1回
2022/04 訪問
沈黙 Part2（ジェノベーゼ100皿目）
消された卓上ランプ
貝殻シート
間接照明
スプマンテ
トロフィエ
ペスト
ぐるぐる混ぜ混ぜ
この後…
2022/05/08 更新
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このレビューは「沈黙」の続きとなります。よろしければそちらを先に訪問されてから、以下をお読みいただければ、より楽しめます。
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ジェノベーゼ100皿目。
カハラホテルは元々ハワイのリゾートホテルです。
だからでしょうか、こちらの建物は『波』をイメージした造形となっています。
そしてその最上階、波の先端がこちらの「リストランテ オッツィオ」となります。
フォローさせていただいている方のレビューにて、こちらでは期間限定で「モルタイオ調理によるジェノベーゼを出している」という事を知りました。
私はmatome記事を作ってしまうぐらい、ジェノベーゼが大好き。
そしてモルタイオ(乳鉢)を使った、昔ながらの調理法に強くひかれます。
日本にジェノベーゼを出す店は星の数ほどあれど、モルタイオで調理している店は10に満たないのではないでしょうか。
この規模のホテルともなれば、メニューは会議等で決めるのでしょうから、提案者も決定者も奇跡的に人を得たとしか思えません。
「これはもう絶対に行かないと！」と思った私はいろいろ下調べをします。
『完全予約制』『会員制』『ドレスコード』などの文字が目に入ってきますが、そのへんは何とでもなるでしょう。
……問題は内装でした。恐るべき事実が明らかになりました。
なんと席の多くは『貝殻』をあしらったシートだったのです。。。
貝殻を模した巨大な背もたれに包まれるような形状となっており、さらに隙間からは間接照明の光がもれてムードを出します。
これはもう、横浜港の夜景を目的にした、カップルシートであります……。
しかも悪い事に、私の世代には『貝殻』に関して気恥ずかしいと言いますか、赤面してしまうような思いがあるのです。
ハッキリ申し上げて、それは武田久美子さんの、ホタテ貝殻の水着写真集であります。
我々より上の世代の方であれば「あったあった、あれは衝撃的だったよね～♡」ですまされるのかもしれませんが、多感な年頃だった我々にとっては、また別の思いが発生します。
ちなみに、この貝殻写真集はハワイのモロカイ島で撮影されました。「もろ、貝」だからでしょうか？
その後、武田久美子さんが旅番組に出演したりすると、夕食には必ずホタテ貝が出てくるようになりました。
運営会社が「ハワイっぽいイメージで」と発注したのを、真面目なデザイナーが、貝殻というイメージ一本で頑張ってしまったのでしょうか？
武田久美子＝貝という事を知らない、若手なのでしょうか？
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ああ、神よ！ 何故あなたは私に苦難をお与えになるのですか？
私はたんにジェノベーゼというパスタが好きな、ただのオッサンなのです。
モルタイオ調理で出すというお店に、行かずにはいられないだけなんです。
いくら、いくらなんでも、このお店に一人で入店しろというのは酷ですよ。
……しかし神からの応えはなく、ただ沈黙があるのみ。
「もうダメだ」そう思いかけたとき、発見しました。まさに、陰極まって陽に転ずる。
ジェノベーゼの神は信じる者をけして見捨てません。
カハラホテルを買収したのは、リゾートトラスト株式会社で、東証プライムに上場してるじゃないか！ ①株の購入を考えている投資家を装えばいいのだ！
「レストラン事業は回復基調という事でよろしいのでしょうか？ ベイコートやメディカル事業の先行きは？ 今後、増配は期待できますか？ ね？ね？ね？ こんなに真面目に投資について訊いているのだから、『ジェノベーゼが食べたいけど貝殻が気恥ずかしくて、それを誤魔化すために
投資家を装っているわけ』では無いことは分かりますよね？ね？ね？」……練習、ヨシ！
それでも私の目論見を喝破しようとする店員さんがいたならば、②罰ゲーム、で押し通せばいい。
「いやー、友達と賭けをしたら負けてしまいましてね、オッサン一人でラブチェアに座っているのは、罰ゲームだからなんですよ。罰ゲーム。だから変なムードを出す必要はないですから、ね。ね。ね。
……ひいぃっ！らめぇ～！ 卓上の照明を付けないでください。こんな真昼間から何やってるんですか。オッサン相手にそんな演出はいりましぇん」……練習、ヨシ！
もう大丈夫だ。しかし念には念を入れるのが私の主義。③近くにある「アンパンマンこどもミュージアム」に入ろうとしてたのに、間違えてこちらに来てしまった、というのはどうだろうか？
「ありゃりゃ、アンパンマンレストランだと思ったら、どうも勘違いしてしまったようです。でも、もうこちらでいいです。引き返すのも面倒ですしね。え？『完全予約制』なんですか？奇遇ですね、実はこちらに予約を入れてるんですよ。え？『意味不明』ですと？ そりゃそうですよ、当人である私が一番意味不明なんですから」……号泣、ヨシ！
この対策案にも神は沈黙を守っていましたが、私はお墨付きを与えられたからだと、勝手に思う事にしました。
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私は「ザ・カハラ・ホテル＆リゾート 横浜」の波型のビルに入り、来意を告げます。
案内され、目の前にあらわれた席は、やはり『貝殻』でした…… (;´▽｀A
■パッシオーネコース、その他スプマンテやワインなどを注文
店のジャンルはイタリアンですが、出される料理はまるでフレンチのよう。
端的に言ってしまえば、フレンチのコースにパスタが付け足された様な料理であります。
しかし、このパスタが尋常ではないレベルでした。
高級イタリアンでも、簡単に見る事はできない皿です。
「アンティークトロフィエ ポテトとインゲンのペストジェノベーゼ モルタイオですりつぶすクラシックスタイル」
トロフィエは手打ち。
トロフィエにはいろいろな打ち方があるようですが、こちらのはおそらく小指球で生地を巻き込むようにし、その後、成形にも手間暇かけたものでしょう。
そしてバジリコのペスト(Pesto)ですが、旬でないにしては香りが鮮烈。
ペストとパスタが別皿で提供されましたが、これは熱で香りを飛ばさないよう気を使った、という事なのでしょうか？ まさか、オリーブオイルを少な目にしようとした目論みから発展した可能性はないだろうか？
ペストは各食材が適正なバランスの範囲内のときに、その美味しさが発生します。
こちらのは、オリーブオイルが下限値と思われるほどに固く、団子状に整形できるぐらいです。
実は「エクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイル」という等級が設定されたのは1991年なのです。どうもこのオイルは、北イタリアの人々にとっては癖があり重く感じるようです。
一方ペストは九世紀のジェノバにまでさかのぼれます。
ということは、エクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルは、ペストにとって最適な食材とは限らない。
その塩梅まで考えて、大塚浩介シェフが試行錯誤した結果がこの固さなのでしょうか？
彼の師は「ロオジエ」のジャックボリーとの事で、私のようなフレンチ音痴でも知っているぐらい。
私は「ホテル料理は、甘塩酸苦旨すべての味があるのに、面白味だけがない」なんて揶揄したくなってしまうのですが、ちょっとこの考え方はもう古いのかも。
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店を出て駅に向かう途中、アンパンマンこどもミュージアムが見えてきた。
建物の前には巨大なアンパンマン像が立ち、親子連れが記念写真を撮っている。
日本は、平和だ。
「神よ、神よ、ジェノベーゼの神よ。ありがとうございます。おかげさまで今日も、美味しいジェノベーゼを食べる事ができましたよ。これからもよろしくお願いしますね」
そのつぶやきにも神は沈黙を守ったままだったが、アンパンマン像はいつのまにか水着姿の武田久美子に姿を変え、私を見ながらニコりとほほ笑んだような気がした。