Old soldiers never die・・・【力餅食堂 中崎店】 : 力餅食堂 中崎店

ひょっとしたらもう絶滅しているかも知れないと思っていた「力餅食堂」がちゃんとまだ在る！

わざわざ朝日新聞の記事を貼付してまで教えてくれたのは､なんと東京のマイレビュアーさんだった。

まめぞうさん､(http://tabelog.com/rvwr/mamezo1959/）

今さら私如きがゴチャゴチャとご紹介する必要もないだろう。尊敬するマイレビュアーさんである。

こうなったらもう矢も楯もたまらない。明日の昼飯は決まった！少々遠くても行こう！と決めた。

試しに食べログで検索してみると､嬉しい事に地元･天満にあるじゃないか！

しかも2009年には阪神タイガース同志レビュアーのタイガース･ウッズさんがレビューＵＰしている！

因みにこの頃はタイガース･ウッズさんお得意の｢駄洒落レビュータイトル｣で読者を悩ます事はしてない。

（http://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27007185/dtlrvwlst/895326/?rvw）

そのレビューには阪神ファンなら避けて通れない「虎そば」なるメニューもあるのだ。

ますます嬉しくなって､前日の夜なんてなかなか眠れなかった。まるで遠足前日のガキである。


最盛期には約180店舗を数えた｢力餅食堂｣のスタートは明治22年にまで遡る。

兵庫県豊岡市で創業した時は饅頭屋だった。数年して一旦閉店してしまったが再起。

京都は寺町に移転してからは饅頭だけではなく､食堂として献立を充実させて成功した。

大正３年には大阪･天神橋３丁目､大正７年には神戸市小野柄通に開業。そこから順調に店舗数が増えていく。

しかしそれだけのパワーを誇った｢力餅食堂｣は実はチェーン店ではない。

｢8年以上働いて親方の信頼を得たら独立できる｣という暖簾分け制度により､次々と従業員が独立したのだ。

屋号や商標は同じでも､それぞれのお店が1軒の個人経営商店であったため､全国的知名度は上がらなかった。

とは言え受け継がれているものもある。それが｢おはぎ｣と｢赤飯｣だ｡ロゴと共に必須のアイテムなのである。

ガキの頃､婆さんがよくこの｢おはぎ｣や｢赤飯｣を買って帰って来たものだ。


「天五中崎通り商店街｣。通称｢おいでやす通り｣。

全国的に有名になった「天神橋筋商店街｣を本流とするなら、この商店街は支流と言っていいだろう。

天神橋筋五丁目交差点と地下鉄谷町線中崎町の東西を結ぶアーケード商店街。

最近は色んなお店が進出して来て､夜になって店が開けばなかなかの盛況ぶりである。

そやけど､何度も通ってる商店街なのだが「力餅食堂｣ってあったかなぁ～？？

どう考えても記憶がない。まさか最近出来たのかな？とか半信半疑で商店街に入った。

天神橋筋五丁目交差点から馴染み深い道を歩く。しかしあの「交差した杵｣のロゴ入り暖簾が見当たらない。

最近は御無沙汰しているふぐやさでんを通過して､やっとあった！【力餅食堂 中崎店】だ！

なるほど記憶になかったはずだ。今まで私は｢ふぐやさでん｣より西へ行ったことがなかったのだ。


お世辞にも綺麗とは言えないファザードではあるが､あの懐かしい｢交差した杵の上に力｣のロゴを染めた暖簾。

そして店頭のショーウインドウ？には定番の｢きな粉おはぎ＠100円｣に｢餡子おはぎ＠100円｣と｢赤飯400g520円｣。

そして｢ちらし寿司並＠250円･大＠450円｣に｢お稲荷さん＠70円｣。懐かしい｡｡｡｡懐かしすぎる｡｡｡｡(涙)

自動ドアである。時間は午後２時少し前、客は居ない。白衣を着たおばちゃんが「いらっしゃーい｣。

一番右奥のテーブルに着席。「とにかくビール下さいな」ということでスーパードライ中瓶＠400円。

店内にベタベタと貼られているメニューとか新聞記事とか色んな物をデジカメ片手に見物して歩く。

「スゴイなぁ～、懐かしいなぁ～、写真撮ってもエエ？感動するなぁ～！何を喰おうかなぁ～！」

これだけ連呼しているとおばちゃんも心を開いて呉れる。「最近減ったからねぇ～､力餅も。。。」

「僕はガキの時分､都島本通りの店によう行っててんけど､あの店はまだ在るんかな？」

「マースタぁー！都島の店はまだ在りますのん？」おばちゃんが厨房に首を突っ込んで聞いて呉れた。

「マスターが体壊してねぇ～。もう何年か前に閉めはりましたわ。ウチもいつまで出来るかなぁ～？」

最盛期には180店舗あった「力餅｣も今では100軒を割り込んだと言う。後継者が居ないのである。


「おばちゃん！この店は珍しいメニューがありますなぁ～！」

「そうですねん､カレー麺やコーヒー麺やね。カレー麺ざるとかテレビが映しに来ましてん」

「その両方が食べられる虎ざる＠550円下さいな」

この「虎ざる｣とそれに使用されている「黄金カレー麺」は商標登録までされているのには驚いた。

しかしまぁ画期的な喰い物である。カレー麺はホンマにカレーが練り込まれていてちゃんとカレー味。

コーヒー麺もちゃんとコーヒー味で香りも当然コーヒーだ。それを鰹出汁の効いた和風ツユに浸して喰う。

これはもう美味いとか､美味くないとかではない。こういう味なんだからしょうがないのだ！

「これで今日は勝つかなぁ～､阪神タイガース！」「ホンマやねぇ～､勝ったらエエねぇ～｣とおばちゃん。

ビール１本空いたので日本酒にしよう。萬葉飛鳥ワンカップ＠300円。


「虎ざる｣だけでは腹一杯にはならない。

ここでガキの頃には「高嶺の花｣だった天丼＠580円を喰うことにした。カツ丼と悩んだけどね。

おばちゃんが着替えて帰って行った。女将さんが買い物から帰って来たのである。

天丼が出来上がるのをワンカップをチビチビ呑みながら待つ。女将さんとも楽しく喋る。

「そらねぇお客さん､こんな古臭い感じの店､若い人は継いで呉れませんわぁ｣

「こちらの店はいつからやってはりますのん？｣

「昭和52年からですねん♪この店も私らの代で終わりですわぁ～」

「そやけどカレー麺とかコーヒー麺とか珍しいですなぁ～」

「力餅は好きな事してエエからね(笑) 昔は主人もこんなん色々考えたんですわ､お陰でテレビも来たけどネ」


天丼が出来上がって来た。貼付の写真を見て頂きたい。これぞ正に「昭和の天丼」ではないか！

海老天がカラッと揚がっていない。衣のトゲトゲなんて皆無である。ベチャァ～と平べったくなっておる。

一匹を箸で摘まんで齧ってみる。海老がデカイ。カラッと揚がっていないからサクッと感はないが、

逆に衣に天つゆが沁み込んで得も言われぬ味がある。そしてこの天つゆが上品な薄味で決して胃に凭れない。

若い方には理解出来ないだろう。しかし昭和の大衆食堂の天丼はみんなこんなんやったのだ。

海老や椎茸やししとうが天麩羅となって丼の中の飯の上で覆い重なって山のような形になっているような、

そんな虚仮威しのような「平成の天丼」とは根本的に違うものなのである。


「料理・味」の項目は採点を控えた。

こういうお店の料理は味を云々するべきではない。私は食べロガーであって料理評論家ではない。

そんなことより､この店の「味わい」を大切にしたい。一朝一夕では絶対に出せない「味わい」だ。

進取の気鋭というものは流石にもうないのだろう。卓上の爪楊枝入れとかの蓋が微妙にネタッとする。

トイレに行くときに厨房の横を通るのだが､その道中の乱雑さは言語に絶する。

「この店も私らの代で終わりですわぁ～」女将さんの言葉が胸に痛い。

どうか御夫婦ともに健康で一日でも長く「力餅」の暖簾を上げ続けて欲しいと願った。


帰りに｢おはぎ｣と｢赤飯｣を土産に包んでもらう。

昔、婆ちゃんがよく買って帰って来てくれた｢おはぎ｣と｢赤飯｣だ。

盆も彼岸も墓参りなんて行ったことがない極道者だったのだけど、久々に行くことにした。

45年が経ってやっと今度は私が婆ちゃんに｢力餅｣の｢おはぎ｣と｢赤飯｣を買って帰ることが出来た。