タカトオの田舎蕎麦と思ったら大間違い。ハイレベルお蕎麦。 : 壱刻

現在は市町村合併で伊那市となった旧・高遠（たかとお）町。遠く昔は森林鉄道やらがあっただろうが、町には鉄道がとおっておらず、JRバスでの移動となる。町の中心にはバスステーションがあり、昔の名残か「高遠駅」という呼び方がされている。「駅」なのだ。

高遠といえばお城跡の桜（タカトオコヒガンザクラ）のお花見で有名。春になるととんでもなく多い観光客の人々で賑わう町だが、それ以外の季節はいつ行っても閑散とした静かな街だ。
もっとも、私が訪れるのが平日だからなのかもしれないが。
私の住んでいる岳麓からは杖突峠を一山超えて入る立地だが、昨今国道のバイパス化が進んで走りやすくなり、距離の割には比較的短時間に移動できる。一方で、味わいのある街道沿いの集落を通らずにハイスピードで駆け抜けることになり、旅気分は半減した。

そんな高遠の街の目抜き通りにある人気の「高遠蕎麦」のお店がこちら。
春の平日に前を通ったが、行列ができる人気店だ。
今日はシーズンオフの平日、時間は12:00少し前。並んでいる人もいない。さて。

店内入ると、しっかり先客が。といっても、とても小さい店だ。大人数のテーブルが１、二人掛けのテーブルが４卓といったところか。これではシーズン中の回転はさぞかし悪いだろう。行列になるわけである。

高遠といったらあんた饅頭と蕎麦だよ。だけどね、こういうものが旨いかどうか考えると、若干不安になる。名物に旨いもの〇〇。蕎麦が名物の地域の蕎麦が旨いとは限らない。

高遠蕎麦は、本来的には、大根のしぼり汁に炙った味噌を溶いて、そこに大根おろし、ネギなどの薬味を入れ、蕎麦をつけて食べるというもの。昔、魚の出汁など取ることもままならない時代、山国のここらで食べられてきた「山での食べ方」である。似たような食べ方は他にも信州には点在している。上田のお隣、坂城ではおしぼりうどん（辛いネズミ大根のしぼり汁にうどんをつけて食す）、南信州にもおなじくしぼり汁に蕎麦をつけて食す習慣があるようだ。

こちらのお店では４種類の蕎麦がある。簡単に言うと、のど越し重視の二八（高遠産信濃一号と香川産小麦／実の中心部部分のみ使った粉で打った十割の「丸」（高遠産信濃一号）／十割で打った平打ち極太の丈（ますらを）（高遠産信濃一号）／月替わりの太目の十割「玄」（島根産横田小そば）。丈はちょっと極端かな、ここにきて丸ってのもあれだし・・・ということで、二八と十割「玄」を頼むことにした。

一つは「高遠（そば）」として。もう一つは「鴨汁」で。２つオーダー。先に高遠、食べ終わるころに鴨汁持ってきてね。と、たいそう感じの良いおばちゃんにお願い。おばちゃんに相談し、高遠スタイルに二八、鴨汁に太目の十割をペアリング。
価格は高遠スタイル＋二八が１０５０円、鴨汁＋丈が１６５０円。

さて。

まず蕎麦より一足先に、高遠スタイルのお膳が出てくる。大根のしぼり汁の中に、炙った味噌を適宜溶いて準備する。追ってやってきた蕎麦は、お値段と田舎町という場所からすると、結構お上品なイメージだ。普通の人なら２つオーダーすることはないだろうから、これは少しポーション少ない印象。職人系蕎麦屋に比べると少し多めだが、町蕎麦としては少なめ。
ところが、この二八。私の食べてきた二八ではもっとも職人系蕎麦屋っぽいルックス＆食味であった。正直二八というより、下手な十割より十割っぽい。しかしそのつるつるとしたのど越しの良さは二八ならではのソレ。大根のしぼり汁と味噌のつけ汁に浸して食べる高遠スタイルにもマッチ。気に入りました。
更に気が利いていて、そばつゆと蕎麦猪口の予備も付いてくる。これは普通のそばつゆでも食べてみてね、というお店の気遣いで、普通のもり蕎麦としても味見できるのが、実に親切だ。汁も信州にありがちな甘目なものではなく、出汁にもかえしにも拘った、それなりの汁だ。

次に鴨汁。これまたなかなかおいしい鴨と汁です。山間の街の蕎麦屋なのに・・こういう部分も完成度高い。そして鴨もしっかり、たしか５切れか６切れは入っていたと思います。

そして「丈」。太い平打ちの蕎麦は、太いがゆえに、冷水での締めが甘くなっているようだ。表面もぬめりがやや残り、蕎麦の芯も生ぬるい感じがする。それが私はあまり好みではなかった。ただ、そばの香りは当然強く感じる。そばの旨味を味わうにはよいと思う。しかし鴨汁との組み合わせは私的には触感がアンマッチだったと思う。鴨汁には、ここのお店なら二八があうような気がする。

ということで、私は予想外にここの二八が気に入り、
次に来るなら二八一択でオーダーするだろう。

食後の蕎麦湯。これは「すっきり」と「濃いめ」のどちらにしますか？と聞かれる。
濃いめのトロトロが好きなので、濃いめをお願いすると、しっかりトロトロの蕎麦湯がやってきました。器もなかなか洒落ています。しかし、これがなぜかちょっと粉っぽいというかなんというか、トロトロなんだけど、私的にはちょっと何かが違うなぁ、といった感じだった（トロトロ蕎麦湯に関しては、木曽の「時香忘」や甲府の「専心庵」のものが忘れられない）。

このほか、すぐ並びにある「亀まん」というこの街では有名な和菓子屋さんのぜんざいや、揚げ饅頭といった甘味も旨そうだ。オーダーしようと思ったところで峠向こうの家族から呼び出しの電話が入り、早々に峠道を戻らねばならなくなった・・・・

最初、高遠地方の伝統の「田舎蕎麦」と思って入ったお店でしたが、これがどっこい、かなり職人系な感じの納得のお蕎麦でした。もちろん好みもあるだろうけど、私は今年食べた蕎麦では、食通に大人気の、あの八ヶ岳の名店よりも気に入りましたｗ

高遠においでの際はぜひ。お勧めします。