好き嫌いというより、身体が覚えた郷土のあじ : 杭州飯店

（20220107日追記）

......↓と書いて以来、足が向いていない、という事はつまり、いろいろな面で「辛くなっちゃった」んだろうと感じる次第です。

以前は、そこそこ長期な海外出張の後、血中背油濃度が欠乏した「ような気が」して、帰国するや飛び込んだものでしたが、病災禍における「旅」の制限が尚更に、

「敬してこれを近づけぬ」

ようにしているのかもしれません。南無三。


（初稿20200308日）
…と、思っているが、ここでの訪問記を見直してみると、実際には年一度ペースでしか食べていない　#冷酷な現実　に私たちは向かい合わなければならない。

やはり50後半ともなると、さすがに食べている途中あたりから、う゛っ！　とくるようになる、セアブラビンボー！

こちらのチューカを食べなくなる日、自分の「中年期」は終わるんだろうな、と、いささか遠い目をしない、事もない。

長い連休中、4月中は毎日ジムショに出て、電話も会議もないのをいい事に、資料や商いの上でアタマに入れておかなければならない書籍を耽読。

或いは、パソ・コンに向かい、アレコレの数字をあーでもない、こーでもないと弄り倒して過ごす。

5月に入ってからは、友人を家に迎え、日付変更線越えの酒盛りを一回。黄砂とPMナニガシで真っ白になってしまったクルマの洗車、昨年の大風と豪雪で泥まみれになったまま放置していた自転車二台のさび落としとチューンナップ

…と、おおよそ「国民の祝日」的な事をせずに過ごしてしまった。

せめて連休最終日は、天子さま即位にふさわしい、なにか特別な行事を、という訳で、昨年の正月明け以来、ずいぶん久しぶりにコチラへ。


ところで一般に国民国家、ネイションステイトを規定するものは、域内で共通する価値観と文化であり、より具体的に言うと、「言語」「貨幣」「宗教」と言われる。

わたくしとしてはニッポンの場合、これに加えて「ラジオ体操第一」を挙げたい。

なにしろ、小中の学校、地元公民館、役所、事務所、工場、建築現場など「ヒトの集まるところ」でこれが流れ出すや、ほぼ例外なくみんなの身体が自然同一に動き出すさま、というのは、本邦においては、いかなる宗教行事、呪術行為、儀式よりも強固であり、確実であり、社会通念であり、ワールド・ヴァリュー（世界基準©副島隆彦）である事、いうを待たぬ。

さて、ではエチゴ県、スワローシティ原住民を規定する「特別なもの」とは？！

お客さん、今更なにトーシロみたいな事、言ってんスか？　と揶揄するまでもなく、こちらの「チューカそば」がそれである。

ブッとく、しばしば「うどん」と誤解される麵がトグロを巻く、煮干背油暗黒醤油汁をどんぶりからガブリとすする「儀式」は、わたくしたち「信者」ないし「門徒」にとり、耶蘇のみなさまが聖水を浴びるときのように有難くも厳かであり、スペッシャルであり、多幸感にあふれ、ヨロコビに打ち震えるンである！

中高年、初老の域に達し、血圧とニョーサン値を気にしつつ、食べているうちに益々つゆを吸ってフガフガとし、増量していく「ような気のする」麺をやや持て余しながらも、若い頃同様、ぐいぐいとすすり、しょっぱく油分ナミナミなどんぶりの中身を干すと、腹はぱんぱんに膨れ上がり、血液の過半が代謝強化のため胃袋に集中、脳がなかば酸欠状態、呆然となった時、目の前に現れる「光」に

みんなぱらいそさ、いくだ！　http://bunji2.hatenablog.com/entry/2016/01/30/224859

と、無意識に口走らない、事もない。

年末、香港マカオ巡業中に罹った風邪がなかなかしつこく治らない。

年明けの三が日はもっぱら到来物の鈴廣かまぼこと伊達巻を、年末に用意した太い本わさび一本*1 で食べ続け、これも頂き物の塩引鮭と新巻鮭をさばいて冷凍しておいたものを順次解凍し、焼いて食らって過ごす。

食う時以外は寝床に転がって、録画撮り貯めしてあった直虎さんだとか、寺島実郎の講釈だとか、WOWWOWでやっていたスティーブ・マックウィーン（ゲッタウェイは傑作だと思う）特集などをチラチラ観ながらただただ身体を休める。

0104日、体調は今ひとつであるが、仕事始めに出、大人の事情と浮世の義理を淡々とこなし、1600時にドッと疲れが出てきて早上がり。

しつこい咳、痰にうんざりとしながら、これはもう、エチゴ・スワローシティ住民のソウルフード、滋養と熱量の補強という意味では界隈最強（最凶？ ）と申し上げるしかないこちらの中華そばを（昼食はとっていないので）早い夕食とし、身体が温まったところでさっさと寝てしまおうと企み、2L直列4気筒DOHCターボエンジン搭載の、イマドキ温暖化対策にもエコロジーにもエシカル消費（ケッ！　）にもまるで貢献しないクルマを店の駐車場に置き、究極のCCC（Cash Conversion Cycle:現金化速度）由来で紫紺のぬらぬらと輝く瓦屋根にビカビカ光るソーラーパネルが乗った店主豪邸を横目に見つつ、となりの店の自動ドアを開き、こんぬつわ、ひとりですよ、と、申し立て、給水タンクの傍に置いてあるモロゾフ・プリン・カップ再利用のグラスにセルフで水を注ぎ、同時に並んでいるレンゲを手に取り、相席御免な食卓に流れるように腰を下ろす。

この一連の流れが視床下部以下、延髄にいわば、ナチュラル・インスティンクトとして刷り込まれ、記憶されているかどうか、が、スワローシティに住み暮らす、という事であり、地方文化という事であり、入り口でオタオタし、ブログか何かで

「サービスが悪い」

と、書いてるようでは、みな口には出さぬが

「ケッ、また、どこぞからヤマダシでアタマデッカチのカクヅケ好きなトーシロのメンラー・マニヤが、のこのこ来やがったゼ！ 」

と、心の中で舌打ちを打っているというのが、道理であり、社会通念であり、ワールド・ヴァリュー（世界基準©️副島隆彦）である事、いうを待たぬ。

ぬらぬらな店ではフツーの中華そば800円に決めている。

決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。

もしあるとすれば、他所の、当店のイタダキもといインスパイア系の店の多くが、当店の中華そばより廉い値付けをしている一方、タマネギ、背油の量は控えめになっており、これを「中油」「タマネギ増量」を申請すると、50円、100円と加算され、結局はこちらの「普通」と同量にしてみると、単価はほとんど変わらず、で、あれば、こちらの「普通」が廉価とは申し上げぬまでも界隈の「標準」となっている #冷酷な現実 を鑑みて、とは、単に胃弱で「大盛り」がこなせなくなった、中高年の悲哀がモゴモゴ言わせているだけだから、黙っている。

そう思いながら、運ばれてきたどんぶりならびに底の皿に着目すると、ランチとディナータイムの境目で、落ち着いた店内の様子から分かるように、普段より丁寧に割烹を施された一品は、「底の皿」に名物「隠し油」が形成されておらず、しかしすすると相変わらずの乱切り状態な平打ち麺は、煮干しダシ（粉は使っていない）を飽和まで含んだ暗黒醤油カラーも禍々しいつゆが程よく「しょんで」（エチゴ弁:染み込んで）おり、これをずるずるとやると、麺に絡んだポーク・ベリィ*2 が唇周りをテラテラにし、風邪で赤く腫れた喉も、通りが良くなった「ような気が」して調子が上がり、思わず後金もとい口唇ヌルハチと呟いて、ダジャレの出来の悪さにニガ笑いを浮かべない、事もない。

この日は帰宅後、薬のチカラも借りて、約十二時間ほぼ起きる事なく寝続け、翌朝はかなり、楽になりました。

ソウル・オーヴ・ミツーゴ・ネヴァー・フォーゲット・オーヴァー・ハンドレッド・イヤーズ！

と、言うわけで今年もひとつ、よろしくお願いします。


*1 どんなに豪華な御節買っても、チューブ入り「ワサビ風味ホースラディッシュ」を使っちゃ、いけません。言い換えれば、御菜はナミでもワサビ一本で、食卓の格は一挙にたかまりますな。いや、単なるマインド・オーヴ・ババーです、はは。

*2 通称「背油」ですが、実はこちら、昔から腹部の油脂の消費率が高いというのも、界隈の「常識」

コーシューを持て余す日が来るなんて…

日曜日。

書類整理で朝から休日出勤。思いの外はかが進み、昼前にやる事がなくなり、事務所を出て、街道を流すうち、ふと「呼ばれている」ような気がして久しぶりに再訪。1130時だが、すでに店先には行列。

但し、回転の速い店だから、程なく相席の、小上がりの食卓に通される。

社会通念上は大して待たされず、しかしイニシエのコーシューを知るものにしてみれば、ラーメンマニアが作り置きだとか余計な事を書き散らしてから妙に運ばれてくるまでに中途半端に時間がかかるようになった丼の中身に着目する。


お馴染みの風景。雪のように散らされた背脂、顔を近づけるとフッと浮かぶ煮干しの香り。

あー、これこれ、と、喜び勇んで箸を取り、ズズっと麺をすすり出した…のであるが！

こちらのチューカそばは胃袋ではなく、記憶が食わせるモノだと思っていただけに、並盛りの半ばを過ぎたあたりで腹がドーンと膨れ出し、スワローシティ（仮 の住民或いは/及び遺伝子を持つ人間としては、もはや美味い不味いではなく、こういうものと刷り込まれて半世紀以上経つ、煮干し背油暗黒醤油が飽和までションだ（エチゴ弁:染みた）フガフガの、きしめんの子分みたいな奴がスルリとノドを通らず、胸につかえ、口腔に留まるに至り、うへっ、これが年をとるという事なのか！ と、やや大げさだが愕然とする。

それでもどうにかこうにか平らげ、一杯800円にまで到達した、デフレ知らずの勘定を払い、「マダム・ミンク」にご挨拶申し上げ、店をあとにし、駐車場のクルマの中で、かねて用意のウエットティッシューで、麺をすする際顔に飛散した「背脂の残滓」を拭い去る。

失くす10年ほど前、つまり60を越えたあたりの年頃で、亡父が「まいったな、もう、フクライテー（福来亭:こちらの前身）食えなくなっちまったな、と、ボヤいていたのをボンヤリ思い出しながら、あゝ今晩は酒だけでメシはいらねーな、と呟かない、事もない。