2回
2016/12 訪問
シリーズ マカオ・カツ・サンドに着目する
マカオには豚の唐揚げというかカツというか、とにかく社会通念上 Costoletta Cotoletta Cotolette Cutletと分類される部位、つまり、日本語で言うところのロース肉を揚げた、中華風に言えば炸排を、地元風のパンに挟んだいちめい猪扒包という、一種のカツサンドというかカツレツバーガーみたいなものが、あり、広く一般に口にされている
…という記事を繁体字で意味をボンヤリと想像しながら読んだのは前世紀の終わり頃だったか?
掲載されていたのは多分、香港の大衆紙蘋果日報の出版している娯楽誌「飲食男女」 へえ、カツサンドがポルトガルの植民地で独自の進化をしてるとは面白いね、食べ歩きでもしたいもんだ、と思ったもの、酔狂で飲み食いのため「だけ」に参るにはマカオは遠い。
そしてマカオに行く時は行く時で別の用向きがある訳だから、時間を工面してカツサンド、というのも厳しい。
かくしてそのうちいつか、と思っているうち、15年以上が経ってしまった。
が、今回、ようやく数日のマカオ連泊の用ができ、しかも午前中は比較的自由になる時間が持てたので、遅い「朝めし」を兼ねて回る。
朝からカツサンド、というのも寄る年波の中高年としてはどうかと思うが、幸いにというか、仕事には入れは昼抜きで夕食まで物を口にする事がないスケジュールが組まれていたので実行の運びとなる。
セナド広場からほど近い路地のパン屋。 その奥のガレージか物置みたいな納戸状のスペースが食堂がわりになっている。
お清潔好きな神経質な向きにはぞっとしないかもしれないが、1990年代からコーヒーショップ、カンポンハウス、茶餐廳…と東南アジアの一膳飯屋を経巡ってきた人間にはどうという事もない普請。
品書きを見るやくだんの猪扒包を指差し、初老注文取りの紳士にニヤっと、自分では不敵だと思っている表情を浮かべてやると、苦虫を噛み潰したような顔をしながら厨房に声をかける。
猪扒包には浄琲に決めている。
決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。
もしあるとすれば、延髄反射で熱珈琲(いーがーふぇー)と注文してしまうと、コンデンスミルクがブチ込まれた激甘コーヒーが問答無用で供されるから、というのは、華僑社会の茶餐廳なる形態の店に四半世紀近く出入りしていれば #冷徹な事実 どころか、常識以前だから黙っている。
そう思いながらスウィス・ネスレ社謹製ネスカフェを飽和まで溶かし込んだと思われる、漆黒のコーヒーに口をつけ、くだんのサンドウィッチに対面すると、バンズというより薄皮饅頭の皮みたいに卵黄で照りをつけられたパンは、薄甘くフニャフニャしていて学校帰りの買い食いを思い出させ、センターに配置された肉塊は、予め付けられた調味が思いの外軽く、衣もカラアゲ風、やる気をなくした万世パーコー麺の中身みたいな調子だが、その軽さがパンには調和しており、全体は纏まっており、ふうん、それなりに工夫されてるんだなと、他の店のものも試してみたくならない、事もない。
ちなみに】
こちらの店名、広東語読み(というかガイジンさんのガイドブック的には)では表題の通りであるが、漢字で表すと「金馬輪咖啡餅店」である事、タメネン申し添えておく。
2016/12/28 更新
一年ぶりに再訪。
豚バラにお醤油主体の上漿(下味)を施し、粉を叩いて揚げる炸排(骨)は、中国でも華南ではなく、上海など江南地区のくいもの、という事に「なってい」て、コレを湯麺に浮かべれば排骨麺、刻んで炒めた菜っ葉と炊き込んだり、混ぜ合わせた「菜飯(ツァイファン、広東語だとちょいふぁん)」に乗せれば排骨菜飯となり、一膳飯屋の一品として広く人口に膾炙されていることは、常識であり、社会通念であり、ワールド・ヴァリュー(世界基準©️副島隆彦)である事、いうを待たぬ。
ところがその炸排が、旧ポルトガル領、植民地時代のマカオで、あろうことか西欧のパンと出会い、
「麺や飯に合うんだから、パンだって良かろう」
くらいの乱暴な成り立ち(わたくしの予断、独断である)で出来上がった猪扒包なる一種のカツサンド、というか「豚から揚げパン」
いまや界隈のB級グルメの代表的存在となって久しい。
この島に上陸すると、一度は口にしなくてはいけない「ような気に」なり、おなじく大街に並ぶ「勝利茶餐廳」とどちらに行こうかしら、と思いながら、もともと惣菜パンとしての出自? に敬意を払い、こちらへ。
店先はいわゆる西餅麵包店(けーきとぱんのみせ)の設え。帳場を通り過ぎ、中に入ると食卓とボクスシートが若干。
ぞーさん、やっわい、と「青い鳥」時代の桜田淳子さんみたいに人差し指を立てて入っていくと、形而上の姐さまから、アゴで
「空いてるところに適当に座れ」
とやられ、腰を下ろす。
注文は、猪…と、言いかけると
「ポー(ク)チョッ(プ)バン、な。OKOK」
と、以心伝心。
というか、わたくしを含め、物好きな旅の悪食が、みんな頼むのであろう。イヤハヤ。
そして飲み物は、朝からコンデンスミルクで血糖値をぐい! と上げてもしょうがないので、齋啡。
運ばれてきた御菜は別掲シャシンないしシャシンのコメント欄に当たっていただきたいが、「ポルトガルの記憶」がそうさせるのか、肉を挟んだコッペパンがどこかドイツのBrötcheを思わせる、「ヒナにはマレな」というか「ギャベージ・キャンにクレイン」というか、思いのほかしっかりしてい、皿を掴み、全体をしげしげと眺めてみると、肉の端がチョロリとはみ出ており、成型肉的なものではなく、しっかりと一枚の豚バラを手作りで割烹しているさまが分かり、バタやマーガリン、ショートニングなどの触媒、或いは/及びソースやケチャップなどのコンディメンツを伴わない味わいは極めて素朴ながら嫌味なく、菓子パン、惣菜パンにありがちな「お八つ感覚」ではなく、しっかりとした一食として成立しているさまに、ふと、フランクフルトメッセの会場内、立ち食いスタンドで食べたSchnitzel mit Brötchenを思い出し
…とは、ちょいと言い過ぎ、褒めすぎだネ、はは、と、誰にともなく呟いて、ニヤニヤしない、事もない。