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カレイの上にあん肝が
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白子 香澄ガニのフラン 器が美しい
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鴨の煮込みをパスタとチーズで包み、色気漂う器で
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カウンターの横の席
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黒トリュフの下に、フカヒレが隠れる
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牡蠣のフリットに、フォアグラと味噌のソース
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締めの麺の器も美しい
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ルーアン鴨のロティ
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黒鮑をハマグリのソースで
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甘鯛の鱗焼きの器
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テーブルセッティング
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マンションの一室のような入口
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香澄ガニと白子のフランの中身
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カシスのパン
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甘鯛の中身
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やっぱりラギオールは重い
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締めの麺の中身
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デセールとコーヒー
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コーヒーカップまで素敵だ
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カウンターの右側
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カウンターの前にグラスが並ぶ
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入ってすぐの飾り
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朱が入る棚に色気が
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テレ朝通りから一方通行の細い道を曲がると、元麻布の静かな住宅街が広がっている。
少し歩けば六本木ヒルズの賑やかさに囲まれるであろうこの場所も、夜も更けてくればそんなことを忘れるほどの静けさに包まれる。本当に誰ひとり歩いていない。
空を見上げれば、満月が美しく輝いている。きれいな丸みを帯びているから満月に見えたが、本当に満月かどうかはわからない。天文学的な意味よりも、どう感じるかのほうが大切な気がする。
エクアトゥールはこんな静かな場所にひっそりと店を構えており、有名店でなければ隠れ家という他ないだろう。予約の時間が迫ってきたので、僕は車を降りてお店に向かう。
店の前にはタクシーが何台か停まっている。一斉スタートなので、同じようにエクアトゥールを訪れるひとたちだろう。一階のかんだの前を通り、狭い階段を昇れば、マンションの一室のようなエクアトゥールの入口にたどり着く。
本当にここでいいのだろうかとお店の扉を開けると、個室利用の集団が賑やかにお喋りしている。すぐに女性スタッフが現れる。そして上着を預けて、カウンターへ案内してもらう。カウンターは6人座れて、なぜか今夜は真ん中の席に案内される。神通力はどこにいったのだろうか。
とは言え、黒いカウンターは奥行きがあり、椅子は深く、席間隔はかなり広い。想像していたよりずっと落ち着けるし、肩肘張らずに座っていられる。
椅子と壁はきなり色であり、壺が飾られる棚には朱が入り、さりげない色気が漂っている。目の前には美しいグラスが並び、JAZZピアノが静かに流れている。高級感や色気はあるが、暖かさもあり、夢心地のする素敵な空間だ。
カゲロウにいた女性を見かけたので話しかけると、端っこに座られていた方ですよね、としっかり覚えている。輪の外側にいても、印象に残ることもあるのだろうか。オーナーのマダムはワインの買付けでフランスにいっているとのこと。
さて、この日のコースは以下に。
1.カレイ あん肝
白い岩を切り出したような美しい器に、幻の高級魚マツカワカレイの刺しを敷いて、スライスしたあん肝、いぶりがっこを載せ、キャビアをこぼし、花穂紫蘇を美しく飾る。クチポールのフォークナイフを添えてなければ、懐石料理のようなひと皿だ。
いぶりがっこの食感をアクセントに、旨味を含んだカレイの身が滑らかに舌の上をすべり、キャビアの塩味や口溶けのあん肝の旨味と重なりながら、喉奥へと消えていく。予想に反して、しっかり味がキマッており、始まりから美味しい。
2.白子 香澄ガニ
香澄ガニの餡を重ねたフランに、炙ったフグの白子の味噌漬けを載せ、美しい和茶碗に収められる。ここは本当に器がきれいだ。
茶碗の蓋を開ければ、魅惑的な香りがふわっと浮かび、スプーンですくって口に入れると、白子の口溶けと熱を帯びるフランの透明感ある味わいの中で、カニの強い旨味が膨らみ、たまらなく美味しい。
これは和食であり、中華であり、フレンチであり、このひと皿だけでも美味しさに国境がないことを象徴している。
ここでカシスのパンが供されるが、こちらも甘みがあり、美味しい。
3.黒鮑 ハマグリ
黒鮑と栗芋に、中華の餡のようなハマグリのソースを合わせて、柚子を削り落として薫りづける。
柚子よりも海鮮の薫りが鼻の奥まで抜け、口に含めば、歯触りのいいアワビを包むように、旨味たっぷりのハマグリの餡が絡みつき、こちらも格別に美味しい。葱までも薫っているような気がする。
訪れる前はぼやけているかもしれないと思っていた味の輪郭も、実際に口にしてみればしっかりと味がキマり、はっきりと鮮明に浮かび上がっている。自分好みの味わいだ。
4.鴨 パスタ
光沢のある赤い器が美しい。鴨肉の煮込みをパスタとチーズに巻いてオーブンで焼き、チョリソーとパプリカのソースを合わせる。和皿に載せられているが、器は熱く、イタリアンのようなひと皿だ。
パスタの舌触り、チーズの風味、温かさに包まれる鴨肉の繊維に隠れる旨味が自分の舌を襲う。一転、塩味を控え、コースに緩急をつける。
5.甘鯛 海老
甘鯛の鱗焼きに、ホワイトタイガーの出汁を合わせ、銀杏を包んだ海老しんじょうを浮かべる。
海老が薫り、旨味たっぷりの出汁に絡みつつ、塩味を効かせた甘鯛が口溶けしていき、たまらなく美味しい。本当に味の輪郭は鮮明だ。
フレンチならポワソンに当たるのだろうが、このひと皿は限りなく懐石料理に近い。下皿に載る陶器のお碗も、どこか侘びていて美しい。
6.牡蠣 フォアグラ
北海道の牡蠣のフリットに、西京味噌とフォアグラのソースを合わせて、柚子を削り落として薫りづける。
茶禅花で感じたが味噌のソースは格別であり、ミルキーな牡蠣の口溶けに、フォアグラの風味と味噌の旨味が重なり、たまらなく美味しい。もはや小野シェフに料理の境界線はない。
7.フカヒレ 黒トリュフ
やや小ぶりのフカヒレの煮込みに、トリュフ塩の餡かけを合わせて、黒トリュフを削り落とし、アクセントにおこげを添える。朱と黒の器がきれいだ。
しっかり旨味を含む濃厚な餡に絡みながら、舌先でフカヒレの繊維が速やかに緩み、こちらもたまらなく美味しい。味の輪郭が鮮やかだ。
8.ルーアン鴨
シャラン鴨のルーツであるルーアン鴨に、赤ワインとジュのソースを合わせる。フレンチらしいひと皿だが、特に何も付け合わせない。純粋にルーアンを味わえということかもしれない。
重たいラギオールのナイフを鴨肉入れると、すうっとナイフが通り、口に含めば、皮に脂がのりつつも、煮詰めた濃厚なソースがよく絡み、鴨肉が滑らかに舌の上をすべっていく。こちらも美味しい。
9.冷たい麺 カラスミ
中華麺と冷麺を割ったような麺をめんつゆに浸し、オクラのピューレとカラスミパウダーを浮かべ、色鮮やかな美しい茶碗に収める。
出汁の旨味がたっぷり効きつつも、さっぱり冷たい麺が美味しい。後はデセールを残すのみだが、コース全体のポーションはやや少ないかもしれない。
10.洋梨 ブルーチーズ
洋梨のコンポートにブルーチーズを合わせ、後からシャンパンとオレンジのソルベを添える。熱いのと冷たいのが重なり、甘くて美味しい。
小菓子とともに、コーヒーを飲みながら、食後の余韻に浸る。コーヒーカップまでセンスがいい。
以上だ。
小野シェフの料理はフレンチはもちろんのこと、中華でもあり、和食でもあり、ときにイタリアンでもあり、しかも皿ごとにはっきり定義できるわけでなく、その食材も、その技法も、料理が最も美味しくなるものを用いているように思われる。
美味しさに国境がないのは当たり前のこととして、敢えてその境界線を消し去り、ひとつの料理の中でも最も優れた素材や技法を用いているのは敬服に値するが、そこから生まれるものは他に真似できない唯一の存在になるに違いない。
これで美味しくなければ、ただ面白いだけで終わるだろうが、エクアトゥールの料理は実に美味しい。訪れる前はぼやけているだろうと思っていた味覚の輪郭は、美しいほどに鮮明であり、コースの中で緩急つけてはいるが、基本的にしっかり味をキメてきてくれるので、まさしく自分好みの味わいだ。
境界線は消えて、美しい輪郭が浮かんでいる。
その影が料理を収める器に美しく映されている。あまりにも自然で違和感は感じないが、クチポールやラギオールのフォークナイフに、美しい和の器を合わせているのだ。カトラーリーや器にも境界線はない。
美しく表現するという意味では伝統的フレンチの本質と一致しているだろうが、器の美しさは期待の延長には全くない深い驚きであり、最もこころを動かされた出来事かもしれない。
マダムはフランスに買付けにいっていたようだが、サービスも丁寧で暖かみがあり、とても心地いい。カゲロウにいた女性スタッフも、料理説明を担っていた女性スタッフも、ホスピタリティあふれていた。
元々フレンチが好きな理由のひとつに、席間隔が広くて、雰囲気だけでも優雅な気分になれるというのがあり、正直カウンター席は敬遠していたが、エクアトゥールは席間隔も広めで奥行きもあり、ささやかな色気も加わり、夢見心地に過ごせる。
席間隔や奥行きがあと10cm違えば、印象はかなり違うものになっていただろう。訪れてみないとわからない。何でも感じてみないとわからない。全ては透明な思考の中にあり、その存在も得体が知れない。
そんなことを考えながら、僕は静かにエクアトゥールを後にした。外に出る心地よい冷たい風が吹いてきた。夜も更けて辺りはさらに静けさに包まれていた。もう一度空を見上げれば、月が美しい輪郭を浮かべながら輝いていた。
世界のどこから見ても、この月の形は同じなのかな.....