パコ崎ミャ子さんが投稿した奥の細道菓子処 三万石 郡山本店(福島/郡山)の口コミ詳細

パコ崎ミャ子は、どうすればイイ?

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パコ崎ミャ子 (東京都) 認証済

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奥の細道菓子処 三万石 郡山本店郡山/洋菓子、和菓子

1

  • 昼の点数:5.0

    • ¥1,000~¥1,999 / 1人
      • 料理・味 5.0
      • |サービス 5.0
      • |雰囲気 5.0
      • |CP 5.0
      • |酒・ドリンク 5.0
1回目

2015/07 訪問

  • 昼の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス5.0
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥1,000~¥1,999
    / 1人

伝えたいのは福島への思いと『ままどおる』長いのはこれで、おしまい。ありがとう。

『ままどおる』には、窓を通る柔らかい日差しが合う。
光を反射する黄色い包装紙を解くときに、指先が素直な状態にリセットされる。
中の淡い小麦色の菓子が、光により甘く優しい、心が落ち着いていた時の香りを運んでくれる。
それは、不安などない安心な気持ちの香り。生まれた場所で最初に感じた香り。
自分の中にある大切なものをなでた時に、心に香るものと同じで、抱きしめてくれる。

・・・。

朝、チャイムで起きる。
ドアを開けると、管理人さん。
「預かりものです。生菓子と記述がありましたので、冷蔵庫で保管していました」
昨日、帰りが深夜だったので、受け取れなかった小包を届けてくれた。
「すいません」
受け取る箱が、腕にヒンヤリ冷たい。目が覚める。

福島に戻っていった、私の愛する師匠からだ。
カーテンを開け、日差しを取り込み、窓の側にペタンと座り、包装をといていく。
中から、『ままどおる』 が詰まった箱と鮮やかなスカイブルーの封筒。
「ふふっ」
小さく笑がこぼれる。うれしい。
封筒の中からは、ほんのり薄いブルーの紙に鉛筆と定規で、さらに薄く引いた線に区切られたマス目。
そのマス目に、信じられないくらい綺麗で立派な文字。印刷物かと見紛う文字。綺麗だ。
「拝啓、パコ。」
で始まる文章には、
福島で始まった中学校生活の様子が、書かれていた。
吹奏楽に入部したこと。フルートを担当していること。
譜面はすぐに読めるようになったこと。
背がちょっと伸びたこと。足が速くなったこと。
給食をおかわりしたこと。友達が出来たこと。・・・。いっぱい書いてあった。

・・・。

朝、管理人さんはいつも、気持ちのいい挨拶をしてくれる。素敵な紳士だ。
密かに実はマンションのオーナーではと、噂している。住人は皆。私も。
「おはようございます。今日も明日につながる一日に」
爽快な朝にふさわしい言葉をかけられ、
気持ちよくエントランスを通り過ぎようとすると、
「そう、そう。パコ崎さん」
呼び止められた。
「近々、お隣が引越しと、次の入居で。すいませんが迷惑をかけます」
「はい。分かりました」
それだけのやり取り。
そして、何歩か進んだ頃には、忘れてしまった。

何日か後に、
「今度、隣に引っ越してきた○○です」
玄関先に、貫禄のあるお父さんと、私と同年代のお母さん。
そして、髪を一本の三つ編みにし、細い体と、色の白さが際立つ小学校3、4年生位の女の子。
丁寧な挨拶に、たじろぐ。
「福島から来ました。これをお納めください」
ご丁寧に、乾麺のお蕎麦と、 『ままどおる』 福島の銘菓と言われ頂いた。
ニコニコ顔で、あたりのソフトなお父さん、人懐っこく、明るいお母さん。
話をしていると、チラッと、女の子の手元に目が行った。
赤く刺激的な背に、白抜きで 
(立花隆のすべて(文藝春秋)) 大先輩のお名前が、しっかり書かれている。
スパッと、目に飛び込んできた。
「ウオっと」思わず声をあげてしまった。
「スゴイ御本読んでいるのね?」
「・・・。」
「あら、本を持ってきたの? 」
お母さんが、笑いながら取りつくろう。
本が大好きで、最近、大人でも意味が読み解けるのか分からない本を欲しがると、話してくれた。
当然、「本が好きだ」という女の子に興味が出てしまった私は、
「ちょっと待ってて」
バタバタ急いで廊下を走り、部屋の奥に行き、書庫にしているウォーキングクローゼットから
(青春漂流 立花隆 (講談社文庫) )を引っつかんで、また走って戻る。
「これ、お蕎麦と 『ままどおる』 のお返しというか、何か、読んでみて」
強引に、渡してしまった。
お父さんが
「良かったなぁ。ありがたく頂きなさい」
笑顔で言ってくれた。
「・・・。有り難うございます」
女の子は、訝しがりながらも受け取り、帰っていった。
何で、立花隆 大先輩の文字を観て、あんなにテンションがあがったのか不思議だった。

・・・。

親友が仕事の合間に、お茶を飲みに来る。
近くに来ると、喫茶店がわり。
「これ、お隣様から貰い物。食べる? 『ままどおる』 福島のお菓子。美味しいよ」
「うん。・・・・。」
「・・・。気にする?」
「・・・。正直、気にするよ。だって、学部こっち方面で専門だもん」
「そっか。じゃ・・・。ゴメン。さげるネ」
「なんで? 食うよ。あんたが私に出してくれたものに、理論や理屈が必要?」
「えっ?・・・。うん。ゴメン」
親友は、『ままどおる』 を普通に食べた。
何もなかったように、たわいもない話をまた続けた。

・・・。

朝、出かける時間が女の子と同じ。
エレベーターで挨拶だけじゃなく、
「今、何読んでるの?」
本に関わる情報交換をするようになるまで、すぐだった。
「江戸川乱歩の貼り雑ぜ年譜」
「ギョエ~! どこから仕入れるの? そんな本。マジで!」
「Amazon」
「マジですか!」
スピード違反ぎみの時代の変化に、対応早すぎ。

「はい、これ」
マンションの玄関で手紙を貰う。
「あっあ、私も。そうそう、これ」
手紙を渡す。
「気を付けてね~」
「行ってきま~す」
最近、読んだ本や、イロイロ何でもない話を、手紙でやり取りするようになった。

始まりは、女の子からだった。
恥ずかしそうに、
「これ」
淡く薄いブルーの綺麗な小さい封筒に、更に透明感のあるブルーの小さい紙が入っていた。
そこには、
「いつも、朝のエレベーターが楽しみです」
から始まる文章が、書かれていた。
小鳥が歩いたような文字で、隙間を埋めるようにピッチリ書いてあった。
とてもまとまっている内容に知性を感じられ、ただ、ただ、感心した。
それは、ちょっとその頃あった出来事の中で、一番嬉しかった。とっても嬉しかった。
その日、何度もその手紙をポケットから出して、読んでいた。ニコニコ笑顔が止まらなかった。

・・・。

女の子が、独りで遊びに来た。
年の離れた女子会? と、いうか、性別が一緒なだけのお茶会に誘った。
お母さんが
「いいんですか?」
「全然。たまには、美容院とか買い物に行ってきてください」
と、 リクエスト済みの『ままどおる』を受け取った。
最初は緊張していた女の子だったが、
「こっち、こっち」
ジャーンと、一部屋とクローゼットをぶち抜いた書庫に連れて行ったら
「うわーっ」
と、期待通りのリアクションに、「よしっ」と、何故か心でガッツポーズ。
「えっぇ~何冊くらいあるの?」
「うぅ~ん。どうかな。3000冊位はあるかな。もっとかも。
どこに何があるかも分かってるよ。そういう病気だから。ハハッ」
本を取り出しては、ニコニコしたり、真面目な顔になったり、表情が変わる。可愛い~。
本を持つ姿が、聡明さを際立たせる。
「読んだ本ある?」
「う~ん。あっ、これ」
(新版 フランス文学史 (白水社) )を取り出した。
「ゲッ。マジで」
学生の時、書き直し論文の丸写しベースに使った本・・・。
「・・・。どうっ・・・だった?」
「年代順に書かれていて、標準的なフランス文学の歴史を通して書かれているから、
読みやすかったよ。中世期を知るには、一番判り易かった。
中世期って混沌としているから、中々判り易い本ないし」
判り易いって。あんたマジ? 中世期って・・・。何だっけ?と、いうか、先生と呼びたい。
いや、先生は一杯いるし、混乱するから・・・。師匠。お~ぉ師匠。いいじゃないですか。
「ねぇ、師匠と呼んでいい?」
「えぇー何で。ハハッ。いいけど」
「ねぇねぇ。師匠、後はどれ読んだの?」
「えっとね・・・これとか・・・これ」
「ギョエ~。こんなのも読んだの・・・。・・・。」
お母さんが、ゆるふわパーマの出来あがりに満足し、お迎えに来るまで、本の話題は尽きなかった。
絵や写真にも興味を示し、特に、歌川一門の浮世絵の本は、師匠の心を捉えたようだ。
特にマニアックな歌川国虎(羅得島湊紅毛舩入津之図)
(ロードス島(羅得島)の港(湊)に、オランダ船(紅毛舩)が、入港(入津)する図(之図))
世界の七不思議の一つ、(ロードス島の巨像) を描いたものは、
目を通して、脳のキャンパスに写し取るほど真剣に見ていた。
「これ描いた人の頭の中には、絶対、本物見た映像があるよね。スゴイ絵ね」
文字だけではなく、色彩や空間能力も高いミタイだ・・・。師匠は。マジで師匠だわ。

・・・。

「ねえ、最近のあんたの家、甘いものは、これだよね。 『ままどおる』 さん」
畳にリラックスして、寝転がる親友。
「え~ぇ? 飽きた?」
「別に、美味しいし、飽きたわけじゃないけど。
レンジで暖めたり、オーブンで焼いたり、凍らせたり・・・。
毎度毎度、通販までして、何をそんなにハマっているのか気になって」
「そのままでも全然美味しけど、何か革命的に美味しくならないかな~と、・・・研究 ちゅ ♡」
「ちゅ・・・って、それ、可愛くないから。・・・マジで。何を仕事以外で、バタバタするかなー」
「 『ままどおる』 を もし、エル・ブジのフェラン・アドリアが食べたら、どうするか? をテーマにしています」
「はぁ~。何それ。何で、分子ガストロノミーが出てくる?」
「だって、餡子の概念がまずないでしょ彼は、多分。しかも白餡にバターとミルクたっぷり。果たして、白インゲン豆や白小豆にたどり着けるでしょうか? たどり着いたとして、どんな手を加えるでしょう。 『ままどおる』 に、着色やゲル化や乳化剤の作用を用いることをするでしょうか? とりあえず、焼く、揚げる、冷やすとかの温度の変化を試すはず・・・」
「あんたね、やり過ぎ。考えすぎ。仕事以外でゲル化とか聞きたくないし、そのまま美味しんだから、そっとしときなさい」
「・・・うん。・・・そうね」

・・・。

ランチを師匠と作る。
卵、鶏肉、玉ねぎ、師匠の苦手な人参とピーマンのチャーハンと、芽キャベツのコンソメスープ。
「大丈夫だよ。絶対。こうやってね、下処理すれば食べられるって」
「本当に~。ダメだったら食べないからネ」
細かく切った人参とピーマンは、ひたひたの水に、バターとちょっとの砂糖、塩ひとふり。グラッセの要領。
「そうそう、鶏肉が白くなったら、ザルにあげた人参とピーマン入れて炒めてね」
「うわっわ、こぼれる。こぼれる」
初めての挑戦は、何でも緊張で体が硬くなる。見ていて、初々しい~。可愛い~。
「大丈夫だよ。ゆっくりやっても。火を消してもいいのよ。じゃ、こっちはご飯に卵を混ぜま~す」
「えっー。卵をご飯に混ぜちゃうの?」
「そうだよ。この方が炒めると、パラパラになるんだよー」
「へぇーそーなんだー」
「そーだよー」

ギャーギャー楽しくランチをして、一息入れる。
『ままどおる』 をお茶請けにしながら「パコと魔法の絵本」をテレビで一緒に観る。
綺麗な映像とスゴイキャラに惹かれ、ストーリーに没頭する。
「お姉さんって、パコに似ているよ」
「えぇぇ。本当に、可愛い? ハーフっぽい? 結構みんなに言われるし、自分でも・・・」
「忘れん坊の子供って言う意味で!」
お調子もんで勘違いの、いい年の女をしっかり否定する、小学生で姑みたいな少女。可愛くね~。
「ねぇ~。お姉さんは、私のこと師匠と言うでしょ」
「うん」
「私は、パコと、お姉さんを呼んでいい?パコ姉さんって。苗字に〇を付けたらパコ崎だし」
「別に・・・いいけど。パコでいいよ。何でもいいよ。もう」
「うん。パコ」
「あ゛い゛よ」
「キャハハハ」

・・・。

休みの日、ブラブラ買い物から帰ると、エントランスで師匠のお母さんにバッタリ会った。
「あっ、お茶でも飲みに来ませんか?」
師匠のお母さんからの誘いに、ホイホイついて行く。
行った先で、じっくり相談を受けた。
近くに知り合いもいないし、地元の友達や親戚もそれどころではないので、誰にも言えない。
そう、考えてたタイミングに、丁度、私に会ったそうだ。
でも、すべからくタイミングが良すぎだった。
「学校で、師匠は誰とも話をしない。本ばかり読んでいる。でも、いじめられては、いない。
学校側がしっかり見ているし、養護の体制もしっかりしているから。
震災によるPTSDか、自閉症かも知れないので、一度病院で診てもらったほうがいい」と。
学校が心配してくれるのも分かる。当然、親が動揺するのも分かる。
私を含め、大人がしっかりしないといけない状況で、しっかり出来ていない現状に、
誰が悪いのか、アラ探しをしてしまう。
時間が経つにつれ、イライラが募った。
何も解決しない。出来ない状態に。師匠、ご両親、福島。私。
何日か、悶々として、とうとう限界が来た。

親友に泣きながら電話して、知り合いの先生にお願い事をしたいと、アポをとってもらった。

親友の家で、先生と親友の前に正座し、手をつき、頭を下げ、そのままの姿勢で話をした。
自分の行動に酔っていると、とられてもいいと思った。
その代わり、嘘偽りのない自分の本音をぶつけた。

知り合いの枠を超えてのお願いなのは、重々承知の上で、
先生に師匠と会って欲しいこと。
先生の立場を表明して、権威を使わせてもらいたいこと。
その上で、「何でもない」と診断して欲しいこと。
学校とご両親に嘘でもいいので、「大丈夫」と言い切って欲しいこと。
師匠とご両親の未来に、これ以上の足枷をつけないで欲しいこと。
なぜなら、ただ、師匠は少しだけ周りと違うだけだから。
それだけだから。
小さい時の自分と同じだから。
ただ、それだけだから。
偏見や境界線は、師匠やご両親には必要のないものだから。
私は、親友と知り合って克服してきたこと。
今度は自分が役に立ちたいこと。少しだけでも役に立ちたいこと。

「分かった」
先生は言ってくれた。

ジッと見ていた顔前のフローリングの床が、ドンドン滲んでいった。


先生が来る日、朝から私だけ、落ち着かなかった。
落ち着くために、飲もうとした紅茶を入れる陶器のポットを落として割った。
師匠が一瞬ビックリして、
「まったく~。パコは、もう、弁償してね」
「あぁ~ゴメン。ゴメンネ。本当ゴメン。おかぁさーんー。割っちゃったー」
「あらあら」
落ち着かせるはずが、余計バタバタさせてしまった。

親友に連れられて、
スーツにネクタイ。ビシッとしている先生を初めて見た。何か、オーラが・・・。無い・・・感じ。アレ。
ご両親に権威だらけの名刺を渡し、簡単に挨拶。私には「オッス」と軽く片手をあげる。
普通感丸出しで、
「こんにちは。今日は美人さんに会えると聞いたから、オジさん慌てて、スーツ買っちゃった」
いきなり師匠に話しかけながら、横に座り話し出してしまった。
「袖、変じゃねー。何か長くねーこれ?」
面食らった顔をしている師匠。
先生は、
「可愛いねー。何でそんなに肌が白いの?」
とか、
「美人さんは何が好き? 待って、当てるから。う~ん・・・。」
とか、キャバクラ遊びのような会話を師匠に展開していく。
極めつけは、
「明眸皓歯って知っている? 美人を表す表現でね、紙と鉛筆ある?」
師匠が覗き込みやすく、紙に字をゆっくり書き出した。
つられるように師匠が近づき、先生との体の距離がより近づいた。
あっという間に、師匠が笑いながら話していた。
何だコレ。
2時間くらい、ご両親と私と親友も交えて、楽しい話をした。
話を回す先生のおかげで、今までで一番の失敗談や、
子供のころ学校で嫌だった、ネガティブなのに、笑える話をしていると、
師匠が
「学校では、可哀想な子として見られている。私は可哀想ではない」
つられて話しだした。
先生が私を観て、ニヤッとした。
師匠の話は、「プライド」を意味する話だった。
「自分はプライドを持っている。福島にも自分にも。そして必ず福島に戻る」
そんな事を話した。
皆が聞きたかった事だったのかは、分からなかった。でも、心の底から安心した。
何でだろう。
何か、あれだけ力の入っていた私の体が、フニャフニャになる感じだった。
「おっ、 『ままどおる』 これ美味いんだよね」
先生は会話中、5本食べ、帰り際、
「これ貰っていい?」
残っていた5本をポケットに入れて、帰っていった。
帰り際、ご両親に
「何も心配ないです。必要なら診断書でも、意見書でも書きますよ。
でも、周りがウルサイなら言ってください。私が責任を持って話をします」
と言ってくれた。
空気が変わった。変なものが漂う感じが消えた。皆が感じた。
私に、
「友達の友達に挨拶に来ただけだから。もう、俺も友達だろ。じゃ、またな」
そんな言葉を先生は置いていった。
何んだったのかなー。また、私の独りよがりに、皆を巻き込んだのかなー。
親友に
「それが、あんただから別にいいじゃん。愛してるよ」
と、言われた。
グスン。エぇーン。エーン。何か良かった。良かった。ありがとう。

・・・。

お茶を飲みながら、私と親友、師匠。テレビで真偽のほどを騒ぐ番組を見ていた。
正直、私は全然興味なかった。
世間は多かれ少なかれ、そんなもんなんじゃね? と、思っているから。
騒ぐ理由が、タイムリーでキャチーな女の子が主人公だから。としか思えなかった。
バカな私は、その女の子のファッションや化粧にしか、見るべきものを見いだせないでいた。ダメだ私。本当に。

「これって、本気でアルって言うのなら、電気泳動の一発でもやり直せばいいのに。
予備がないなんて素人じゃん」
「アガロースって寒天?」
「おっ天才少女は質問が良いねー。アーガーの成分を精製したものよ」
・・・。「〇ボちゃんて、か、可愛いよね? 何かぽわ~んとした感じが・・・。」

「そうか、ゲルの強度を出すのにヌクレアーゼフリーの保証とか硫化物の残留量とか計算されてるよね。当然」
「そうね。電気浸透度とかいろんな性能が機能しないと、DNAの泳動はできないし」
・・・。「〇ボちゃんて、VIVIENNEのファンなんだよね? イメージじゃなくね?」

「画像の加工なんて、フォ〇ショップうまく使うんじゃなくて、切り離して、日付違いと書けばいいのに」
「どうしても、一枚の画像上で、同時泳動と錯覚させたかったのは分かるけど」
・・・。「〇ボちゃんて、〇ッ〇〇大きいよね?。羨ましい」

「っつ。ミャ子うるさい!」
「っつ。パコうるさい!」
・・・。「・・・。うぅぅ。ゴメンナサイ・・・。
全然分かんないけど。ちょっと入りたかった・・・だけなのに」

奥の部屋でイジケテ、畳の目を体育座りで数えていたら師匠が寄って来てくれた。
「パコ、はい。 『ままどおる』一緒に食べよ」
「あんがと」
黄色い包み紙を解き、二つに割り、大きい方を私の口に入れてくれた。
「う~ん。美味しいね 『ままどおる』は。私の心の拠り所だわ」
「『ままどおる』 本当に好きだよね?」
「うん。甘いから」
「ハハッ。本当に子供の意見だね」
「・・・。うん」

体をぺったり摺り寄せて、お互いの体温を感じながら話す。
「パコの書くお手紙って、話がいろんなところに飛びまくって、
所々に関係ない言葉とか入っていて、最初はビックリしたんだ」
「うぅ~う。またこっちでもダメ出し~。う~ん泣いちゃうぞ~」
「違う、違う。(代書人バートルビー)のハーマン・メルヴィルとか、
(不思議の国のアリス)のルイス・キャロル、
あっでも、詩人のエミリー・ディキンソンに一番近いかな」
「あんがとう。それは喜んでいいの?」
「うん。パコの書いたもの、もっと、いろんな人に読んでもらいなよ」
「何で?」
「多分、パコがスッキリするから。
最初は、小さい穴から、ゴチャゴチャした記憶とか思いとか出てきて、
書き出したら多分、穴が大きくなって、止まらないくらい出てくると思うよ。私がそうだから」
「師匠とは違うよ。私。本は好きだけど、バカだもん」
「ううん。違う。同じ。
私と同じ種類の人間。
私達は、空間を切り取って生きているけど、
その空間を普通の人より大きく切り取らないと、いけないの。
その空間を、他の人の存在が感じるように、より大きく切り取らないと。
でないと、多分、生きていけないから。分かるでしょ?」
「・・・分かる。・・・。痛いほど分かる・・・。」

・・・。

「本当に、ミャ子さんには、震災後の東京の生活を助けてもらいました。ありがとう」
「・・・。いいえ、助けられたのは私です・・・」
「本当に、家族と思っています」
師匠のお父さんが、福島に帰り、再起を図ることになった。
「・・・。頑張って下さい」
としか、言えなかった。

「何で?いいじゃん。戻らなくて」と無責任に言いたかった。
音になり飛び出しそうな声を必死に飲み込んだ。体の全ての力を使って飲み込んだ。

出発の日。東北新幹線のホームで師匠と座って、
東京駅の前でリニューアルしたばかりの福島八重洲観光交流館で買った、
『ままどおる』を食べた。
泣かないと約束してたのに、昨日の夜から一睡もできずに泣きっぱなしの私の目は、腫れて、
薄いサングラスでは隠せないほどだった。
「ねぇ、学校で何かあったら絶対に電話してね。先生と親友連れて絶対に直ぐ行くから」
「大丈夫だよ。福島の友達と同じ中学だもん。地元だよ」
師匠は、ヤレヤレと笑っている。
親友も、笑っている。皆、笑っている。
私だけ、塩っぱい『ままどおる』を食べている。
「ねぇ。師匠。私達は、ズっーと友達だよね?」
何を言っていいのか分からなくなり、心に浮かんだ言葉をそのまま伝える。
「えぇ~。本当の友達にね「私達は友達だよね?」なんては言わないんだよ。パコ」
チラッと親友を見て、師匠は言った。
親友も「何いってるの」と言う顔で、師匠に同意するように「ウン」と大きくうなずいてる。
「・・・。うん。ゴメンね・・・。ゴメン」

新幹線のドアが閉まり。私の嗚咽は開きっぱなしになった。
何に泣いているのか。離れるのが寂しいのか。福島に帰していいのか。これで本当にいいのか。
滲んで、ブヨブヨに膨らんた新幹線が見えなくなっても、そこで泣いていた。
親友が、
「気の済むまで泣きな。文句がある奴が来たら、私がぶっ飛ばしてやるから」
と、私の前に立って真面目な顔で、抱きしめてくれた。

だから、私は思いっきり泣いた。

・・・。

私は、まだ師匠への返事に、書き散らかしている文章のことは書いていない。
『ままどおる』のこと、仕事のこと、親友のこと、身近で起こったバカなこと。
そんな話を書いている。メールじゃない。手紙で。

『ままどおる』は、いつどんな時に食べても、
心を温めて、寄り添ってくれる。だから大好き。甘いから大好き。感謝。

それと、食べログに両手を合わせ、感謝。

・・・。

おしまい。ありがとう。

2015/07/08 更新

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