『「こころの王国」にみる昭和初期の料理店』やすんごさんの日記

来た、見た、食べた =思考する胃袋=

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日記詳細

最近、猪瀬直樹氏の「こころの王国」を読んだ。4年ほど前に出版された小説だが、文庫本にもなったので読んでみた。文藝春秋を創設した大正から昭和初期にかけての人気作家、菊池寛をテーマにした小説だ。秘書の女性である「わたし」から見た形で菊池寛が実によく描けている。

猪瀬直樹氏というと道路公団でミソをつけたというか、だいぶ苦労したと思う。しかし道路公団の仕事をしているのと同じ時期に書かれたこの小説では、若い女性秘書「わたし」の女性口調で昭和初期のモダニズム文化が生き生きと描写されている。この作家の才能のきらめきを感じさせる作品だ。

現在、この小説を原作にして、西田敏行、池脇千鶴の主演で映画「丘を越えて」が撮影中だ。本年の夏頃に公開される見込みという。映画が上映されれば是非見に行きたいと思う。

と、小説や映画ネタのような日記になったが、本題はここからだ。この「こころの王国」では、昭和初期の銀座、新橋周辺のレストランや割烹での料理が大変詳しく描写されているのだ。新橋の末げん、銀座の浜作、根岸の笹乃雪、横浜の太田なわのれん、銀座の資生堂パーラーなど、現在も営業を続けている名店が出てくる。店の料理が詳細に語られることにより、菊池寛の描写にすばらしいリアリティが加わっている。

そんなこともあり、新橋の末げんに寄ってみた。この店は、三島由紀夫が割腹自殺の前夜「盾の会」隊員と食事をしたので有名な店のようだが、さらに菊池寛までさかのぼることができるのであるから、菊池寛、川端康成、三島由紀夫という日本文学の系譜がこの店にも脈々と流れていることになる。

こうした歴史的な背景や小説と関係をみながら、お店を訪問することにより、料理もさらに味わいが深くなるというものだ。機会があれば、別の店にもいってみたいと思う。
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