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夜の点数:4.0
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~¥999 / 1人
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料理・味 3.5
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|サービス 3.0
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|雰囲気 4.0
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|CP 4.5
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|酒・ドリンク -
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[ 料理・味3.5
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| サービス3.0
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| 雰囲気4.0
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| CP4.5
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| 酒・ドリンク- ]
レアビーフのフォー 優しいベトナムに癒される
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金明孟宗竹
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改めて訪問。今度はフォーボータイ。
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ハーブの香りが爽やかな生春巻き
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2022/01/20 更新
難しい仕事が続いて疲れると、ここのフォーボータイ、レアビーフのフォーが無性に食べたくなる。野菜のブイヨンが香る滋味深いスープ。シャッキリさと柔らかさの絶妙な中間点で茹で上げたライスヌードル。しゃぶしゃぶのような薄切り牛肉に絡む、薄切り玉ねぎの爽やかな香り。
緊急事態宣言の営業時間短縮で、なかなか行くことができなかった。今回やっとタイミングが訪れた。ラストオーダーに間に合うか微妙な時刻。オフィスを飛び出し大急ぎで飯野ビルへ向かう。霞ヶ関駅を出て地下レストラン街へ降りるエスカレーターの速度ももどかしく、駆け降りたい衝動を抑えつつお店の前に到着。
店頭では、オーナーの南さんがベトナム透彫の飾りを店内に片付けているところだった。
「すみません。お店、まだ入れますか?」
「お食事ですか?」
「はい。食べるものはもう決めてます。フォーです!」
息せき切ってフォーに力を込める私を見て、南さんが微笑みながら
「お食事、大丈夫ですよ。ゆっくりどうぞ」
と席に案内してくれた。
メニューを渡される。ラストオーダーの時間が近い。急がなくては。
レアビーフのフォー。久しぶりに来たので、メニューの何処のページ辺りにあったか忘れてしまった。ページを急いでめくっていくと、あった!牛肉のフォー。フォーボー。
「フォーボー、お願いします!」カウンターに立つ南さんに声をかける。
「フォーボーですね。」
待つこと暫し。供された牛肉のフォー。何と、ビーフがレアでない!火の通った肉が載っている。
先ほど急ぐあまり、私が注文を間違えたのだ。レアビーフは、フォーボータイ。後ろにベトナム語で半生を意味するタイが着く。注文の時、きちんと日本語で「半生牛肉のフォー」と言えばよかった。常連を気取って中途半端な知識しかないベトナム語を使ったのが敗因だった。
牛肉のチョイスは間違えたが、スープの良い香りが湯気と共に上がって来る。蓮華で一口啜ると優しい味が舌に広がる。仕事の緊張で強張った肩の力が解きほぐされていく。ああ来てよかった。ライスヌードルも茹で加減絶妙。麺の量が多過ぎるが、美味しいのでついスルスルと頂いてしまう。
フォーに添えられた、瑞々しい生唐辛子がまたいい。半分位食べ進んだところで、生唐辛子を少し蓮華に取ってスープに溶かす。半切りのライムを絞る。そうするとスープが最初の柔らかい味から凝縮感のある引き締まった味に変化する。生唐辛子を少しずつ加えていくことで、味の変化のグラデーションを楽しめる。
「フォーボー、如何ですか。」南さんが声をかけてくださる。
「ラストオーダー間際にすみませんでした。美味しいです。でも本当は、フォーボータイを頼むつもりで間違えてしまって。以前よくここで食べてたんです。転勤で東京を数年離れて。暫く前に帰ってきたんですけど、コロナでなかなか来られなくって。今日久しぶりに来られてよかったです!」
「そうですか。嬉しいなぁ。お店、普段はもう少し長く開けているんですけど、今日はそこ予約が入っているので、混まないように早く閉めていたんです。」と十人位が座れる奥の長テーブルの席を差しながら仰る。
その時ちょうど、カジュアルだが清潔感のある身なりの、50歳前後に見える四人の男女がお店に入ってきた。ベトナム語で南オーナーと挨拶を交わすと、奥の長テーブルに間隔を広く開けて着席した。日本人は、GoToキャンペーンで気が緩んで以来、飲食店で平気で密になって騒いでいる人が多いのに、日本政府の要請を真面目に守るベトナム人の皆さんの姿に、複雑な心境になった。
去年の秋頃、ベトナム人の不法残留者が豚や高級ブドウを盗んだと言うニュースが連日大々的に報道された時期があった。当然のことながら、日本で暮らすベトナム人の殆どは南オーナーや、今そこの長テーブルでソーシャルディスタンスを取って静かに食事をされている方たちのような真面目な人達。ベトナム人に関する悪い報道が続いた時期、辛く心を痛めておられたと思う。
店のオーナー南雅和さん、ベトナム名ジャン・タイ・トゥアン・ビンさんはサイゴン生まれ。ベトナム戦争後、ハノイに共産主義の新政権が樹立。旧南ベトナム政府の官僚だった父親が新政権側に逮捕され、山間部の収容所に連行された。南さんの祖父、叔父も旧政府の官僚だった。
家族離散、悲しみと混乱の中、14歳の南さんはサイゴン郊外の河から木製ボートで祖国を出た。南シナ海を漂流し、食糧も水も尽き死を覚悟した時、沖縄水産高校の実習船「翔南丸」に救助された。曲折を経て、難民収容所で日本語を学び、更に学ぶため奨学金を得て日本の高校に進学、大学も卒業した。
就職した日本企業の駐在員としてベトナムへ赴任し、改めて故郷の味に触れた。その美味しさを第二の故郷、日本に伝えたいとの思いが募り、ベトナム料理とベトナム文化を研究。日本に帰国後、レストランで働いて経営を学びながら資金を貯め、6年余の準備を経て「イエローバンブー」を開いた。
イエローバンブーの和名は金明孟宗竹。金色の幹に緑の縞が入った珍しい竹。中国で竹と祝は同音で縁起の良い植物として愛でられる。ベトナムでもそうだろうか。竹は生命力が強い。育つ土地にしっかり根を下ろし、天に向かって真っ直ぐ伸びる。幹はしなやかで、激しい風雨が吹きつけても倒れない。
「今度はフォーボータイ、また食べに来てくださいね。」お店を出る時、南さんが優しい笑顔で見送ってくれた。この店は、料理だけでなく、ベトナムという国の魅力に癒される場所でもある。近いうちにフォーボータイ、レアビーフのフォーを必ず食べに行きますね。
オーナー南雅和さんに関するストーリーはこの記事で知りました。
朝日新聞 2019年7月8日「実習船が救った元難民、36年ぶりに船長と再会へ」