『山下裕二:驚くべき日本美術』コロコロさんの日記

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『こう見てヨシ!をもう一度/驚くべき日本美術』(山下裕二、橋本麻里)

という本から、日本画の見方をいろいろ教えられています。


■印象的な言葉

作品を「はじめて見る」という体験は一度限り
解説を読むのは後回しにして、まず作品を見る。

美術は自然とは違って、人為的な操作の構造を見て面白いと思うもの
従って、経験値や知識は必要
だが、知識があると見ることを邪魔する。
ため込んだ体験と知識を棚上げして、虚心担壊に向き合うことが重要。


これまで、知らないがゆえに、感じることができる広がりがありました。

○琳派の私淑なんて、だれでもがやってきたことじゃない。
○宗達の記録が残っていないってみんな口をそろえるけど
 そんなことってありうる? 全く何も残っていないなんて・・・・
 宗達ってもしかしたら、空想の人物なんじゃない? とか・・・
○本阿弥光悦が鶴下絵図で、間違えたって言われているけど、きっと、わざとだわ・・・
○光琳の紅白梅屏風って、2つあるの?  それって版画?

知識があれば、そんなことは、絶対に考えません。  



■「物をいかに見るか」
日本画のポイントは絹地「岩絵の具」を使っていること。
と山種美術館の館長さんの説明がありました。

しかし、「岩絵の具」っていったい何?
そこから説明してくれないとわからない・・・

鉱石を砕いている・・・・ そこが肝心なポイント。
日本画を知っている人は、そんなこと当たり前かもしれないけど、
私たち日本画なんて知らないんだから・・・・

それを知ることで初めて、
「塗る」のではなく「染める」という意味がわかるし
実際に絵を見て、あっ、絹地だ!  
なるほど、ここに染み込ませてるわけね。って理解ができます。




■筆のスピード、躍動感、迷いのない筆運び

水墨画や、墨絵の感想を見ると、よくこの言葉を目にします。
しかし、筆に迷いがないなんて、そんなこと、どうしてわかるの?
単に、美術表現のことばとして使われているのでは?

じゃあ、迷いのある筆運びって、どういうものなの?
具体例を挙げて下さい。って思いながら見てました。



■筆ネイティブ
山下先生は、筆ネイティブという言葉を作られました。
それは“物心ついたときから、鉛筆ではなく筆をしっかり持っている人のこと
だそうです。

そういう人の描くものは違う・・・・
ということなのだと思うのですが、
現代の日本画家は、それがあてはまるかもしれません。
しかし、昔の人は、みんな「筆ネイティブ」ってことになります。
鉛筆なんてなかった時代だし・・・・

そこで優劣というか、上手下手は何で決まるのでしょうか?



■鉛筆の歴史
ちなみに鉛筆っていつ頃、作られたのでしょうか。
それは、450年前、イギリスだそうです。

日本に入ってきたのは・・・・
すでに、400年前、家康は、鉛筆を持っていた記録があるそう。
そして伊達政宗も持っていたといいます。

しかし、一般に普及したのは、
1853年、ぺリー来航の時に、持ってきてそれからとのこと。

  ⇒○鉛筆の歴史より


ということは、明治以前の人は、ほとんどが筆ネイティブってこと。

筆のスピードの違いが生む線の躍動感の違い。
筆ネイティブなら、生まれながらにそういうものを持っているということ?



■数を見れば素人もわかる?
明治以前の筆ネイティブにも、筆致のすばらしい画家、そうでない画家がいたはず。
それは「物心ついた時に」筆を手にしていたかどうかが
ポイントということでしょうか?

山下先生は、絵が現れて上から3センチで見える線の特徴で、
誰が描いたかわかってしまうほどの筆跡フェチ・・・・・ 
それは、特殊能力だと思っていました。

「本物、そして数を見ればわかる」と言われたって、
先生は専門家だし、見る機会も多いわけですし・・・
単に趣味で見ている私たちが、その域になんて行けるわけがない。

でも、分かった風に、筆致を語る愛好家の人たち。
ほんとにわかって言ってるのかしら?  
ただ、そういう言葉として使ってるいるだけじゃない?
なんて思っていました。




■絵の感想は・・・・
先日、日本画の那波多目功一氏によるギャラリートークに参加して伺った話。

よくわからない時は、
「実になんとも言えない雰囲気のある絵ですね」(←うろおぼえ)
と言っておけば、まず間違いない。

日本画は、スケッチはありのままに描き
絵は目に見えないのもの、空気感を表現する。

たとえば、春の兆しの中の希望
それは、香りであり、空気、夢や希望であったり、
暑さや寒さなど、四次元の世界を描く。
いい悪いは四次元の世界、雰囲気をどう描くか。

絵は理屈ではない
ものを説明するのがいい絵・・・・

ということなので、
「なんとも言えない絵」とこの言葉を言っておけば大丈夫・・・と
ユーモアを交えてお話しされていました。


絵を評価する時に、こういう言葉ってあるのだと思います。


「迷いのない筆運び」「躍動感溢れる筆運び」 


そんな言葉を発しておけば、なんとなく
絵がわかっている人みたいに見えるし、評価できてる・・・・みたいな(笑)


山下先生ほどになれば、筆致などもわかるのだと思うのですが、
絵を語る人たちは、わかった風を装って、
こういう言葉発しているんじゃないか・・・って(笑)




■素人でもわかるかも
ところが・・・・・

なんとなくわかる気がしてきたのです。
建仁寺の襖絵。これを見て思いました。
「迷いのない筆運び」とはまさにこのこだと・・・・

そして院展でお偉い先生の筆運びを見た時。
絵のタイトルでもある、「○○」の筆運びは一発勝負の迷いのない筆。
確かにすごい!  でも・・・・ 
「○○の部分は、あれ? これですかあ?」
 なんだか心もとなく感じてしまった私は、一体、何様よ! って(笑)

しかも・・・・・

「横山大観は、やっぱり下手だったんだ!」と、確信してしまったのです。
建仁寺の襖絵を見たら、大観がなんぼのもんじゃい!・・・
って思っている自分に、驚きつつ・・・

全然、聞いたこともない「海北友松」
読み方すら知りませんでした。
「かいほうゆうしょう」と読むそうです。
こんな無名な(←この世界では有名らしいですが、世間的には無名)襖絵の方が、
ずっとずっと、心をかきたてられたのでした。


初めて大観を見た私の直観は、まんざらじゃないじゃない!

横山大観について② (2016/02/09)
横山大観について① (2016/02/09)


なんとなく、大観、私は好きじゃない・・・と思っていたのですが、
絵を見て、大観=下手  そう確信してしまったのでした。


院展で、大観先生・・・・と崇め奉られているのですが、
みんなそう思っているのかなぁ・・・・



■画家の筆致
山下先生は次のように、それぞれの画家の筆致について語られています。

・曲率の曲線が特徴の若冲。
・筆の穂先の割れを気にしないくらい筆が速く乱暴な雪舟。
・手が震えている雪村。
・下書きとずれまくる白隠。
・どれだけ練習したんだと思えるくらい遅い筆の宮本武蔵。
・ビューンと迷いゼロ! というくらいに筆が速い等伯

最初に見た時は、そんなこと素人にわかるわけがないでしょ・・・・
と思っていました。


でも、若冲の群鶏図を見たあとに、尾の曲線とぐ似たような曲線の絵を見た時、
若冲の鶏の尾みたいだな・・・・って思ったのです。
すると、まさにそれは若冲でした。

   
「海北友松」の筆の運びを見たら、私にだって
そのうち、画家ごとの筆致がわかるようになるかも・・・・
そんな可能性を感じさせてくれたのでした。



■日本賀応援団
山下先生は、日本画応援団を作って、
これまでの美術評論とは全く違う観点で、日本美術を見ています。

  ⇒○記事93◆雪舟展を赤瀬川さんたちと見に行く、の記事より

こちらで雪舟の人間くささを、あぶり出していきます。
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高名な天童寺から「第一座」の称号をもらったのが雪舟の自慢。
これを誇らしげに記す。
山下団長は「無邪気に自己PRするタイプだったんでしょうねえ」と。

その昔、この絵をめぐって真贋(しんがん)論争さえあったという。「昔のエライ美術史家はこういう絵が嫌いだったのかも。下品だと映ったのでしょう。雪舟はもっと高尚なはず、とね。国宝とか、重要文化財とか、最高傑作とか、絵の肩書にとらわれずに見た方がいいですよ」

教科書でおなじみの「天橋立図(あまのはしだてず)」山下団長は、海を描いた空間に落ちた朱色の染みを指摘する。朱が乾く前に紙を畳んだため、折り目と左右対称に朱の染みができてしまったらしい。「国宝でも、絵が乾く前に紙を折っちまうわけね」と、赤瀬川、南の両団員は大笑いだ。
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日本画もこういう見方をしたら、とっても楽しいと思いました。
国宝、重文など関係なく見る。というのは、名前で見ないに通じると思います。
大観だからすごいわけじゃない。
知らない画家にだって、すごい人はいる!

最高傑作についても、ガレの最高傑作と言われている「ヒトヨダケのランプ」
これのどこが、最高傑作なのか私にはわかりませんでした。
そう語る人は、何を持って、最高傑作と言いたいのか・・・
それをちゃんと説明して欲しい・・・って思いながら見ていました。


さらに続きます。
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 「なぜ模本と分かるのですか」。

 「だってうますぎるでしょ」
 「は?」
 「この模本は、上手だけど丁寧で整い過ぎている。
  雪舟はねえ、もっと勢いがある。『乱暴力』があるんですよ」

 乱暴力――。
 「日本美術応援団」が生んだ名言の一つだ。線に勢いがある。
 割れた筆でぐいぐい押す。緻密(ちみつ)過ぎない。計算し尽くされてない。 そんな力のことを指す。「乱暴力」は、なまで見るとよく分かるのだ。

 それにしても、「日本美術応援団」の一行は目立つ。それぞれに著名な3人である。その3氏が「雪舟の絵って変だよねえ」「こりゃ模本だ。うますぎる」「雪舟って曲線が苦手だよなあ」とぽんぽんと感想を口にするから強烈である。
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そうだ、そうだ、
だから私が、大観って下手だよね~って
言ったっていいじゃない?(笑)

だって、初めて見た時、心踊らされなかったんですもん。
富士山の絵もそうだったし、他にも、松なんかもあったのですが、
え~、これ~  なんだかへんなの~  って思っちゃいました。
でも、「竹」はすごいなぁ~  って・・・・



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 雪舟には失礼かもしれないが、彼の絵は確かに変なところがある遠近法に矛盾する岩や島があったり妙にボテッとした墨のベタ塗りがあったりする。それがやけに気になる。だけど、妙におもしろい

 山下団長はこれを「逸脱」と呼ぶ。「逸脱のおもしろさは、何から逸脱したのかが分かって初めて面白い。だから同時代の他の画家や先達の絵を見るべきなんですあとは『変だ』とまっすぐ受け止めることです」
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私ごときは、この絵、なんか「変」・・・・
なんて言ってしまったら、身の程知らずなのかあぁ・・・
と思っていました。

でも、私が絵に興味が沸く時は、なんだかここ「変」じゃない?
そこからスタートしていた気がします。

大口たたきすぎじゃない? 素人の分際で、しかも上から目線で・・・・
でも、これからは、自身を持って「変」を言ってもいいんだ・・・と、
パスポートをいただいた気分です。



■横山大観の「変」
横山大観、戦争でA級戦犯になっていたといいます。
そんなこと知っている人、どれだけいるでしょうか?

天皇陛下、東条英機がA級戦犯だってことは語られているのに、
なぜ大観だけは、それをタブー視されてきたのか?
おかしいでしょ。
どこかで、絶対にベールに包もうとしている力が働いている。

(2016.1月には、wiki pedhiaでもその記載がありませんでした。
 今は、されているようです)

マッカーサーのところに、一人出向いて、
帰ってきたら何のお咎めもなかったそう。
しかも、その事実まで封印されてしまったみたいで。

大観は、どんな取引したの?
どうやって取り入って、免れたの?
そんなことに、興味を持ってしまいます。

友人は、マッカーサーは、はっきりものを言う人が好きだったと聞いたと。
戦争に負けて、屈していた日本人。
しかし、強力なアイデンティティーをそこで見せて、気に入られて
無罪放免となったのか・・・・

そして、横山大観の脳は、東大医学部にホルマリン漬けになって、
保管されていると言います。
それも、何か関係しているんじゃないか・・・という推測をしているのですが。


こうした、逸脱したところから、
日本画や絵画の世界に、少しずつ興味を持って、
あれこれ探ってみる面白さに気づきはじめた今日この頃(笑)


空間や光というキーワードも重要で、江戸時代には天井からの照明はなかった
というあたりは、比較的早い段階で、私は持っていた視点・・・と思ったら、
昨年5月のこと、対話式鑑賞を知ってのことでした。


「光」はちょっと面白いテーマで、広がりも深さも感じています。



「決して言語化できない実感、体感がある、ということを、
 ある意味堂々巡りしながらも、なんとか拙い言葉であっても伝えたい」


記録をすることで、その感覚も飛躍的に伸びるのを感じています。


【追記】2016.3.28
デパートの美術画廊にぶらりと立ち寄る。
モルダウを墨で描いた・・・とどこかで見ていたので、
どう描くのかな・・・・と思って気になりました。

モルダウは私の好きな曲・・・・
そしてミュシャもこの曲で祖国の歴史に目覚めた。
そんなモルダウを、墨でどう描くんだろう・・・・と

そこにあったのはジヴェルニーの庭
あのモネの庭を墨で・・・・  圧巻でした。
そして、墨から隅まで・・・あなたを魅了します♪菅原さちよ展より

この描き方・・・・  つい先日、見てきた海北友和の描き方と一緒。
限りなく透明に近いくらいの薄~い墨。
建仁寺で見たら、古い絵だから、最初はシミにしか見えなかったのですが(笑)
そこに、しっかり描かれている絵が見えた瞬間・・・・

そういう描き方をこんなとこで、お目にするとは・・・・

―路―
水と墨によせて
菅原 さちよ 展
2016年3月23日・水→ 29日・火

名前を知ってる、知らない。
有名、無名にかかわらず、いいと思えるものが見つかってきた気がした瞬間。

モルダウの大作に、金の屏風もすごかった・・・


【追記】2016.12.18
山下裕二(明治学院大学教授)× 松井冬子(日本画家)特別対談
テーマ:「日本画の未来に向けて」
日時:2016年12月18日(日) 13:30開場 14:00開演
場所:六本木アカデミーヒルズ(東京都港区六本木) に参加

横山大観のこと、語られていました。
ああ、やっぱり、先生もそう思われていたんだ・・・・と納得。
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