野趣、で片付けてしまっては惜しい。 : 平野屋

五月は「本の虫」であった。

わかるわからないは別に、世の中の事象をアタマにぶち込み、丸ごとガリガリとかじり、飲み込み、自分なりに理解し「切り口」を見つけ出す時期で、そのために同時進行で紙の本、電子書籍、手元の資料やデータをずーっと眺めている必要があったからだ。

中でも無造作にKindleからダウンロード、iPad miniで読みだした一冊が、難解ではないのだが表とグラフ、注釈が多く、「読んでも読んでもハカが行かず」参り、合間に立ち寄ったブックストアで「実物」にあたってみると、堂々35㍉㍍の厚みがあり、あら、こんなにページ数あったのね、そりゃ進まないワ、と、かなり間抜けな感想を抱き、とはいえどうにか読了。

ほぼ同時に他の書籍、資料も「インストール」済みとなり、コレを自らの「シノギの絵図」に落とし込み、さて実践あるのみエイエイオー！

…と、ひとりリキんでいたら、日頃からお世話になっている「大旦那」より、事務所に篭ってばかりいないで、解禁なった鮎を食べに、嵯峨まで行こうじゃないか、と、有り難いお声がけを頂戴する。

義を見てせざるは雄なきなり、スウェーデン食わぬは侠のハジ！

先達からのお誘いには、さまざまな御教えを頂戴する機会が少なくないから、出来うる限り従うべし、というのは極めて合理であり、社会通念であり、ワールド・ヴァリュー（世界基準©️副島隆彦）である事、いうを待たぬ

….と、いうか、単に #若鮎食べたいだけ で、はいはい参上致します！ と、全日本空輸新潟空港発伊丹行き旅客機に飛び込んだわたくしを、誰が責められようか、いや、ない、と古文（略

1700時。

「火の用心」の総元締め、愛宕神社に向かう参道をひいひい歩いて行くと現れる赤鳥居。

その下に、手入れのよく利いた茅葺き屋根の一軒家。

こんぬつわ、と暖簾をくぐれば渋滞なく部屋に案内され、もともと「茶店」であったこと由来だという「志んこ」を頂戴し、米粉の糖質ときな粉に含有されたアミノ酸で、トボトボと歩き続けた身体の疲労がいなされた「ような気になり」早速のビア。

6月とはいえ熱い一日で汗をかいたからしみじみ旨し！

まずは山菜の先付、地元で釣師から仕入れ、店の生簀で一日休ませた、という天然若鮎の背越しのデリケイトさ、歯さきにコリコリとくる骨の噛みごたえにほーっとなり、陽が落ちてきて徐々に暗くなっていく中庭を眺め、ビアから切り替えたホワイトクレイン（仮 純米吟醸の杯を傾けると、周りには目にうるさいものが一切なく、静かに流れる空気と時間にはまるで澱んだところがなく、ここ一月の事務所蟄居で鬱々と沈み込んでいた、気持ちの屈託がゆっくりと晴れていく。

塩焼きはひと皿三本。「大きい順にのせました」との事だが、さすがにまだ、身が薄い。

しかし骨もまだ硬くないので頭からそのままガブリ！ とやると、ワタからは独特の香気が広がり、大きいものになればなるほど、それが強まり、あゝ、自然のいいものを食ってるな、という気になる。

その後、鯉の洗いなどの八寸で酒をすすめ、塩焼きの「お代わり」が二尾でてから、「しのぎ」というか「テイスト・チェンジ」的に鮎雑炊（というより粥）が二口ほど、そして天ぷら…と、未熟な鮎を堪能し、むぅ、これぞ幼児大量虐待？ と、いささか露悪的な感想を漏らしながらも大いに満足する。

じゅんさいの赤だしに豆ご飯で締めて、店を出る。2000時

あっという間かと思っていたが、周りはすでに漆黒の闇に包まれてい、「ひっそり」としている。

暑かった空気も、ひんやり、とくる。

この暗い中、千日通夜祭よろしくヨタヨタと、中・高年がおぼつかない足下で参道を降るのも剣呑である。

呼んでもらった的士に乗り、さて帰りますか、と、思った途端、大旦那が

「運転手さん、祇園甲部へ、MSSBくんも行くだろ」

！

そりゃもう、義を見てせざるは…の言葉を口の中で復唱し、自然幽玄のあとには、「人工の美だよネ☆」と、脳の中ではすでに、地方さんの三味線の音が鳴り響かない、事もない。


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尚、具体的な御菜の詳細は、別掲のシャシン、ないしシャシンのコメント欄にあたっていただきたい。世の中にはまだこーゆーもの、が残っていて、これを400年の歳月を経た店で喫する事ができる、というのは、いにしえの人々から、わたくしども現代人に与えられた、大した「おくりもの」なんじゃないかな、と、考える次第です。