新たなスタイルを提案する、西の劇場型日本料理 : 東山 吉寿

東山は馬町の先の路地を入ると、途端に静かな住宅街に。

温かな明かりが灯るお店が昨年オープンしていました。

表に面して個室、そして、カウンター席。

このお店の醍醐味は、なんといっても、店主、吉寿（よしひさ）さんの

プレゼンテーション、いや、和食なので口上、と言いましょう。

聞いているうちに、だれかにそっくり、と思い至りました。

そう、神楽坂の某イノベイティブ系レストランのYシェフです。

お互い、会ったこともないと思いますが、随所が似ていて、

そのあまりの兄弟的話しっぷりに、思わず笑いがこみあげてきました。


大将は、亀岡の料理旅館で料理長の経験もあります。

毎月テーマが変わる、という点もユニークそのもの。

昨年は、イタリアンやら蟹という月もあり、

この月のテーマは蕎麦。

蕎麦打ちの修行までしたそう。

とにかく、大将は手が器用で、なんでもすぐ習得してしまうとか。

そしてなによりも、本当に愛されキャラ。

人の心をぐっと鷲掴みにする天性の感性をお持ちなので、

接客業は天職ですね。


さて、この日、テーマは「蕎麦」なので、

蕎麦尽くしかと思いきや、２月にちなむ日本文化をきちんと

反映し、またそれを楽しくアレンジした料理の数々。

ここにいる２時間半、とにかく笑いっぱなしの楽しい宵でした。


では、内容です。

１、飯蛸と葉牛蒡

　　これだけ世界中で食べていますが、まだまだ
　　初めての食材にお目にかかるので、やめられません。
　　その食材が、大阪は八尾産の葉牛蒡。
　　１m以上の牛蒡ですが、根はほんの１０ｃｍほど。
　　あとの葉をいただきます。　
　　葉なのに、ちゃんと牛蒡の香り。　
　　さっと炊いた飯蛸に、葉牛蒡とそれを炊いた出汁で
　　さっぱりと。

２、節分の八寸

　　みごとに節分をあしらった八寸で、しかも楽しい。
　　漆塗りの楕円の器で登場。
　　＊干瓢巻き　　これは恵方を向いて
　　＊鬼面　　　　さつま芋で顔をつくり、黒ゴマで吊り上がった目を。
　　＊福　　　　　ゆり根に梅肉で頬を紅に染めて
　　＊福豆　　　　原木椎茸と金時人参とともに炊いて
　　＊鰯　　　　　紅梅煮

　　ここに、おみくじと鈴のついた矢羽が。
　　おみくじは、「吉寿」でした。大吉以上だと、大将。
　　鈴つきの矢羽は、家に持ち帰ったら、ニャンコが
　　大のお気に入りに。

３、お椀

　　香川の河豚を串刺しにしてレアに焼き、
　　目の前で分厚くカット。
　　その上に、バチコ。
　　底には、嵐山の農家さんの白菜をさっと炊いて。
　　出汁は、河豚の骨と２年ものの利尻昆布で取り、
　　目の前で、河豚の鰭を入れて、香りを。
　　木の芽をたっぷり散らして、いただきます。
　　河豚は、「皆さんに、今年もフクがありますように」と大将。
　　潔いまでの、引き算のお出汁でした。

４、お造り

　　アイルランド産鮪
　　一塩した細魚
　　鹿児島産車海老
　　一塩して昆布〆にした平目

　　「梅に鶯」に見立て、梅の枝に、ちしゃとうが。

　　平目と車海老は、煎り酒で。
　　鮪は、卵黄と酒盗で作ったオリジナルのタレで。
　　このタレが、とても美味で、これだけでお酒のアテに。

５、蕎麦カルボナーラ
　　
　　さて、テーマ登場。
　　「とろろ蕎麦ですが、海のとろろ蕎麦です」と大将。
　　なんと、とろろに見立てたのは、白子のペースト。
　　たっぷりの白子に蕎麦が。
　　これをかき混ぜて、和風カルボナーラに。
　　「でも、カルボナーラだと、卵が足りませんよね」と
　　大将。
　　「で、卵です」と、取り出したのは、巨大なからすみ。
　　追いからすみ。
　　そして、さらに、追い河豚と言って、焼いた河豚の白子を
　　のせて。

　　蕎麦は、あえて、８－２（そば粉が２）の乾麺。
　　このカルボナーラには、これが最適と結論したそう。
　　カルボナーラといえど、全体にとてもさっぱりと
　　仕上がっています。

６、スモークチーズ

　　まず、オールドバカラのショットグラスが
　　登場。
　　そこに、「知多」で作ったハイボールが注がれます。
　　なぜ、ハイボールか、あとで謎解きが。

　　中川一辺陶さんの特注の鮮やかな緑の蓋つき角型容器。
　　蓋をあけると、まず燻製の香り。
　　いい塩梅に、スモークされたチーズが。
　　ホワイトオークで燻製しているので、ハイボールを
　　合わせたんですね～～。

７、丹波牛のイチボ

　　大きな塊が登場。
　　目の前に、炭火焼きに。
　　ソースは、醤油、味醂、酒と発酵させた麹に
　　辛子。
　　クレソンと牛蒡スープを合わせたピュレをあしらって。
　　トップには、揚げ牛蒡をたっぷり。
　　とても上質な丹波牛で、麹ソースの深い味わいと
　　よく合います。

８、たいら貝と紅時雨大根

　　柚子と酢橘をいれた紅時雨大根に、
　　表面をさっと炙ったたいら貝。
　　うるいをあしらって。

　　なんとも美しい、淡い紅とうるいの薄緑。
　　この色合い、なんとも儚さのある
　　日本の美を感じました。

９、鰤と海老芋の白味噌椀

　　鰤はお腹だけ。それを焼いています。
　　海老芋は、やさしく炊いて。
　　松の司の雫の酒粕と亀岡「片山商店」の白味噌を
　　合わせた白味噌椀。
　　松の司の酒粕はほぼ入手困難とのこと。
　　酒粕がいい仕事をして、芳香を放っています。
　　海老芋の甘さがやさしく、まさに至福の椀。

10、ぐじ御飯

　　たっぷりのぐじをのせた御飯。
　　もちろん、中川一辺陶さんの特注釜で。

11、手打ち蕎麦

　　ここで、大将が手打ちした蕎麦登場。
　　やはり、大トリを飾るわけですね。
　　長野産そば粉が２の二八蕎麦。
　　平打ちで、太目。　好みです。
　　最初は、京都、琴引浜の塩で。
　　その後、そばつゆで。

　　蕎麦湯について。
　　「通常の蕎麦湯は、小麦粉が先に溶け出すため、
　　　蕎麦湯ではなく、小麦粉湯。
　　　なので、そば粉のみを溶いた蕎麦湯を作りました」
　　と、大将。
　　考えていますね～～。

12、せとか

　　せとかのジュースにシロップを加えたものを
　　目の前で、シェイクしたものと、
　　シャンパンを、フレッシュなせとかに注いで。

13、手作りチョコレート

　　黒い小さな箱が登場。
　　２月なので、大将から愛をこめて、と
　　ひとつひとつ手渡しで。
　　カカオ６８％。　実によくできています。

お供は、
１、シャンパーニュ
　　 Arthur MARC 328 La Belle Annee 2011
すきっとした味わい

２、asatsuyu 2017
ケンゾーエステート
　　ソーヴィニヨンブランです

３、Chateau de Chamirey 2016
ピノノワール　１００％
　　辛口です。

4、北島謹醸　乳酸玉栄
　　お隣がこんな珍しい日本酒を飲んでいたので、
　　ちょっとだけお味見を。
　　切れのいい、乳酸発酵独特の味わい
　

大将の多彩ぶりを存分に体験させていただきました。

京都でも、いや、ほかでも、こういう日本料理屋さんは

ないでしょうね。

料理と向き合い、とことん追求し、

疑問なところは革新し、極める。

料理とホスピタリティで、とにかく

楽しませてくれる、唯一無二のお店です。

夏くらいまでのテーマは決定しているそう。

どんなテーマが登場するか、よりは、

大将がそこでどんな発見をし、

それにどう手を加えて、供するのかが、

興味津々で、目が離させません。