東京のFさんが投稿した串かんざし 久(京都/三条)の口コミ詳細

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串かんざし 久三条、祇園四条、三条京阪/日本料理

1

  • 夜の点数:4.8

    • ¥15,000~¥19,999 / 1人
      • 料理・味 4.8
      • |サービス 3.8
      • |雰囲気 3.8
      • |CP 4.7
      • |酒・ドリンク 3.8
1回目

2016/05 訪問

  • 夜の点数:4.8

    • [ 料理・味4.8
    • | サービス3.8
    • | 雰囲気3.8
    • | CP4.7
    • | 酒・ドリンク3.8
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

極上の素材を扱う異能の割烹

2013年8月再訪

この時期の久というと外せない食材があまりにも多い。
隠岐の島の岩牡蠣、宍道湖の天然鰻に天然スッポン、そして対馬の鱧、といった具合にである。
結果、昨年とあまり代わり映えのしない構成となっているかに見えるが、美味いモノは美味いのだから仕方があるまい。
しかし、スッポン好きの私のため、宍道湖の天然スッポンスープは特濃に仕立ててくれたり、また、写真にあるような美味い日本酒を飲ませてくれたりと、常連ならではの心遣いをしてくれることは、やはり嬉しく、良い店には通い詰めるべきであると実感させられる。

といっても、全く同じ料理ばかりを出す久ではない。
昨年、羹としてアグー豚と百合根の煮込み料理という和洋折衷の面白い料理が供されたことは詳述したところであるが、今年は特製のサムゲタンが登場した。
このサムゲタン、鶏は丹波の山奥で育てられた地鶏であるが、身が自然にホロホロとほぐれるまでに煮込まれている。
スープは鱧・スッポン・地鶏でとり、もち米はじっくり煮込まれてスープに溶け込み原型をとどめていない。
3種のキノコにクコの実・松の実・クルミ・アーモンド・丹波栗などが贅沢に使用され、実にも滋養満点である。
主人はこれをサムゲタンの久バージョンと呼んでいたが、和洋折衷の次は見事な和韓折衷をやってのけてくれた。
この酷暑の夏を乗り切るスタミナ食として、と、主人は客を気遣って出したのだという。

いつも食べれば元気が出るのが久の料理であるが、特濃のスッポンスープといいこのサムゲタンといい、今回は殊に素晴らしいパワーをもらって店を後にした。


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~2012年夏の特別列島行脚 その5~【串かんざし 久@京都】

その1【割烹 室井@東京・銀座】
その2【利助@奈良・橿原】
その3【ステーキハウス・バロン@熊本】
その4【ふく政@広島・西条】


2012年8月再訪

いよいよこのシリーズも最後の一軒となった。
かつて京都での食べ歩きの果てに出会い、その圧倒的な素材力と異能のセンスに魅せられ、それゆえかえって京料理離れが進んでしまったほどの、私にとって特別な、そして最後まで通い詰めた唯一の京都の割烹、それがここ「串かんざし 久」である。
夏の久の料理も当然ながら、かつて幾度も味わってきたが、今回はまた今回で新たな料理を披露してくれた。
ここへはいくら通い詰めても、全く以前と同じパターンということはない。
「季節ごとの定番」の料理は無論あるが、久は常に新たな食材、新たな料理を追求し続け、決して進化を止めることはない。
実にも、通い詰める甲斐のある名店である。

前置きはこれくらいにして、早速、今回のシリーズの様式に則り、供された個々の料理の順を追ってのレビューを始めることとしたい。


【和え物】
白キクラゲ、三度豆、ミニアスパラ、焼きナス、菊の花びら等を胡麻ばかりでなく、胡桃、アーモンド、松の実、クコの実等をすり潰し和えたもの。
このトロミの出た食感が主人のこだわりであり、実に手の込んだ、完全菜食系の逸品である。
完全菜食系でありつつ複雑にして濃厚な風味が詰まっており、美味い。
まずは「野菜から入る」のがやりやすいと語るここ久のセンスは、私の好みとしても非常に相性が良いと感じるところである。

【岩牡蠣】
個人的に、牡蠣ほどここ久の素材力を端的に示すものはないと感じている。
利助のレビューの中で既に触れたが、稀に見る上質さを誇る隠岐の島の岩牡蠣である。
利助も同じく隠岐の島の岩牡蠣を供し、その質も決してここに劣らないものであったのだが、やはり久の供する牡蠣は、夏も冬も、極上の一言に尽きる。

【ウニと塩辛】
ウニは北海道産の、海水に浸して空輸したミョウバン不使用のもの。
この時期、西日本では赤ウニを味わいたいところではあるが、これまた実にも立派な、一流の鮨屋でも滅多にお目にかかれない代物であることは間違いない。

塩辛は自家製であり、何気ないようでいて、尋常でない手間暇がかけられている。
過去にこれを口にした時は、正直なところあまり印象に残らなかったのであるが、今回よくよく味わってみると、その繊細にして豊かな味わいと絶妙な塩加減に驚かされた。

聞けば、岩塩を使用した蟹の塩辛と、鮑・帆立・アオリイカの塩辛を別々に半年寝かせてから合わせ、それから更に半年、都合1年寝かせることで、角がとれ、程よい塩辛さになるのだという。
蟹塩辛の方は、大量の渡り蟹を、ホテルに備えられているような巨大なスピードカッターで豪快に破砕し、トロトロになるまで半年寝かせて作るとのことであるが、今回はこの段階のものも試しにと味見させていただいた。
確かに、1年間熟成させて完成したものと比べると格段に尖った塩辛さを感じるのだが、酒のアテには良いかもしれない。
北海道の人は、(蟹ではなくイカの塩辛であるが)焼いたジャガイモにこのような塩辛をかけて食べるのだという。

ここ久の主人は、食材ばかりでなく、全国の食文化に関しても、実に精通していると感じられる。

【毛ガニ】
蟹もまた、ここ久のハイパフォーマンスぶりを大いに実感させてくれる食材であるが、毛ガニはここでは始めて口にしたように思う。
コンパクトでありながら、十二分に食べ応えがあり、旨みが充溢した非常に満足度の高い逸品であった。
毛ガニに限っては、小ぶりのものである方がミソが大量に詰まっており、旨いということを北海道の知人から学んだとのこと。
久の主人は、こうして全国に広がる独自の情報網から、食材に関する知識を常に吸収し続けているのであろう。

【鮎の風干し】
比良山の麓の川(安曇川か?)の鮎とのことで、内臓も全部付けて焼いたものに紫蘇塩を付けて食す。
久の夏の定番メニューといえよう。
今回、鮎に関しては利助で味わい尽くしてしまった感があるものの、しっかりと旨み・風味の凝縮されており、美味。

【鱧の白焼き?】
今回の白眉とも呼べる料理がこれである。
以前にも、同じような形でここ久の鱧を食した記憶はあるのだが、今回ほど驚かされたことはなかった。
利助の供した大阪湾岡田浦の鱧がこの時期にして驚くほどの旨みがあったと散々書いておきながら、あえて言わねばならないが、こと鱧に関して、今回の食べ歩きにおいて最も美味い料理を供したのはここ久であったと断言できる。

産地はと言えば、長崎県は対馬、調理法はと言えば、皮だけを炭火で炙り、身はその余熱に任せるだけというシンプルなもの。
モチっと、ふわっとした食感、溢れかえる旨み、そして何より「本当の鱧の味」がくっきりとした輪郭をもって立ち現れる。
(「落とし」のような調理法は旨みを水に逃がしてしまうので主人はしないとのこと。ただし、質の悪い鱧で同じことをやっても生臭さが出てしまいダメだそうである)
これにワサビを乗せ、液状にした岩塩、または梅肉ダレに付けて食す。
この梅肉ダレもまた、自家製のタレに少しだけ柚子の汁を加えた独自の風味ではあるが、私としては、液状の岩塩の方を鱧自体の持ち味をそのまま堪能できるという点でオススメしたい。

以下余談(読み飛ばし推奨)
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鱧に関して「韓国産か国産か」といった談義をしばしば目にするが、私はその対比自体が些か単純に過ぎると考える。
かく言う私も、かつて京都で食べ歩きを始めた頃は、様々な店主に鱧に関する意見を聞いて回り、多数派は「韓国産が上質」という考え、「国産にこだわる」派は一部(菊乃井等)、また「さヽ木」の店主は「ほとんどの時期では韓国産の方が上質、ただほんの一時期だけ国産の味がそれを上回る」と考えている等、単純な「韓国産/国産」図式に囚われた参考情報の収集を行っていた。
そして、当時の私の考えとしては、「韓国産は脂ののりこそ良いものの、それはやたらに脂の多い霜降り牛を有難がるようなもので、
脂の旨みばかりでなく、鱧自体の風味を大切に味わうのなら、やはり国産の方が美味い」というものであった。
が、そもそも一口に「韓国産」と言っても、「餌が豊富に与えられた当たり外れのない養成モノが京都の一流店でも使われている」といった話を耳にすることもさることながら、何より単純に「国産」という括り方をすることにこそ、大きな陥穽が潜んでいたと後に気づくこととなった。

京都の一流店が使用する「国産」の鱧とは、ほぼ沼島を頂点とする淡路島産を指すようであるが、その沼島の鱧、久の主人によれば、明石海峡大橋の建設に伴い、橋脚の設置のために大量の砂地が除去され、鱧の食べる餌がなくなってしまったとのことで、実際、「骨は硬いし身はパサパサ」と格段に質が落ちたとのことである。
(元に戻るにはあと10年はかかるだろうと言われているとのこと)
そこで、当の久の主人が選んだ鱧が「対馬産」であったことはこのレビューの通りであり、私としても、これが(独特の調理法によるところも大きいのだが)今回の食べ歩きの中で一番美味い鱧であったと断言できるところである。
更に、私の経験からすれば、「割烹たけした」で食べた「鹿児島産」の鱧も驚くほど美味く(「宮崎産」は残念ながらそこまでのものには出会えなかったが)、私がよく口にしてきた「瀬戸内産」も(時期によるものの)非常に上質であった。
そして何より、かの利助の「大阪湾岡田浦の鱧」、これが淡路島と同じ近畿地方の鱧でありながら、この時期にして(瀬戸内の鱧がまだ脂がのるにはひと月早かったにもかかわらず)驚くほどの旨みに溢れていたという事実も明記せねばならない。

つまるところ、一口に「国産」と言っても、私の経験に限ってさえ、美味い鱧は近畿地方から中国地方、果ては九州(対馬や鹿児島)まで分布しており、旨みの増す時期に関しても、(今回で言えば岡田浦の鱧や対馬の鱧のように)明らかな例外が認められ、そこへ更に、調理法 ・大きさ・個体差(による食感の違い)といった要素までが大きく関わることを考え合わせると、鱧の良し悪しを「韓国産か国産か」といった大雑把な物言いで語ることは到底できない道理となる。

私としては、近年はもはや韓国産の鱧を口にすること自体が絶えてなくなり、国産であるのは当然の前提として、どの地方の鱧を、いつ頃、どの料理人が、どのように調理したものが美味いか、ということに関心がシフトしており、はっきり言ってしまえば韓国産は論外、問題は「どこで美味い国産の鱧を食べられるか」であり、それこそ鱧談義に相応しい内容と考えるに至った次第である。
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【鰻の蒲焼】
宍道湖の汽水で育った天然鰻を直火で焼いた蒲焼である。
具体的なサイズは聞きそびれたが、十分に身の厚い汽水の鰻でありながら、蒸すこともなく、実に柔らかく焼き上がっている。
(以前、同じ宍道湖の鰻をここで食した記憶としては、やや硬かった印象が残っている)
主人によれば、テレビの中で、ある職人が「じっくりと時間をかけて焼く」という、鰻を柔らかく焼くコツを語っているの目にし、早速真似をしたのだという。
私としてはそれは既知の情報であったが、それにしても、ふと見かけたテレビからも技を盗み、たちまち自分のものにしてしまうという、この主人の料理にかける貪欲さには舌を巻く。
私が四万十川の鰻の話をすれば、四万十川上流ではあまりに身がカチカチであるため、すき焼きにして食べる所があると、これまた食文化に関する該博な知識の一端を披露されてしまった。

この蒲焼、蒲焼としては文句の付けどころがない出来栄えとは感じたものの、やはり欲を言えば、白焼きで食べてみたいところである。

【スッポンのスープ】
鰻と同じく、宍道湖の汽水に生息する天然スッポンのスープである。
「鍋で食べるようなスッポンとは違い身は硬いが味は濃厚」との主人の言の通り、実に味わい深い。
中には生麩の他、花山椒にその日採れたての寒天質の多い上等なジュンサイ等が入っており、非常にに贅沢な一杯。
なお、ジュンサイは現在、京都のかつての名産地であった深泥池のものを、岡山の山間部にある水の綺麗な貯水池で育てており、久ではこれを使用しているとのこと。

【アグー豚と百合根の煮込み料理】
大量の野菜と果物を2日間煮込み裏漉しして出来たドミグラスソースの中に、百合根、天然の帆立、タマネギ、そしてアグー豚が入っている。(微塵切りにしたセロリとパセリ、生クリームも)
ここ久の供するアグー豚の美味さについては、これまでにも角煮等を食した経験からよく知っていた。
一般に出回っている、養豚場のような所で飼育されたアグー豚ではなく、主人が独自のコネクションを持つ農家の庭で、果物等を与えられのびのびと育ったアグー豚であるため、脂身のほとんどが脂肪ではなくコラーゲンなのだとは以前より聞かされていたが、実際、この豚の脂身は、冬の比良山荘などで(当たり年に)供される上質な猪の脂身、否、ツキノワグマの脂身にも比肩する素晴らしい質感であり、通常、豚の角煮などを口にすれば気分が悪くなるほど肉離れの進んだ私にとっても、こればかりは非常に美味いと感じられる食材である。
今回はそれをドミグラスソースの中で百合根と取り合わせるという発想が何とも面白い。

このような和洋折衷のメニューについては、創作性の度が過ぎていると感じるむきもあろう。
私も安易な創作料理、奇を衒った軽薄な和洋折衷などというものは好まない性質の人間である。
が、久の主人がフランス料理の要素を取り入れることに関しては、決して安易でも軽薄でもないと私は感じる。

そもそもここ久の主人、学生時代にした洋食屋でのアルバイトを通じ料理の面白さに目覚め、はじめに志した道はフランス料理の世界だったのである。
それから本格的にフランス料理を食べ歩き、修業も始め、帝国ホテルへの就職までが決まった所で、「上等な肉(ステーキ)が苦手だった」という理由により、日本料理へ転向したという極めて奇妙な経歴を持つ。
それゆえ、今も和洋を問わず煮込み料理を好むとのことであり、今回のような創作料理が生まれるのにも、それなりの背景と下地があってのこと、と言えるのではないかと思われる。
ことフランス料理に関しては、かつて膨大なレシピを載せた浩瀚な文献を読み漁るなどし、「正統なフランス料理の基礎は全部覚えている」という主人の言葉は信じるも信じないも自由であろうが、この主人に「ただ者ではない」異能のセンスと理知とを直感した者ならば、私のこの最後の料理に対する評価にも、幾分かの理解は得られるのではないかと期待する。


以下余談(読み飛ばし推奨)
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本来ならば、ここからご飯もの(オムライス等)、デザートと進むところなのであるが、今回は省略した。
理由は、次の予約があったから、である。
その予約先とは、縁あって知り合い、私にここ久という店を紹介した当人、即ち「祇園のお父さん」の店である。
そこへ赴くからには、舞妓・芸妓の一人も呼ばない訳にはいかない。
これは、「純然たる美味の追求」を旨とする私の活動からすれば些か寄り道めいたことではある。
が、かつて、京都を食べ歩くにあたり、未知なる名店の存在を教わったばかりか、数多の訪問先で優遇を受けられたという恩義はあまりにも大きい。
京都にあって、「紹介」とは、今もって、単に店の存在を知らせるという以上の意味合いを含む。
一般客よりは多少なりとも特別なモノが供されたり、「一見さんお断り」の店に訪問可能となったりするばかりでなく、あるバブリーな店などでは、紹介者の同伴の有無により会計がまるで別物となるといった例もある。(客によってはワインだけで100万だ何だとなるという)
京都における私の食運の源が、一も二もなくこの「祇園のお父さん」とのご縁にあったことを考えれば、今回の一時帰郷、列島行脚の締めくくりに、長い無沙汰を詫びての訪問をしないわけにはいかない道理となる。

というよりも、今年2月の訪問時、かつて「私のお気に入り」ということで幾度か呼んでいた舞妓からの言伝が久の主人より私の耳に入り、ハッとした時には既に京都への再訪の機会は失われていた、というのが実情である。
よって、今回の一時帰郷という想定外の機会は、この点についても幸運であったといえる。
かつての「お気に入り」であった舞妓は既に芸妓となっており、その成長した姿を目にすることができたこと、そして私には到底理解の及ばない深い芸の世界ではあっても、その一端を垣間見つつ酒を呑む時間がこの上なく楽しかったということは事実である。

久々に、京都祇園にて良い一夜を過ごすことができた。
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さて、余談も多く、非常に冗長なレビューとなったことは誠に申し訳ない限りであるが、これが私にとって、「鮮度の高い詳細なレビュー」をする恐らく最後の機会となるだろうことに免じて、どうかご容赦願いたく思う。

ともかくも、以上をもって「2012年夏の特別列島行脚」シリーズは閉幕となる。
ここ「串かんざし 久」は、その掉尾を飾るに相応しい名店であったと確信している。


総評:★4.5
通い詰める価値あり、稀有なる名店。


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2012年2月訪問


自己紹介に和食中心と書いておきながら、これまであまり日本料理の店について本腰を入れたレビューをしてこなかったように思う。
しかし、そろそろペースを上げて私の和食経験について総括していくことにしたい。


これまであまり京都の和食には触れてこなかったが、決して関心がなかったわけではない。
むしろ、一時期はかなり集中的に食べ歩いていたように思う。
浜作千花といった名門店、建仁寺の丸山阪川といった優良店、さゝ木なかひがしといったややミーハーな店、そして末友にしかわといった新進店についても、両店主が花霞で料理長をしていた頃から独立するまでを見てきた。

嵐山の吉兆などをはじめ、ややグレードの高い店、或いは少しディープな店については、大市のすっぽんが好きな某三味線バーを営む「祇園のお父さん」(祇園通の方ならお分かりだろう)との同伴で訪問した。
そんな中で印象的であった店を挙げるなら、洗練とオリジナリティーが調和した鈴江、バブリーな豪快さに驚かされたます多といったところだろう。
そしてまた、紹介を受けて訪問した店としては、河繁が私の好みに合っており、質朴ながら一品一品にどこか奥深い魅力を感じたものである。


前置きが長くなった。
ともかくも、京都でそのような和食遍歴を続けてきた私をある時釘付けにしたのが、先の「祇園のお父さん」の紹介で訪れたここ、「串かんざし 久」である。
かれこれ10回近くは通い詰めたと思う。
ここに出会ったことで私の料理観は「素材力」に重点が移り、皮肉にも私の京料理離れが進む結果となったと言えるかもしれない。
料理の詳細については今や多くのレビュアーが紹介しているので必要あるまい。
上質なアワビやカニ、汽水域で獲った天然ウナギ・天然スッポンをはじめ、農家の庭育ちのアグー豚、極上の牡蠣、特注の生コノコ、鮮度抜群で驚異的にクリーミーなアン肝など、どれもこれも、ここでしか食べられない飛び抜けた素材ばかりである。
そして紹介者があったうえで通い詰めた特典とも言うべき特別な食材にも巡り合うことができた。

ただし、ここの料理は決して素材だけではない。
他の京料理とは全く系統を異にする、異能感覚とも呼べる捉え方で食材を調理し供するのである。
個人的には野菜・山菜・木の実・キノコ・豆などをふんだんに使った和え物などの菜食系メニューもこの店の見落とせない魅力であると思っている。
また、独創的な締めのオムライスは、舌の肥えた祇園の芸妓や舞妓をしてうっとりさせるほどの名物となっている。
こういった特異なセンスは、ここの主人の一風変わった経歴に由来していよう。

ここの主人ははじめから料理人一直線の叩き上げだったわけではなく、どちらかといえばインテリ系の大学生であった。
それが、ある時、たまたま料理店のアルバイトをしたのがきっかけで料理の面白さに目覚め、この道を志したとのことである。
もちろん、そこで早々に自己流の店を始めたのであれば、これほどの店にはなっていまい。
実に9年にも及ぶ名店での厳しい修業を経て、きっちりと日本料理の基礎を身につけたうえで自分の店を始めたそうである。
そうして、休みを利用しては鉄道で全国を巡り歩き、直に漁師や畜産家と関係を結ぶことで、現在のような仕入れを実現するに至った。
例えば、ここの牡蠣ひとつ口にすれば、いかに優れた仕入れのルートを持っているかはあまりにも明白である。
それは単に「○○で獲れた牡蠣」という産地のブランドを知っただけでは決して真似をすることはできない。
信頼関係のある漁師一家が特別な漁場で獲った牡蠣だからこそ、それだけの質を誇る、ということをここの主人は誰よりも熟知している。

ある時、私は主人に「もっと早くから料理人の道へ進んでいた方がよかったか、それとも大学生という時代を経験してよかったか」といった旨の質問をしたことがある。
主人の答えは後者であった。
「料理人というものは本来、インテリこそが就くべき職業である」とは私が学生時代に通い詰めていた海新山という極めてエキセントリックな中華料理店の主人から聞いた印象深い言葉であるが、その真意をこの店は実感させてくれたように思う。

日本料理人としての確固たる下地を身につけた修業経験、一方で理知的な視点と異能のセンスで素材を扱う創作性、そして全国の優れた食材の生産者との広範なコネクション、ここ「串かんざし 久」の料理にはその粋が結集されている。

また、2万円程度でこれほどの料理を供するというのは、この祇園という立地にあっては驚異的なCPであるといえる。
私としては毎回の訪問のたびに、もっと料金をとればいいのに、と思うほどである。

散漫なレビューとなってしまい申し訳なく思うところであるが、私にとってそれほどの店であるという点をご理解いただき、まだまだ書きたいことは尽きないものの、このあたりで筆を擱くこととする。


総評:★4.7
通い詰める価値あり、稀有なる名店。

  • 菜系和え物2013

  • ウニと蟹塩辛2013

  • 鮎の風干し2013

  • 隠岐の島の岩牡蠣2013

  • 対馬の鱧2013

  • 宍道湖の天然鰻2013

  • 宍道湖の天然スッポンスープ(特濃)2013

  • 鮑と蟹

  • 特製サムゲタン

  • nechi 2005年

  • 八海山 特別純米原酒 1年貯蔵

  • 半生クチコ(一部の常連に絶大な人気を誇る特注の逸品)

  • 洋食風肉料理

  • 和え物

  • 隠岐の島の岩牡蠣

  • ウニと塩辛

  • 蟹塩辛(半年寝かせた段階)

  • 鮎の風干し

  • 鱧料理(左が梅肉ダレ、右が液状の岩塩)

  • 皮だけを炭火で炙った鱧

  • 宍道湖の天然鰻の蒲焼

  • 宍道湖の天然スッポンのスープ

  • アグー豚と百合根の煮込み料理(ドミグラスソース)

  • アグー豚と百合根の煮込み料理

2016/06/03 更新

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