひ）、二千二百八十圓也（にせんにひやくはちじふゑんなり）。

金屬洋食器（カトラリ）は使（つか）ひ廻（まは）し、
桌布（テーブル・クロス）、餐巾（ナプキン）もなく、
如何（いか）にも"Bistro（ビストロ、めしや）"と云ふ風情（おもむき）。
招牌（かんばん）に虚僞（いつはり）なし。

とは云へ、
"Amuse-gueule（アミューズ・グール、おとほし）"に始（はじ）まり、
"Dessert（デセール、くわし）"に終（を）はる一連（ひとつゞき）の流（なが）れ。
"Bistro（めしや）"と云ふより"Restaurant（れうりぢャや）"。

"Hors d'oeuvre（オルドゥーヴル、さきづけ）は温冷（おんれい）二種（ふたくさ）。
主菜（しゆさい）として、
"Poisson（ポアソン、うを）"、"Viande（ヴィアンド、けだものにく）"の、
二者擇一（ふたつよりひとつをえら）む流儀（やりかた）。

およそ、"椀（わん）"・"湯（しる）"の類（たぐひ）は、
鋪（みせ）の格（かく）、師傅（おやかた）の技倆（うで）を映（うつ）す鏡（かゞみ）。
當家（こちら）は、"Entrée（アントレ、さきづけ）として提供（いださる）。
この日（ひ）は、南瓜（かぼちやうり）の泡仕立（うたかたじた）て。

小人（それがし）、
かゝる泡（うたかた）塗（まみ）れの湯（しる）より、"清湯（コンソメ）"を嗜（この）む。
"Amuse-gueule（アミューズ・グール）"には、
"清湯（コンソメ）"も用（つか）はれてゐるとの由（よし）。

その風味（あぢとかをり）を檢（あらた）むるに、
"Fume de poisson（フュメ・ド・ポアソン）"、
すなはち、何（なん）らかの魚骨邊肉出汁（うをあらのだし）の類（たぐひ）なるべし。
外見（みため）もよく、味（あぢ）もなかなかのもの。

とは云へ、
季（とき）に適（かな）ふ"淺蜊（あさり）"はいざ知（し）らず、
"楚蟹（すはへがに）"は上物（よきもの）にあらず。
價格（ね）が價格（ね）故（ゆゑ）致（いた）し方（かた）のなきところ。

"麪麭（ぱん）"はと見（み）るに、
尤（いと）陳腐（つまら）ぬ貨物（しろもの）。
東都（えど）なら五十年前（いそとせまへ）の技術水準（しごとぶり）。
"黄油（ばた）"は眞正（ほんもの）。

纔（わづ）か二千圓餘（にせんゑんあまり）の價格（ね）で、
手間（てま）のかゝる"千層酥（ミルフィーユ）仕立（じた）て"にするなど、
實言（まこと）、
師傅（おやかた）の手煆煉（てだれ）なるは明白（あきらか）。

盤（さら）の盛附（もりつ）け・飾附（かざりつ）つけも、
平凡（なみ）の小餐館（ビストロ）とは雲壌（くもとつちほど）の相違（たがひ）。
御内儀（おかみ）に據（よ）ると、
「東都（えど）法國餐廳（フランスれうりや）にて習得（わざをならひおぼえたり）」と。

扨（さて）、"Viande（ヴィアンド）"の"漢堡排（ハンブルグ・ステーキ）"：
紅葡萄酒（あかぶだうしゆ）の酸（さんみ）が效果的（うまくき）ゝ、
牛肉（うしにく）の挽方（ひきかた）も適度（ほどよ）く、
實（げ）に、「極附（きはめつき）漢堡排（ハンブルグ）」。

『木村洋食店』のそれは、
ドゥミグラスの量（かさ）が多（おほ）く、苦味（にがみ）も活（い）き、
絶品（このうへなきあぢはひ）。
なれど、紅葡萄酒醤（あかワインソース）を前（まへ）に無顏色（かほのいろをうしなふ）。

萬事（よろづ）そつなき洋食（やうしよく）『ジラソウ』も、
肉（にく）を細（こま）かに挽（ひ）き過（す）ぎ、
徒（いたづら）に粉山葵（こなわさび）に頼（たよ）るが難點（こまりもの）。
ドゥミグラスの「複雜玄妙（ふか）み」も今一（いまひと）つ。

以爲（おも）ふに、
およそ"ドゥミグラス"なる醤（ソース、ひしほ）、
あまりに丸（まろ）く、旨味（うまみ）が強（つよ）く、
「締（しま）りに虧（かく）」との誹（そし）りを免（まぬか）れず。

かゝるが故（ゆゑ）に、
ある師傅（おやかた）は酸（さんみ）を足（た）し、
ある親方（おやかた）は長期間（ながら）く煮詰（につ）め苦（にがみ）を加（くは）へ、
またある掌廚（おやかた）は辛（からみ）の類（たぐひ）に依存（たよ）ることに、、。

寧（むし）ろ、叮嚀（ねんごろ）に制作（つく）りし"紅葡萄酒醤（あかワインびしほ）"は、
"ドゥミグラス"よりも"漢堡排（ハンブルグ・ステーキ）"に適（あ）ふ。
蟹（かに）も扇貝（ほたて）も麪麭（ぱん）も今一（いまひとつ）なれど、
寔（まこと）、鄙（ひな）には稀有（まれ）なる佳鋪（よきみせ）。

因（ちな）みに、この日（ひ）の菜譜（こんだて）は如下（つぎのとほり）。

・Amuse-gueule（アミューズ・グール）：
　　"楚蟹（すはへがに）と蛤仔（あさり）雞尾高脚杯（カクテルグラス）仕立（したて）"
・Hors d'oeuvre（オルドゥーヴル）：
　　"生火腿（なまハム）と地瓜（さつまいも）の千層酥（ミルフィーユ）仕立（じたて）"
　　"煎扇貝（ほたてがひポアレ）"
・Entrée（アントレ）：
　　"南瓜湯（かぼちやじる）カプチーノ仕立（じたて）"
・Viande（ヴィアンド）：
　　漢堡排（ハンブルグ・ステーキ）紅葡萄酒醤（あかワインソース）
・Dessert（デセール）：
　　"草莓（いちご）パルフェ"
　
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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony） α7 II　無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Pancolar 1.8/50 @F1.8～F2.4
　　　　　　東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Flektogon 2.8/20 @F5.6～F8
　　　　　　東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Flektogon 2.4/35 @F4