いつものように不揃いの階段を登る、店の入口にはリースがかかっていた。
店の中、見慣れた風景も大きく異なる点がひとつ。
それは、店内男だらけ・・・
オープン当初、マネージャーの近藤さんとその他に女性二名によるサービス陣で始まったフロリレージュ。
一年目を過ぎた頃に女性の内一人が自らの店を持つ為に抜けた、ちなみにその店が二子玉川の
エクイリブリオ二面目を過ぎた頃に新しく入った若い女性が店を去りその代りに若い男性スタッフが入ったのも束の間、
オープン当初からいたもう一人の女性が店を去ったのがこの夏。
その穴を埋めたのが今回初めてお目にかかる男性スタッフ(実は他の店で会ったことがあるらしい)
と言うことで男三人体制の新生フロリレージュへの初訪問になった。
男だらけのダイニングはやはり今までと雰囲気が違う。
少し大人びた雰囲気とでも言おうか、少なくとも今後女性客の評判が良くなるであろう事は容易に想像できる。
入口側の席、いつものようにシャンパーニュで始まるランチはこれまたいつものように夜同様のおまかせコース。
個人的理由でワインはいつもに比べて控えめでお願いしたのだけれど結局美味しくすすんでしまった気がする。
我ながら自制心の無さに呆れるのだがそれはまた別の話。
アミューズの一品はシェフがこだわっている(らしい)キャビアを使った一品
私個人は「キャビアなんてちょっと食べたって何がなんだかわからんからやめときゃいいのに」とずっと思っていたのだけれど
ここ最近段々とキャビアのある意味を感じるようになってきているから、ちょっと悔しい。
この日のアミューズは白く冷たいカリフラワーのムースの底に牡蠣が潜んでいる。そして白の上に黒の点々でキャビアが乗る。
最初少し冷たさが過ぎるけれど慣れてくると牡蠣の風味と旨味がしっかりと広がる。その牡蠣を受け止めるのがキャビア。
旨味にアクセントを与え風味を更に高めてくれる。
なるほどキャビアに意味がある。大きな声では言わないけれど・・・
四角いグリーンオリーブずっと変わらない見た目、少しずつ微妙に変わる味わいもここ最近は落ち着いているように感じる。安心できる味わい。
アワビクリームコロッケ料理名は私の独断と偏見によるものなのでご了承を、
黒い衣をまとった塊、その黒さはトランペット茸によるものだそうで中にアワビのムースとスライスされたアワビ。
サックリとした衣の中からトロリとたれる白いクリームには旨味が濃縮されその中にクニャリとしたアワビの食感が心地よい
ソースもまた黒くやはりトランペット茸から、立派なキクラゲまた他の愉しみを与えてくれる。
そして黄色い銀杏の粒、表面の塩気、そして匂い。
食材の魅力を、全く形を変えながらも引き出している意欲的な一皿と
幸運な事に高い完成度に仕上がった時に出会う事ができた。
熊とフォアグラのバロティーヌいつかは行ってみたい大雪山、しかしそこでは絶対に出会いたくないヒグマ。
出会うのがフロリレージュの皿の上なら大歓迎!
ヒグマの様々な部位を食感を残る程度にミンチ状にしたものでフォアグラを包んでいる。
熊の脂は強烈ながら嫌味なところはない、フォアグラと相まって中々にパンチのある一皿。
添えられた野菜がその脂を幾分制御しようとするもののそれを跳ね返す程の強さ、
ワインが無ければきっと重すぎる一皿をワインと一緒に美味しく頂く。
この一皿をまとめてハンバーガーにしたらなんて妄想、きっと旨いが他の料理は食べられなくなるなきっと。
スッポン魚料理は魚らしくない料理との事、スッポン・・・確かに魚類ではない。
スッポンは小さなハンバーグのような感じと言えばいいのだろうか
トマト、マグロ、トリュフのスライスが添えられ、卓上でスッポンのスープが注がれる。
滋味深いスッポンのスープにほどけるスッポンの身、添えられたトマトとマグロが思いもしないほどに全体と調和している。
特にトマトは見た目何もしていないのかと心配になったけれど口に入れて意外な風味に驚かされた。
マグロもまたマグロである必然性を感じさせてくれる、スッポンとトマトをつなぐ様な存在。
このスッポン料理にはおまけがつく。
近藤さんが差し出した黒い皿の上にはリボンで結ばれた甲羅と頭部の骨。
ある意味悪趣味だけれど笑えるプレゼンテーション。
その皿の上に乗るのが
ブーダンノワールのどら焼き“スッポン”と言えば“血”
“血”と言えば“ブーダンノワール”という実に分かりやすい展開から
その場にあったらしい“どら焼き”に発展した一品はもっと“血”を感じさせても良いのかなとは思ったものの
まぁ小ネタなのでこれで良いのかなとも思う。
コルベール「なんでコルベール?」と聞いたら「状態が良かったから」と明快なお答え。
と言うわけで
エクイリブリオに続いて今シーズン二羽目のコルベール。
こちらの仕上がりは実にシンプル、ここまで仕掛けの込んだ料理で魅せておきながらフッと抜くようにシンプルに出してくる巧みさは心憎い。
火入れの見事さは今更クドクド言う事もないと思う、添えられた辛味のある野菜が心地よく皿の奥にある栗のペーストが好みでコクと甘さを添えてくれる。
肉料理の二皿目はコルベールの腿肉を使った一品、シューの中に柔らかく煮込まれた腿肉が入っている。
せっかくの腿肉を随分と贅沢に!とは思ったけれどなるほど噛むほどに滲み出る旨味。
二皿とも実に巧みに仕上げられた肉料理、ただシンプルさで押すには弱さも感じた。贅沢な愚痴。
プレデセールガラスの器に赤紫の滑らかな泡状、「ファンタグレープ」だそうだ。
確かに泡部分は微発砲している、しかしこの微発砲がその方が良いかと言われるとそのあたりは微妙なところ。
中に入った巨砲のサックリとした食感が印象的。
そしてこのデセールに使った貴腐ワインの貴腐葡萄を見せていただいたがこちらもまた印象的。
アップルパイ春巻きみたいな見た目。
焼いたリンゴを苦手な人には苦手だろうなという焼いたリンゴそのままの食感、
私は苦手ではないけれどそれでも食感が大きすぎると感じる。
なぜこういう仕上がりになったのか意図が見えなかった。
苺のパートドフリュイを紅茶と一緒に。
今年は3回しか伺う事ができなかったけれど、伺う度の感動は回を重ねる毎に大きくなる。
新体制になってフロリレージュはどれだけ魅力的な店になっていくのか追いかけられる内は追いかけ続けて行きたいと思う。
ちなみにこの後、アルコールはひいたとは言え産院へ。
まだ名前も決まっていない君、伯父さんをゆるしてね!