錦で念願の懐石料理 : 近又

日曜日の夜です。

今夜は祇園祭の宵山。其処彼処に浴衣姿の男子女子が見受けられます。

朝と昼を錦で済ませ、烏丸から太秦広隆寺まで移動。京都を訪れたら、国宝第一号の弥勒菩薩像に手を合わせないわけには参りません。

ベルニーニの彫刻に引けを取らない東の国の至宝。冷房の効いていない霊宝殿の中、扇風機の前を我が物顔で占拠（ごめんなさい。だって汗が止まらなかったので）し、その半跏思惟像を見つめ続けます。

脇の十二神将も素晴らしい。
じっと見つめていると今にも動き出しそう。ラッコは土門拳か？

そして嵐山まで足を伸ばし、渡月橋を往復。太陽が真上なので、髪の薄い頭頂部が熱を蓄積します。スマホでニュースを見ると、なんと記録的な38度。

もうダメだ。歩けない。河原町まで引き返します。
高島屋の休憩スペースで一休みしながら、昼までのレビューをまとめてアップ。精気が蘇ったところで、六時前にお店の前に到着しました。

亨和元年に近江屋又八さんが創業した商人宿が始まりとのこと。近江屋又八さんなので、略して近又。分かりやすい。それにしても亨和元年って、調べたら1801年ですよ。何それ。全く想像がつかない。

でも確かに、江戸から幕末、明治維新、大正、戦前戦後といった歴史が醸す重厚な空気を纏った店構え。お宿が始まりなので、今でも宿泊が可能な、いわば懐石料理旅館。さすが京都。時間の流れ方が半端ない。

こちらに興味を抱いたのは、NHKの仕事ハッケン！という番組で、チュートリアルの一人が住み込みで一週間修行し、鱧の捌きから骨切りまでを習得するというドキュメンタリーを見てから。

自分達の領域を勝手に侵されながらも、芸人さんの真剣に励む姿に徐々に距離感を縮め、時に厳しく、たまに優しく接する料理人の顔に、深い感銘を受けました。

口を真一文字に結び、眼を見開き、無駄口も無く、真摯な姿勢で素材に向き合う美しさと矜持。そんなお店の料理が不味いはずがない。

二ヶ月前に予約の電話を入れます。

丁寧な応対です。テレビ番組の見立ては間違いない、と再認識。『もしお座敷に余裕があれば、そちらでご用意いたしますね』とのこと。『えへへ、膝が曲がらないかもぉ』と泣きを入れると『大丈夫ですよぉ〜、テーブルを運び入れますから』とのお答え。

和田金と一緒だ。老舗のゆとりなんですね。嬉しい。

しかしながら祇園祭りの宵山という事で、座敷は団体様で満席。ランチの懐石で使われるのかな、一階のテーブル席でいただくことになりました。

こちらも四卓のうち三卓に用意がされていたので、座敷も含めてほぼほぼ満席ということでしょう。

本当は白木のカウンターが好きなのですが、こればっかりは仕方ありません。合成樹脂のテーブルでは趣きも冷めるものの、部屋を飾る生花が『そんな小さなこと、本質とは関係ございませんでしょ』と耳元で囁きます。心のササクレが解けます。

配膳はアルバイトの学生女子。悪くは有りませんが、手練れの女将にサーブしてもらうに越したことは有りません。

座敷も含めて大箱ですからね、やむ終えないのかな。カウンター懐石のお店が人気なのも、こう言ったところに理由があるのでしょう。

料理のお味は小デブの好みでしたが、やはりコスト相応の雰囲気を堪能するにはお座敷でないと。

今回のポイントは参考という事で。

日本酒の値付けは強気ですね。銀座のお鮨屋さんみたいでした。

いただいたものは以下の通りです。
鱧のコースとなります。

そしてご馳走さまでした。

＜お料理＞

●先付け：六品と煮山椒
鱧の押し寿司：鬼灯を器に二個付け。ドストライク。小デブの胃袋を鷲掴み。付焼き醤油と山椒の香り、表面のカリカリに初っ端から悶絶

鱚の黄金仕立て：品の良い佳品

蛸の小倉煮：一噛みで細い肉繊維状態に解ける解ける。この技はなんだろう

小茄子の茶筅煮：茶筅の形に見立てた逸品、オランダ煮かな？

煮鮑：ムニュッムニュッと嬉しい食感

青梅：シロップ漬け

●椀物：
女子が配膳し『どうぞ、蓋をお取りください』と囁きます。具材は鱧と冬茹とじゅん菜。昆布と鱧の焼き骨と柚子、そして梅肉の香りが立ち上がります。お出汁にただただ溜息

●向付：三点盛り、薬味は糸瓜
鱧の焼き霜造り：梅肉ソースが美味い

生の車海老：たっぷりの山葵で

甘鯛：肉厚でねっとり、今までで食した甘鯛の中では一番、鮨屋を凌駕

醤油が気になります。香りが良い。旨味も強い。自家製の煮切り醤油？

尋ねると『良くそのように訊かれるのですが、市販のものなんです。ただ、お出しするまでに器を冷やしておりますので、それで角が取れるのかと・・・』とのお答え。ホントかなぁ？

●焼物：
鮎の塩焼きが仲良く二尾。やはり人も魚も番いじゃないと。
向付で出された車海老の頭の塩焼き。どうするんだろうなぁ、と気になっていたので、思わず膝を叩きます。薬味は蕗煮

●煮物：
茄子と万願寺とうがらしの田楽味噌

●鱧のしゃぶしゃぶ：
炭火の火力でゆっくりと皮目から火を通します。ポン酢と梅肉ソースで。残った出し汁も別皿で残さずいただきます

●酢の物：
軽く湯引きした鳥貝、紐付き、柱付き、酢ジュレで。多分舞鶴産

●鱧雑炊：
軽くご飯三杯分に相当。山椒を薬味に完食。お腹が膨らむ

●香の物：
胡瓜、茄子、昆布と紫蘇

●デザート：
玲瓏豆腐の黒蜜かけ、すはま、葡萄

●抹茶：

＜お酒＞
●坤滴：純米、伏見
●羽田：純米吟醸、京都