懸命な姿勢に痛み入りました : サンチーム

何度も訪れている松本…
今回ははじめて、ハイカラの気概を持った人達によって作られた町なのだなあという印象を持ちました。開智学校に旧司祭館、いまだ現役に使用されている旧松本高校舎…洋風様式を取り入れて造られた古い建物が現存することももちろん、カフェ(喫茶)が街のあちらこちらに多く散在しているのも松本の特徴ではないかと感じました。そのような土壌を踏まえると、この美術館にかような洒落たビストロがあることも納得してしまいます。そのクォリティの高さにはとても驚きました。

Ｃ プリフィツクスランチ
前菜またはスープから一品、メインから一品を選べるお得なプチコースです。

・タブレとラタトゥイユ
タブレ…数年前からひそかに脚光を浴びている料理です。クスクスにハーブを和えた、中東をイメージしたフレンチの副菜と自分は捉えています。とは言えそうではないタブレがあってもよいと思います。くくりを設けると創造力を削がれますからね。フレンチにおける北アフリカの食材"クスクス"については諸説あるようですのでここでは割愛します。そうは言っても炭水化物のクスクスを前菜に置いてくるとはまるで会席のしのぎのようではありませんか。貪欲に走らない仕向けは洋の東西を問わず存在するのかもしれません。大きさをそろえた胡瓜を伴ったクスクスはセルクルのまま冷やされていたのでしょうか、円盤形を保って美しいと感じました。とは言えタブレの上にラタトゥイユが載っているのでその素の味は分かりませんでした。ラタトゥイユはカポナータとどこが異なるのだろう、と率直に思いました。いえ、限りなく水分を煮詰ませたラタトゥイュも、焼いたカポナータと趣きを異にしておいしいのです。ズッキーニとパプリカを主体としていました。トマトソースを主軸としているのに酸味が淡いのはとても好みな味わいでした。この皿にはサラダが添えられました。新鮮なベビーリーフに芽セルリです。ガストロノミーの人にセルリ嫌いはいないでしょうから話を進めます。その芽セルリはとても香っていました。セロリは筋が口にあたると敬遠される向きもあるでしょうから芽を用いたのか、あるいはハイカラな松本という風土とこの地の気候がこのような作物を栽培しているのかは知る由もありません。とにかくセルリの存在感には気持ちよく圧倒されそうでした。ドレッシングがかけられていたことには不満はありません。こちら様メイドのドレッシングだと思います。酸味がやさしく良く乳化していました。

・牛ほほ肉赤ワイン煮込み　
隣席の客のそれを見た瞬間に、この品がこちら様の真骨頂なのではと想像して注文しました。その期待は裏切られることはまったく無く、真骨頂ではないのかもしれませんが声を大にして感想申し上げます。とても美味しいです。バラ部位と同じように腱もあるのですがバラとは異なる気品を感じました。筋が無いのです。そしてその腱がとろけるような粘りを醸してそれはもう酔い痴れました。塊の形はくずれていませんしとろける食感です。やさしく加熱されたのだろうと想像できます。調理におけるトレーサビリティを意識した瞬間でもあります。ときどき挽いた黒胡椒が歯に触る他には硬い要素はありませんでした。筋繊維が歯にはさまることも無く、塩気がやわらかく、何よりも赤ワインソースの美味しさには驚きました。渋さは無い、かと言って甘さも感じられない、整ったバランスのソースに食が進んでしまいました。この日のランチの客の半数ほどがこのほほ肉を注文していたのは定評があるからなのか自分のように隣を見て倣ったのかまでは分かりません。人気の品であるのは確かなようです。

・デセール盛り合わせ
ブルーベリーケイクとアイスクリーム…ビーフの後にアイスクリームとはどのように感じられますか？日本人向けにはまったく問題は無いとは言え少々気になる事項でした。このような提供を宗教上の禁忌とする人もいるかと思います。とはいえ歯ざわりの良いケイクが美味しいデセールでした。勉強して下さいますようお願いします。

・パン
ほんのりと湿らせてから温めていました。
乾いたパン(特にフレンチで用いられる硬質のもの)は我が家でもそのように焼き直しているので違和はありませんでした。その手間によってパンがぱさぱさではなくもっちりとよみがえるのです。看過できない施しでした。薄紫のバスケットが目を引きます。


総合☆２．７
美術に接するのは案外体力を消耗するのです。観覧の合間にこちら様を訪ねるのを推薦します。
適度なワイン＆ビア、美味しい料理、癒される空間、それらにとても満足できました。

ご馳走様でした。益々のご活躍を願っております。
とは言えその肉をその乳で煮てはならない…忘れません。