4回
2017/08 訪問
初夏から晩夏へ味のリレー(すだちそば)
すだちそばが食べたくて2週間後に再訪。
もちろん電話をしてすだちそばが提供されているかを確認してからの訪問だ。
今回はいつものここの常連の連れを伴ってだ。
先ずは粘り着く様な湿度と喉の渇きをスッキリさせたいのでビールを注文。
軽く飲み干し喉の渇きを癒す。
お通しの切干し大根の甘味とビールの苦味が合うね〜。
日本酒は8月のお酒に切り替わっており、白神山地の四季(純米吟醸)となっていた。
雪の茅舎よりあっさりテイストでやや辛味有りで、これもつまみに合う。
いつもの定番の蕎麦味噌(今回はダブル)に冷奴、板わさを。
どれも安定した美味しさ。
板わさの添え物には山葵の他は以前は湿り海苔だったと思うが、この日は練り雲丹。
しかも練り雲丹には蕎麦の実が混ぜ込まれた物で一手間掛けられており、流石蕎麦屋のアテだと思った。
練り雲丹とここの味の有るかまぼことがまた絶妙にマッチするんだよなぁ。
こりゃ~本物のマッチもニセマッチもビックリだぜ~♪
この日は他に玉子焼き、煮穴子をお願いする。
玉子焼きは出汁巻だが、ほんのりと甘味が入っているのが何とも江戸っ子好みではないか!
この味好きだなぁ。
煮穴子は、寿司屋の仕込みの煮穴子とはまた別な感じで、煮汁はあっさり目で甘味はほとんど無いスッキリタイプ。
さらに煮詰めでは無くタレと言った方が合っている様。
穴子の素材本来の風味を引き立たせた仕上りで、甘味は蔗糖由来の物では無さそうで穴子の素材由来と味醂少々から来るものと思われるが如何に?
こちらにも蕎麦の実が散らされていて寿司屋や和食屋のアテとは違う蕎麦屋らしい佳肴だ。
ここで本題の冷製すだちかけ(すだちそば)を大盛りで注文。
◉冷静すだちかけ(すだちそば)
美味い!これは美味いぞー!!
すだちの柑橘エキスがツユと合わさって何とも爽やかな風味を醸し出すんだ~♪
これは、先々週に戴いた蓴菜そばのツユとはまた違った様相で実に興味深かった。
蓴菜のツユは究極の引き算を見せてくれて、かなり薄味でアッサリとして爽やかな風味であったが、すだちのツユは鰹の風味をやや立たせてツユに輪郭を持たせた物。
ややもするとすだちは結構個性が強いので、蓴菜時のツユでは負けてしまい著しくバランスを崩して物足りない味になるなぁと思っていたのだが、全くの杞憂に終わった。
すだちの風味に負けないだけのアッサリしつつも強さも併せ持ち、酷暑から残暑へと季節と気候の移ろいを蕎麦ツユで表現されているようで実に感じ入った次第だ。
花番のお姉さんにも伺ったが、出汁の調合具合を変えていますとのこと。
そばの配合は、十割そばにニ割の繋ぎの外ニだ。
蕎麦の細さ、茹で上げ、締め加減が絶妙で、蓴菜の時よりややだが硬めの仕上げの様に感じた。
これも味わい深い素材とツユとのバランスから来る加減という物かな。
甚だ布恒のすだちそばの美味しさに啜り込む箸とレンゲが止まらなかった。
すだちそばを平らげた後は勿論いつも通り。
荒挽きと生粉打ちを双方大盛りで頼む。
柔の次の剛、軟の次の硬といった具合に蕎麦と布常オリジナルの辛ツユで蕎麦の風味とツユの美味さを愉んだ。
ちなみに繰り返しになるが、生粉打ちと荒挽きは蕎麦粉十割で繋ぎは無しだ。
もう一度くらいは夏の名残のすだちそばを戴きに再訪したい。
2018/02/18 更新
2017/07 訪問
初夏から晩夏へ味のリレー(じゅんさいそば)
思い立てば足繁く通っている布常であるが、夏の季節の楽しみが冷たい季節のおそばだ。
例年の季節シリーズだと、もりの季節のかわりそばに目が行ってしまうことが多いが、7月と8月は冷やしのかけの季節物で愉しませてもらった。
今回の話は7月のもので、2回に分けてレビューしたい。
蒸し暑さも度を超した頃、7月下旬にフラッと1人で立ち寄る。
メインの前にはいつもの定番、蕎麦味噌、冷やっこで一杯やる。
いつの間にかお酒でも季節のおすすめが登場している様で、雪の茅舎(純米吟醸)をお願いした。
鮨屋や和食屋でも最近目にする日本酒だが、フルーティで米の旨味がふくよかで、それでいて自分を主張し過ぎない。
1人なので天ぷらはデフォの掻揚げをお願いした。
これが中までキチンと火が通っており、カラっとした見事な揚げ上がりで先代を思い出す。
サクサクっとした歯応えに小海老のプリっとした食感のコントラストが堪らなく好きだ。
ボテっと衣が厚くなると野暮ったくなって嫌なのだが、こちらは本当にしっかりと脱水されて単体で愉しんでも良し、蕎麦と合わせて戴いても尚良しとなる。
適度なタイミングで季節の冷やかけ登場だ!
◉じゅんさいそば
いつもの辛汁の異名を持つ力強い蕎麦つゆとは打って変わってアッサリしたもので冷製バージョン。
薄味でスッキリとした爽やかな味わいだ。
それでいて利かせるべき所は利いていて出汁の風味や返しのコクはしっかりと認識できる。
しかし物足りなさは不思議と感じず、薄っぺらい味わいにならないギリギリの線をバランス良く行っている。
蓴菜はかなり大きな個体で食べ応え十分。
割烹料理屋や鮨屋で提供されてきたどの蓴菜よりも立派だ。
そして美味い!
他の丼の彩りを飾る具材は粘り強い山芋、茗荷、紫蘇。
別添えの薬味に山葵、青葱、大根おろし。
其々が良い働きをして一つの世界を形成している。
これは何だか癖になりそうな。
花番のお姉さんにうかがったところ、8月のどこかでじゅんさいが終わり、すだちそばに切り変わるとのこと。
もちろん戴きに上がりますよ~と告げて店を後にした。
2017/09/12 更新
2016/02 訪問
"布恒の辛汁か?!”“辛汁の布恒か?!" それは古き良き江戸前の味わい
限りなく5に近い4.8である。
ここも"まき村"と共に社会人に成り立ての頃から通っている蕎麦屋。蕎麦屋としてある意味開拓者でもあり求道者でもある。やってこられたこと、味わいに比較してここも評価は低目なのが不思議でならない。皆さんどんだけ美味い極上な蕎麦を召し上がっているのだろうか。まぁ、変な輩に巡礼されて店に入れなくなっても困るけどね。というわけで当方が店主や女将さん達から聞いた話や本、ネット等々で得た知る限りのこちらの店の事をここに記したい。
少し店の経緯を説明。明治35年創業の日本橋→大正15年移転の有楽町更科(屋号は"布屋(源三郎)")の次男が大森の置屋(妻所有)を蕎麦屋に改造して昭和32年に創業。かつての三業地=花街であった名残のような建物。近所にある洋食入舟も建て直してはいるが懐かしい佇まいである。初代が恒次郎なので屋号は"布屋恒次郎"。今の布恒である。この"布"については更科蕎麦の総本山『麻布永坂町 信州更科蕎麦処 布屋太兵衛』の暖簾分けを許された店のみである。
初代恒次郎氏はかなりの遊び人だったらしく、自由闊達に考案した浅利を煮出した「深川そば」と揚げ餅をのせた「あられそば」で当時一気にお客様が付き始めたのだそう。浅蜊の深川を広めたのは恒次郎氏だと二代目が仰っていたのも良い思い出。しかし恒次郎は早く亡くなって、営業状態も芳しくなく二代目主人(本来の二代目は次男だったが急逝してしまう)となる三男の伊島節氏が完全な手打ちに切り替え、地道な努力を続けることによって客足も回復(蕎麦やツユの項目でもう少し詳細に紹介しよう)。現在もビルとビルの間にひっそりと昭和の雰囲気を醸し出すのに十分な存在感。店の周辺は車の往来も少なく静かな環境。店内も静謐な空間で落ち着いた雰囲気の中蕎麦屋の年輪を重ねた歴史を美味い肴と酒、〆に蕎麦を手繰り寄せながら愉しめる。
本日もいつもの戦友でもあり悪友でもある者との定例会。つまみから入って常温か冷で日本酒を傾けるのはいつもと一緒。頼むつまみは季節の天種以外はほとんど不動。
【定番】
◉蕎麦味噌
◉焼き海苔
◉板わさ
◉冷奴
蕎麦味噌は安くて美味い酒の肴。蕎麦味噌の塩分と風味、香ばしさは申し分無い。ついお代わりを頼む事も。
焼き海苔は桐の箱に入っており、下に少々のオガ炭では無く木炭末火が皿の上に鎮座している。海苔が湿気らないよう適度な温度管理が為されている。海苔の香りが大変素晴らしく味わいも深い。何と言ってもパリっとした食感が凄いのだ。
板わさは蒲鉾自体の魚の練物の質が高く、これ自体が高級な魚料理として成り立つ程。添え物の生海苔が只者では無い美味さ!蕎麦の実が塗してあるのが憎いね!山葵も上質で、醤油につけて食べても良し、生海苔と山葵または山葵抜きで食べても良しとバリエーション豊富に愉しめる一品。
忘れてはならない冷奴。この豆腐が滅茶苦茶美味いのだ。京都の老舗や有名店で食べた豆腐なんかより数倍も美味い!大豆の風味が口内を駆け巡る。甘味もしっかりあって凝固剤の嫌な臭いや違和感は全く無い昔ながらの手作り豆腐。これは流石に自家製では無く豆腐屋から調達。また、奴につける付けダレがキリッとした甘さ控え目の味で、豆腐の持ち味や風味を数段階アップさせる。
【天麩羅】
今回は季節の天種から厚岸産牡蠣と若筍。毎年牡蠣をここで戴いているが、身はプリップリではち切れんばかりの詰まり様。カラッと揚がった衣が濃厚な海の味わいを逃さず旨味を閉じ込め、凝縮しており最高の美味!筍も香り良く、甘くて春の訪れを感じさせる。歯触りもシャクシャクして心地良い。
【蕎麦】
蕎麦の種類は4つ。もり、生粉、御前(更科)、かわりそば。蕎麦は茨城県産常陸秋蕎麦と北海道産のキタワセを使用。どれも蕎麦の香りがしっかりしており風味、甘味とも申し分ない。
今回は荒挽きと鴨汁の生粉打ちで注文。荒挽きは平打ちの挽きぐるみ。一番蕎麦粉の風味を感じられ、よく噛み締めて味わう無骨で荒々しい一品。生粉打ちは蕎麦粉オンリーの10割蕎麦で、蕎麦粉の風味もさることながら、蕎麦の一本一本滑らかでコシ、張りがあって程良い弾力。手繰り寄せてツユとの相性が最高で、口の中でゴワつくことも無い。スルスルっと啜り上げコシを愉しんだ後は淀みなく喉元へ。喉越しも素晴らしい。しかも気取った高級蕎麦屋とは盛りの多さが違うし最適でしっかりと味わえる。総じて当方の好みの蕎麦。鴨汁は鴨から射出される出汁がこちらの個性豊かな返しと非常にマッチしており、単体よりも味わい深くなっている。鴨肉は思っていたよりは普通カモ。
他の蕎麦は、もりは二八ではなく外二→蕎麦粉10割に繋ぎ小麦粉2。更科は胚乳の部分(真っ白)だけを粉にした物。かわりそばは季節季節で旬の素材を練り込んだ他店には無いような物も味わえる。正月から金柑、伊予柑に始まり、春から初夏には蕗の薹、木の芽、桜葉、グリーンピース、蓬、紫蘇、ヒジキ、桜海老、秋から冬には黄柚子や芥子(けし)や南瓜等々。白いものは色に染まり、香りもその細い体に練りこまれていく。
現在でも老舗では大量の客を迎えるために機械打ちの導入で手打ち蕎麦はほんの一部のものになっているのだとか。二代目が店を継いだ時の蕎麦の実の状況をお話ししていたのを思い出す。70年当時は農家からしてみれば蕎麦はかなり下に見られていて、雑穀の最低レベルの扱いのため粉の質が悪くて大変困っていたという。美味い蕎麦を作るには北海道の農家や農協回りからはじめ、美味い蕎麦を栽培いただくよう依頼して回った情熱家でもあった。
【ツユ】
塩?そのまま?洒落臭ぇ!そういう店に限ってツユが不味かったり大したことが無いんだよ。どれだけ粉骨砕身返しに命をかけて注ぎ込んだんだと思うよ。
このツユがあってこの蕎麦であり、このツユがあって布恒更科であると言える抜群の相性。まぁ最初だけ数本そのまま啜ったりするけど後は極旨なツユにちょいと付けて食べるのが美味ぇんじゃねぇか、このすっとこどっこい!当方はここのツユが何よりも大好きだ。藪系より塩分は立たずに円やかな味わい。見た目漆黒の闇の様な色合いだが照りと艶があって何とも色っぽい。これを風味の強い蕎麦と合わせると、強い個性が互いに刺激しあって美味さを高め合うのだ!
返しも二代目の節氏の頃に拘りのツユとしてテレビで紹介されていたのを覚えている。ツユには砂糖は一切入っていない。信州の某味噌と醤油の醸造元と出会ってから、江戸時代の技法で木樽で作られていることを知り得た。その醤油で生返しを作るのだ。しかし江戸時代の技法を用いた醤油造りは並大抵の事ではなく難しい条件が幾重にも重なっていたのだそう。その拘りのたまり醤油は火にかけず、甘みは砂糖ではなく醤油本来の甘みと麹と味醂で作られ、陶器の甕に入れて地中に穴を掘ってある中に甕を埋めて数日間熟成させる。土製の甕の細かい穴からエグみや角が外へ排出され、出来上がったものは醤油の角が取れて丸味を帯びた味わいと化し、舌に快く感じる自然な旨みに高められる。返しの照りと漆黒の艶が色めかしく素晴らしい。こいつに蕎麦湯を入れて飲んだ時に香りがパッと花開き、旨味の余韻に浸れるのだ。
"辛汁のだし"はカビ付けした鰹の本枯れが使われる。カビ付けは煮込んでも魚の臭みを出さずに、旨みだけを搾り出す魔法の技術。カビ付けしない節は煮込むと魚の臭みが出るため、花鰹は薄く削って煮立てずに旨みだけを残すようにするとのこと。
"かけつゆ"は江戸蕎麦の楽しみの両輪であるという。昭和の頃は房総にごま鯖が沢山揚がり房総には土佐から醤油と共に鰹節のカビ付け技術も入ってきた。房総でカビ付けされたごま鯖節は低価格もあって、かけそばの熱汁のだしに使われるようになっていったのだそうだ。辛汁のダシとかけつゆは両輪だったはずなのだが、戦後はかけつゆが消えて、辛汁を薄めたものが普通になっていったのだそう。
今は代変わりをされて3代目が蕎麦を打ち、返しを仕込む。天麩羅の揚げ具合にいささか出来の不出来な時もあったが今はあまり差を感じない。蕎麦もツユも同様に思う。また新作蕎麦も出ており、今後とも通い続ける価値のある店である。
2016/02/10 更新
5月という月には、待ちに待った年に一度、あの魚を食べに行く。
天ぷら好きには垂涎の種、ぎんぽ(銀宝)だ。
布恒で大好きな天種で、冬の真牡蠣に初夏の銀宝とくれば超力双璧の天種だ。
ぎんぽは以前にも増して漁獲量が減る一方なことと調理が非常に手間どるため天ぷら屋でも何かに託(かこつ)けて無かったり用意されていないことも少なく無いのだが、布恒では必ず用意されているので毎年安心して稀少な魚を有難く戴いている。
ぎんぽは今月の2週目から出始めたとのこと。
GW前では早いと踏んでいた当方の狙いはバッチリと合った!
今日も海と大地の恵みを戴きます!
◉お通し 切干大根
◉蕎麦味噌
◉冷奴
◉ぎんぽ天 もり 大盛
◎日本酒 刈穂 六舟 秋田
ここに来たら鉄板の蕎麦味噌で軽く日本酒をキューっとやってから、美味い奴でお腹を落ち着かせる。
そして揚げたての季節の天ぷらを戴くのが超力の習わしだ。
本日のメインディッシュは”ぎんぽ”。
その体貌(ニシキギンポ科)、迷彩色を着込んだ様な色合いで、ゲンゲの色違いみたいな風態。
昨年うを徳でぎんぽを捌くところから観ているが、捌く処理に手間暇かかる様で、身も薄めで表面がヌルヌルしているため三枚におろすのも大変そうだ。
魚体は小さめであるが、穴子のようなフンワリとした食感とシコっとした筋肉質の身質を兼ね備えている希有な魚。
旨味もしっかりと閉じ込められてぎんぽ独特の風味で満ち溢れている。
穴子ほど脂は強く無いが、さっぱりとしつつも味わい深いぎんぽ独特の旨味と言おうか。
江戸っ子が脂が乗った濃厚こってりな秋鰹では無く春鰹を好むのがよく分かる。
ややクリスピーな仕上りだが中身はシットリしつつも余分な水分も抜かれてピンと張った身が新鮮さを教えてくれる。
何とも粋な魚だよ、ぎんぽは。
ぎんぽの旨味で口の中が一杯の最中、そばを手繰り寄せて啜ってやると、これまた堪らないね!
大根おろしの下には酢橘のスライスが敷かれていて、後半つけ汁に絞って入れると爽やかな風味がかえしと相まって、油物の天種を気持ちさっぱりと味あわせてくれて食欲を唆る。
〆に適度な濃度のそば湯でつゆの旨味を最後まで味わい尽くす。
酢橘の仄かな香りが堪らん(笑)
一年に一度は毎年布恒でぎんぽを戴ける幸せを今日も噛み締めつつご馳走様!!
大変稀少な珍魚、ぎんぽを戴き、蕎麦も大盛でかなりの盛りとなって〆て4,090円とは有難い設定だ。
しかし、このぎんぽ。
天ぷらでないとこの風味と食感が出ないそうだ。
水っぽさ、泥臭さ、小骨の多さ等々短所の多い魚だが、天ぷらにすると昇華する(活魚に限るが)。
そう、味は全く違うが、鮨種の小鰭と性質(たち)がそっくり。
この料理法でないと箸にも棒にもかからないという、そういった魚。
どこかの鮨屋で小鰭の解説をした際にも触れているが、こういう愚直な魚、大好きだ。