『マイスターの凄さ』くいしんぼうヤマゲンさんの日記

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くいしんぼうヤマゲン (60代前半・男性・埼玉県) 認証済

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2011年3月6日公演

この日は川崎ミューザホールに東京交響楽団名曲全集第65回公演に行ってきました。
大阪交響楽団(旧大阪シンフォニカー交響楽団)の音楽監督の児玉宏さんの指揮と
いう事で聴きに行きました。

大阪交響楽団という財政的に決して恵まれていないオケで、精力的かつ個性的な活動を
なさっているそうです。また関西の知人からも素晴らしい指揮をする方と聞いてました。
しかし聴きに行くのを決めたのは、NHKの「オーケストラの森」を見て、
この方と東京交響楽団の共演はとても期待できるのではないかと感じたからです。
この番組は先日東京交響楽団もスダーン指揮のブルックナーの8番交響曲が、
放映されましたが、その場に自分もいたこともありその時の感動を思い出しながら見ました。

プログラムの最初はシューベルトの未完成でした。児玉さんがタクトを振り、
出てきた低弦の響きに驚かされました。初めてこのオケで聴く音です。
この日はコンサートマスターは大谷康子さん。この方の時は本当に
このオケは温かみのあるしかしパワーも備えた素晴らしい音を出すのですが、
質感が少し軽めに感じることもあり、その点だけは、N響が上かなと思ってました。

しかし児玉さんのタクトから紡ぎだされる、その音は芳醇かつ熟成されたもの。
しかも東響の音色は損なわれていない。凄いことです。
これだけの聴きごたえある未完成を日本のオケで聴くのはそうあるものではありません。
とても良かった。

次にスペインの若手ピアニスト、ペリアネスをソリストでモーツァルトの23番です。
ペリアネスの若々しくもオーソドックスなピアノを児玉さんはしっかりと支えてゆきます。
しかしアダージョでは児玉さんが演奏により深み与えてゆきます。
奇をてらわない良い演奏でした。アンコールのショパンのマズルカはペリアネスの
高い音楽性を感じました。これからがさらに楽しみです。

さて後半のベートーベンの第7交響曲は圧巻でした。
この曲は勢いだけでもそれなりによい演奏になりますから、あまり外れることはありません。
しかし児玉さんの演奏はそんなレベルではありませんでした。
オーケストラからどっしりとしかし重過ぎない響きが・・・
何より音楽の躍動感があり活きているのに、全く先走ることのない演奏。
終楽章の盛り上げ方もしっかりと心をつかんでゆく。
日本のオケでこのような凄い演奏に出会ったのは初めて。
本当に感動しました。CDで自分が好きなクレンペラーの演奏さえも思い出させました。
でも決して重々しいだけではなく、躍動感に欠けず、古楽的な要素も感じさせる
多彩さも感じさせるものでした。

児玉さんは小澤征爾さんの弟子筋にあたりますが、ドイツの歌劇場でキャリアを積んできた
まさにマイスターといえる方です。
ですから音楽がしっかりと組み立てられ、そこに音楽の多彩さが加えられてゆくのでは。
上滑りしてうるさい演奏になることはどの曲でもないでしょう。
ネッロ・サンティさんとN響の演奏も好きですが、個性は違いますが同じものを感じます。
歌劇場では決して恵まれた環境ばかりではなかったでしょうから、大阪交響楽団という
財政的に苦境に立ったこともあるオケを、立て直しさらなる評価を得ているのでしょう。

最後に大谷さん率いる東響も児玉さんの意図を良く汲み取り、あれだけの演奏が
できたと思います。特に大谷さんはどのような指揮者ともベストの演奏をできるよう
いつも大変献身されていると感じさせます。素晴らしいオケです。
考えてみれば、クレンペラーもイギリスの(ニュー)フィルハーモニア管弦楽団と
名演の数々を残していますが、このオケは対照的な指揮者といえる
カラヤンともたくさんの演奏を残してますね。(良い演奏多いのですが、ベルリン・フィルとの
再録の陰に隠れてしまってます。)
どのような指揮者とも水準の高い演奏ができることも凄いことですね。

日本のオケでこれだけの演奏を聴けること大切にしなければならないと思います。
来年度もすばらしいマイスターたちによる素晴らしい料理と音楽との出会いがたくさんありますように・・・


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