2回
2017/03 訪問
金砂郷の原風景
常陸秋そばはこの地(太田市赤土町)の金砂郷在来を品種改良したものだ。今回は茨城県常陸太田市の金砂郷地区と水府地区の蕎麦屋に温泉逗留しながら行ってみた。
この店は金砂郷地区にあり、交通機関は車で行くしかないだろう。道の横に駐車場があり、少し坂道をあがったところに駐車場と店がある。地元の主婦たちで運営され、経営母体はJAと書かれていた。店内は田舎らしく、広々とした空間の中で、左に囲炉裏のある大テーブル、その奥が調理場、テーブルの横にはガラス越しに大きな電動石臼が回っている。テーブルを挟んで反対側には大きな小上がりが広がっている。面白かったのはもりやかけが700円に対して十割そばが1400円と田舎にしてはかなり高額の値段設定になっている。これは慈久庵の1100円に比べても高い。後述の店でこのことを問うと、この辺りでは蕎麦は二八はおろか六四や七三で打っていると言われた。蕎麦粉の違いではなく、つなぎの割合の違いでこの差が出るとのことだ。
十割そばを注文した。
蕎麦はよく〆られた細打ちで、エッジは立っている。切りむらや端きれは目立たない。小鉢に水が張られ、初めは水(天然水)で食べることを勧められた。なんとも蕎麦の味と香りが強烈で、噛むほどに旨味が広がっていく。旨味は慈久庵の上をいくと思う。
薬味はネギとわさびでわさびは良くない。
辛汁は甘目でこんなものでしょう。
蕎麦湯は風味があり、蕎麦同様においしい。
蕎麦のおいしい土地で、家庭の主婦たちが町おこしで打っている蕎麦はとてもおいしく、やはり料理は原材料でしょう。蕎麦打ちがどうしたとか、粗びきがといった些事抹消の蘊蓄が吹き飛ばされる蕎麦です。
2017/03/30 更新
美味しい蕎麦は十割蕎麦だ。
昔は蕎麦を挽いて紐状にすることが難しかったので、小麦粉などをつなぎと称して使っていた。
しかし、蕎麦粉十割と二八(蕎麦粉八割 小麦粉二割)でどちらがより蕎麦の味が出るかといえば、明らかに前者だ。
さらに、石臼による蕎麦粉の砕き具合などの工夫があり、ひと昔前の蕎麦に比べると格段に美味しくなっている。
山の神は料理上手で味覚が鋭いにも関わらず、蕎麦の味がわかるようになったには50歳を超えてからだと言っている。
すなわち、蕎麦といっても美味しいものとそうでないものがあることがはっきりとわかるようになったのは、手打ち自家製粉が普及したためだろう考えている。
上京して、都内の蕎麦100名店を散策していると、同伴する彼女の評価はかなり厳しい。
私はどちらかというと、東京は水が良くないとか、土地や人件費が高いので良質な玄蕎麦が購入できないなどと、蕎麦屋側の言い訳をしてしまうことが多い。
美味しい蕎麦は美味しい蕎麦の産地で食べられる。
そこで、手近なところとしては常陸秋そばの原産地である金砂郷に来てみた。
この店の十割蕎麦はその味と香りは十分に素晴らしいといえる。
初めは水蕎麦で食べたが、蕎麦の味がダイレクトに伝わり、感動する。
この近くには有名な蕎麦100名店があるが、蕎麦のうまさならこの店の方が抜けていると思う。
グルメ自慢をするならなら前者、うまさ重視なら後者が選択されると考えている。
よく言われていることだが、その土地で生産された作物や水揚げされた海産物のなかで、一番おいしいものは市場には出されず、その産地で消費されてしまうらしい。
いいものは一握りで、地元で消費される。
金砂郷では各家庭の主婦は姑からその家での蕎麦打ちを伝授されるといわれる。
すなわち、主婦はほとんど蕎麦打ちができるようだ。
何しろ、この店はJA常陸の経営で、農家の女性が持ち回りで蕎麦打ちをしている。
口が裂けても言えないだろうが、ひとにぎりの良質な秋そばがこの店のそばになっているような気がする。