【★4.5】奇形種の生命力【2144-6】 : 鎌倉 北じま

1,118文字★

00.生姜湯
01.おいなりさん（蕗の薹、蕾菜、ケシの実入り）
02.柚子釜（イバラガニモドキ、蕗、佐島産アンキモ餡）
03.佐島産定置網200kg本鮪ハツお造り
04.東伊豆（相模湾）産キンメダイお造り
05.白甘鯛お造り 揚げた鱗も添えて
06.活け越してから〆た3.6kg鮃（ひらめ）かぶら蒸し椀
07.石焼き人参（鎌倉産紫人参、米粉塩、大徳寺納豆、ピーナッツオイル入り胡麻ダレ）
08.磐田産海老芋ばちこ揚げ（ばちこ入りのおかき揚げ）
09.アオリイカ 雪うるい 蓮根甘酢漬け 土佐酢ゼリー 卵黄味噌
10.佐島産アンコウ鍋（身、頬肉、皮、胃袋）
11.お食事
11-1.葉山石井牛しぐれ煮、本鮪ハツユッケ、白米、赤出汁（生麩、わかめ）、香の物（芹と切り干し大根、タラの芽、芽キャベツ）、温かい焙じ茶
11-2.真鯵（あじ）棒寿司
11-3.鰆（さわら）藁炙りヅケ丼
11-4.蕪（かぶら）にゅうめん
11-5.イバラガニモドキ雑炊
12.水菓子（さがほのか、白いちご、ミルクゼリー、八朔ジャム、山椒、味醂）
13.涅槃餅、お抹茶

たまたま定置網に入ってしまったという200kgサイズの本鮪。
漁獲枠制限のため身の販売が許されず。
内臓に関しては規制対象外ゆえ（長谷川さんから仕入れた）心臓だけお造りで味わいます。

ポンプに当たる白い部分は筋肉質なのかと思いきや意外とフニャッとしておりコラーゲン質。
鮮度が良いのか赤い部分（心臓本体）が牛ハツ刺しに負けない旨味の強さ。
それでいながら牛の心臓より爽やかで、わざわざ本鮪の心臓を食べる価値を感じられます。

海老を餌にしており腹の中が黄色かったという相模湾のキンメダイ。
隣のお客さんはキンメダイから海老の香りが漂うと歓喜していました。
2024年2月は広島の馳走啐啄一十（4.51）や焼津の馳走西健一（4.46）で、
サスエ前田魚店（焼津市）から仕入れたキンメダイを食べる機会もありましたが、
脂がアッサリしているのは同じでも、旨味が強いのはこの海老香るキンメダイのほう。

そしてキンメダイと並んで圧巻だった白甘鯛。
幼魚のときに何らかの原因で骨折したのであろう後天的な奇形種。
弱肉強食な自然界でこういう個体は長生き出来ないはずなのですが、
この個体は奇形種なのにブクブク肥え太っていたという強者白甘鯛。

ご主人曰く奇形種なのに大きく育った個体はメチャクチャ美味しいとのことですが、
確かに凄まじい旨味の強さを感じられました。
ブランド産地とされる八幡浜（愛媛県）の白甘鯛より美味しかったぐらいで、
魚の美味しさは産地や旬よりも個体に依るということを再確認。

1,365文字★

00.コンブチャ
01.淡雪（イバラガニモドキと枝豆の山芋寄せ）
02-1.白和え（白ゴーヤ、青ゴーヤ、ほおずき）
02-2.八幡巻き（うなぎ、ゴボウ）ほおずきソース
02-3.トウモロコシ葛寄せ 髭の乾煎り
03.マハタと冬瓜のお椀
04.当日〆メイチダイお造り 本わさび 醤油 藻塩
05.当日〆ヒラソウダガツオ1.5kgサイズ背肩（心臓付き）お造り 本わさび 米粉プレス塩
06.当日〆ゴマサバ塩焼き（炭火焼き）
07.冷やし中華（全粒粉麺、きゅうり、胡麻スープ、海老オイル、唐辛子）
08.メカジキ230kgサイズ天ぷら 実山椒ソース
09.夏野菜（夏蕪、トマト、三度豆、茄子）と鶏胸肉 鶏出汁ゼリー掛け
10.お食事
10-1.香の物（きゅうりとコリンキーの味噌漬け）
10-2.止め椀（生麩のお味噌汁）
10-3.温かい焙じ茶
10-4.炙り太刀魚棒寿司
10-5.キハダマグロ漬け丼
10-6.鮎素麺
10-7.炊き込みご飯（鎌倉産鱧、ゴボウ、ヤマドリタケモドキ、アカヤマドリタケ、ウラベニホテイシメジ、シャカシメジ）
10-8.魚卵（太刀魚と鱧）塩辛の冷たいお茶漬け
11.甘酒豆腐ルバーブ添え
12.蓮根餅（蓮の実、蓮根澱粉）
13.冷たいお抹茶

キャンセル席が出たので同店（4.23）へ。
魚の仕入れ先が全てさかな人の長谷川さん、夏キノコを採ったのも長谷川さん。
長谷川さんが倒れたら共倒れとなりそうな同店。
リスクを負う見返り（リターン）も大きくて、同店でしか味わえないような魚介を楽しめます。

まず先付に「淡雪」仕立てのイバラガニモドキ。
卵白ではなくて山芋でイバラガニモドキと枝豆を寄せているのですが、
イバラガニモドキの純な旨味が光っていました。

夏のブランド蟹といえば噴火湾産の毛蟹に高級レストランでよく出会いますが、
この日のイバラガニモドキはそれに負けない美味しさ。
長谷川さんのイバラガニモドキは他店でも何度か食べていますが過去No.1かも知れません。

あやかり鯛ながら夏は真鯛より美味しいと謳われるメイチダイ。
敢えて脂ノリの良い腹ではなく、赤身メインな背肩を出してきたヒラソウダ。
（長谷川さん曰く赤身で最も美味しい魚がヒラソウダなのだそう。）
フレッシュゆえに水分が多くて、凄まじくジューシーなゴマサバ。
長谷川さんから直接仕入れた当日〆だからこその魚を堪能。

その中で白眉と思ったのが230kgという超大型サイズのメカジキ。
ご主人が豚肉のようだとおっしゃっていましたが、
確かに「軽やかなトンカツ」といった味わいで、豚ではないので火入れも超レアー。
天ぷら百名店を巡ってもまず出会えないであろう逸品でした。

〆に5種類のお食事を全てLサイズ（しかも一部おかわり）で食べても全く胃もたれしません。
同店の10分の1ぐらいのお支払いで魚を美味しく食べられるお店として、
吉原ソープ街の土手の伊勢屋（3.64）という天丼屋があるのですが、
3,000円で済む反面、食べた後に激しく胃がもたれて老いを感じます。
（揚げ油が太白胡麻油ではなくて昔ながらの胡麻油なので非常に重いのです。）
カルビのような濃厚な味わいではなくて、赤身のような淡麗な味わいで美味しいのが同店の特長。

2,376文字★

・おまかせ日本酒（冷酒グラス）

0.和らぎ水
1.福井県 吉田酒造 白龍 純米吟醸 無濾過生原酒 DRAGON IMPACT
2.石川県 数馬酒造 NOTO 純米大吟醸 中取り 2023
3.富山県 清都酒造 勝駒 純米吟醸
4.兵庫県 山陽盃酒造 播州一献 純米 夏辛

・おまかせコース

00.低温で淹れた新茶（京都府宇治市の利招園茶舗）
01.長谷川さんの梭子魚（かます）250gサイズ味噌漬けおこわ蒸し
02.熟れ出汁（熟れ鮓の飯、西洋種の茄子、ヤングコーン、鮎の開き）
03.佐島勘蔵丸の当日釣り物鰹 鰹の心臓 お米とプレスした塩 本わさび
04.相模湾二宮丸釣り物黒ムツ皮目炙り 塩 醤油 本わさび
05.水無月豆腐に見立てた真薯椀（小豆と玉蜀黍入りの真薯、秋田産蓴菜、青柚子）
06.白化粧（モロッコインゲン、スナップエンドウ、そら豆、酢漬けにしたホワイトアスパラガス、利休麩）
07.おかき揚げ（新牛蒡、新玉葱、新小芋）
08.桝網漁のアオリイカ 卵黄のソース 枝豆 アボカド
09.葉山石井牛36ヶ月ヒレとサーロイン 実山椒の甘辛いソース お米とプレスした塩 木の芽 万願寺唐辛子
10.お食事
10-1.熱い焙じ茶
10-2.香の物（ズッキーニの辛子和え）
10-3.相模湾産太刀魚棒寿司
10-4.止め椀（しじみの赤出汁）
10-5.長谷川さんのヒレカン（ヒレナガカンパチ）ヅケ丼
10-6.ミンク鯨ラーメン
10-7.三浦半島で長谷川さんが採った真竹と明日葉の炊き込みご飯
10-8.鯖燻製の冷たいお茶漬け（凍らせた出汁をトッピング）
11.ミニトマトのコンポート
12-1.薯蕷饅頭（甘く漬けた辣韮をトッピング）
12-2.お抹茶

上記の通り飲み食いして、お支払い総額32,500円でした。

2024年以降の予約をストップしており次にいつ行けるか分からなくなった同店（4.25）。
初音鮨（4.14）出身の鮨職人がスタッフに加わったことは前回お伝えしましたが、
4月からミシュラン二つ星レストランリューズ（4.03）の元スーシェフも新加入。
和食なのに鮨やフレンチの実力者がサポートするという不思議な陣容になっています。

6月ということで夏越の祓に茅の輪をくぐって入店。
蘇民将来符を飾った250gアップの特大梭子魚（かます）味噌漬けからスタート。
ご主人が勝手にネーミングしたという「熟れ出汁」。
熟れ鮓の飯を用いながら軽やか爽やかな味わいとなっており、
スコア4.25を叩き出すだけあって上品かつ非常に食べやすいです。

出会えたらラッキーという当日釣り物の鰹（かつお）。
船上で暴れる前に〆ているから身が熱で傷まないそうで、
ついでに当日という時間的なアドバンテージもあって何ともフレッシュ。

足の早いことで知られ、生姜や大蒜といった強力な薬味が必要となるはずの鰹ですが、
こちらは塩（お米とプレスしているので塩気が薄いです）と本わさびでシンプルに。
血合と一緒でも生臭さなんて皆無、これぞ地の利を活かした美味しさでしょうか。

そして『美味しんぼ』第69集5話で「カツオのへそ」と紹介されていた心臓。
美味しんぼでは生姜と醤油で煮付けにしていましたが、
鮮度に絶対の自信を持つ同店は「生」そのままで（味付け無しでも）。
モウカの星（モウカザメの心臓）よりもワンランク上の美味しさという印象。

心臓（ハツ）は魚より動物のほうが美味しいというのが持論で、
スタミナ苑（4.23）の牛ハツステーキや比内地鶏のハツがトップクラスと思っていますが、
魚の心臓としてはこれ以上が思い当たりません。
（すっぽんやうなぎの心臓は美味しさというよりそのまま飲み込む精力剤。）
万人ウケを志向するであろう高級店で出せるレベルというのが凄いことです。

ノドグロ（赤ムツ）より一般的に評価の低い黒ムツですが、
それはおそらく黒ムツの脂のほうが足が早くて臭みが出やすいからでしょう。
同店が仕入れる黒ムツはご主人も驚く脂ノリながら極めてフレッシュ。
皮目にだけ炭を直接当てて炙っていましたが、爽やかな脂が口の中で蕩けました。

ホルスタインと黒毛和牛の交雑種ゆえ赤身比率の高い葉山石井牛。
（葉山牛は黒毛和牛のブランドとなるので石井牛というオリジナルブランドとなります。）
過度な脂を好まないご主人が扱うだけあってサーロインでも爽やか。
しかしながら赤身の旨味が強くて、火入れやソースもフレンチ顔負けといった素晴らしさ。
フレンチでヴィアンド（主菜）にこのレベルを出せるお店も少ないでしょう。

恒例のお食事5種ではヒレカン（ヒレナガカンパチの略）に唸りました。
カンパチより市場価格は安いと聞きますが、長谷川さんの強い圧で購入したというヒレカン。
活かったようなブリブリ感を残しながら旨味鮮烈。
都心の高級店で食べる熟成させたカンパチよりも断然好みに合います。

そして海の食材だけでなく山の食材も自分で採る長谷川さん。
孟宗竹（一般的に知られる筍）にも負けない真竹の美味しさに驚きました。
ご主人によれば長谷川さんは真竹も神経〆したと豪語しているそうで、
確かに他で食べた真竹のような「えぐみ」皆無で驚きました。

ヤマドリタケモドキ（ポルチーニ系の夏キノコ）も採れているそうですが、
残念ながら同店には卸さず逗子の某中華料理店へ。
長谷川さんが食べに行く予定なので（自分のために）同店ではなく中華に渡ったようです。

その中華料理店では和製ポルチーニを春巻きにするそうで、
ご主人が「旨味の爆弾」とか「春巻きではなく夏巻き」などとおっしゃっていました。
同店は今のところ再訪不可能なので今度は「長谷川さん中華」に行ってみようと思います。

1,475文字★

00.福茶
01.お椀（相模湾産イバラガニモドキ、三浦大根、焼き餅、白味噌仕立て）
02.佐島産真蛸天ぷら手巻き
03.長谷川さんのクエお造り 素揚げした鱗
04.長谷川さんの活け〆当日物ノドグロ炙り
05.長谷川さんの鮟鱇炭火焼き 北海道産鮟肝
06.お年玉袋に入った長谷川さんのアオリイカコロッケ（おかき揚げ）
07.黒人参と牛蒡の胡麻和え
08.クエとトラフグ白子のかぶらあん
09.お食事
09-1.鰆味噌漬け
09-2.香の物（大根）
09-3.止め椀（しじみ汁）
09-4.ゴマサバ棒寿司
09-5.メジマグロ漬け丼
09-6.ミンク鯨ラーメン
09-7.イバラガニモドキの炊き込みご飯
09-8.鮟鱇雑炊
10.デコポンゼリー
11-1.花びら餅
11-2.お抹茶

お支払い総額が30,000円を超えてきましたが相応に腕も上げていると思います。
冬に超高級和食店を訪れると間人蟹や天然トラフグが出てきますが、
同店は地物（長谷川さん）のイバラガニモドキや鮟鱇。

ブランド力では敵わないのでしょうけど美味しさに関しては決して劣りません。
白味噌と吸い地のお出汁で昇華したイバラガニモドキ。
タラバガニの仲間ということでズワイガニより大味になるのかと思いきや、
処理の上手さや調理の上手さもあってか某店で食べた間人蟹のお椀に負けない満足度の高さ。

この時期は白味噌の京風お雑煮を意識したお椀を食べる機会が多くなりますが、
クリアーながら奥に複雑な旨味を感じる同店（4.07）がピカイチという感想。
和久傳出身というだけでなく、独立後も研鑽を重ねているのでしょう。

お店の二番手が初音鮨（4.37）出身ということで2品目は二番手が作る手巻き。
甘く炊いた佐島の真蛸（蛸の世界では明石と並ぶ二大ブランド）を直前に揚げ、
三河湾の焼き海苔と本わさびで巻いた本格派。

そして同店ならでは長谷川さんが神経〆した魚介の素材力にも唸ります。
5日ぐらい熟成させたクエは火を入れない生の状態でも旨味が凄いですし、
（クエなどハタ科の魚は火を入れて旨味を活性化させるほうが美味しいようなイメージ）
当日に獲れたばかりの活け〆赤ムツ（ノドグロ）のフレッシュな脂もまた鮮烈。

ノドグロは対馬産の市場評価が高いですが（相対取引であれば鳴門産がそれ以上らしい）、
長谷川さんの技術によって処理されたノドグロは対馬産を凌駕するのかも知れません。
わざわざ長谷川さんのもとを訪れて直接仕入れる同店ご主人の熱意の賜物でもあるのでしょう。

一般的には身より肝が評価される鮟鱇も長谷川さんだけは異次元。
水戸のオオツ（4.15）でも八幡浜の白甘鯛を差し置いてポワソンに採用していましたが、
トラフグを凌駕するのではないかと思うほどの旨味と弾力を楽しめて驚愕。

海水温の影響か余市や寿都で獲れる鮟鱇ほど肝が大きくならない相模湾の鮟鱇。
同店では北海道産の鮟肝と合わせていました。
この鮟肝が優しく穏やかな味付けとなっており、ご主人の実力の高さを感じます。

前述オオツでは半生のばちこ（海鼠の卵巣）と合わせていた長谷川さんのアオリイカ。
同店はレアー感を残しながら揚げることで油脂添加。
ネットリ食感と油脂によって旨味を増したアオリイカに舌鼓。

他のお客さんが少食なこともあって鯖寿司を食べまくっていましたが、
（〆のお食事は全種類を大盛りでお願いしてプラスおかわりまで出てきました）
それでも心地良い満腹感で済んでおり同店の脂が軽やかであることの証左でしょう。

1,539文字★

おまかせコース（24,200円、税サ込）

00.熊笹茶
01.長井漁港産トコブシ 鶏出汁で炊いた冬瓜 トコブシ出汁ジュレ
02.カマス天ぷらのお寿司
03.勘蔵丸の顎折れ鰹お造り
04.和歌山串本産フエダイお造り
05.鱧真薯と玉葱のお椀
06.伊東産ヤイトハタ炭火焼き 万願寺唐辛子 揚げた皮 骨と頭の出汁 米酢
07.白和え（クラゲ、赤蒟蒻、枝豆、天然紅花襤褸菊、天然三つ葉）
08.相模湾産太刀魚おかき揚げ レタス 水玉胡瓜 ラディッシュ ヘーゼルナッツ ピスタチオ 太刀魚の骨醤油
09.冷たい炊き合わせ（小芋、オクラ、黄ズッキーニ、加賀太きゅうり、白味噌スープ）
10.香の物（夏蕪、赤大根、コリンキーかぼちゃ）、止め椀（蓴菜の赤出汁）
10-1.炙り胡麻鯖棒寿司
10-2.キメジのヅケ丼
10-3.ミンク鯨ラーメン
10-4.ヤマドリタケモドキの炊き込みご飯
10-5.お茶漬け（梅、ナギナタコウジュ、大徳寺納豆）
11.トマトのコンポート
12.生姜の水羊羹、お抹茶

日本酒おまかせ

1.日高見 純米大吟醸 ブルーボトル（宮城県）
2.日日 秋津山田錦（京都府）
3.荷札酒 黄水仙 純米大吟醸 ver.8.4（新潟県）

お支払い総額は28,200円でした。
同店（3.95）を初めて訪れた3月は10ぐらいだったOMAKASEの食べ手レベル。
116まで上がりましたがOMAKASEでリピートしたお店は今のところ同店のみ。

まず都内のお店は金額があまりに高いですし（先日のくろぎは87,604円でした）、
同店より高く評価したお店は福岡県や大阪府に在って地理的に東京から再訪困難。
以下がリピート理由となります。

1.そこそこ東京に近い神奈川県の鎌倉という好立地
2.お支払い総額20,000円台とインフレの進む現在の日本に於いてはまだ穏やかな金額
3.三浦半島のカリスマと知られる長谷川さんの食材を楽しめるテロワール
4.食事すればその場で次の予約を入れることが可能

愛媛の藤本さんの魚や和歌山の串本の魚も長谷川さん経由で入ってきて、
ついでに山の食材も長谷川さんが採っているという長谷川さん依存度の高い同店。
前回は長谷川さんの甘鯛と鮟鱇がキラーコンテンツとなっていましたが、
今回はそこまで圧倒的と思う食材には出会えませんでした。

このあたりはテロワールの良し悪しな部分で安定感には欠けます。
日本全国からピンの魚が集まってくる豊洲市場は高いですが安定感は抜群。
とはいえフエダイは京都の50,000円コースで食べたアブラメより美味しかったですし、
豊洲から仕入れるお店ではなかなか出会えない魚でもあります。
こういう希少な食体験が同店の特長の1つと言えるでしょう。

走りの（長谷川さんの）胡麻鯖は身に水っぽさを覚えて前回の真鯵（棒寿司）に及ばず。
一方でキメジ（キハダマグロのメジつまり幼魚）が本鮪のメジにも負けない美味しさ。
ネットリした食感と旨味の強さを楽しめて驚きました。
キハダも旬という底上げ要素があれば高級店で出せるレベルとなるのでしょう。

白和えやトマトのコンポートといった口直し的なアイテムが美味しくて、
このあたりは京都の和久傳で腕を磨いたご主人の実力の証左。
ポルチーニ系のヤマドリタケモドキの香りと食感の良さはフエダイに次ぐヒットでした。

春に和久傳で食べた大原野産の白子筍（孟宗竹）は素晴らしい美味しさでしたが、
ご主人曰く同店では孟宗竹や松茸といったブランド食材は使わないそう。
破竹、真竹、姫竹あたりを使うそうで同店の方向性を示唆しています。
次の予約は最短で2023年となっており今や予約半年待ちの人気店。

4,770文字★

おまかせコース（24,200円、税サ込）滞在時間：約2時間30分

鎌倉出身の北嶋靖憲氏が京都（和久傳グループ各店）で腕を磨き地元で独立。
2021年5月オープンのまだ若い（ご主人も若い）お店ですが食べログのスコア3.88まで上昇。
OMAKASEでは6月までの予約可能枠が全て埋まっています。
（そしてお店で食べれば7月以降も予約可能なのでどんどん枠が無くなる悪循環。）

店内は直線カウンター8席のみ。
キッチンは裏にあるようでライブ調理を楽しめるのは炭火焼きなど一部だけ。
ウィズコロナの時代にしては隣との間隔が狭く窮屈なのですが、
2回転するつもりは無いそうで仕方ない面もあるのでしょう。
（地魚にこだわっており16人となると食材の確保が難しいとのこと。）

ドリンクメニューを拝見すると下手なフレンチ顔負けでワインが揃っています。
2006年のジュヴレ・シャンベルタン（約34万円）なんていつか飲んでみたいものですが、
しかしコルベールやピジョンではなく和食にシャンベルタンって合うのでしょうか。

若いご主人、食べログ高評価、予約困難、和食なのにワインリストが充実。
ここだけ取り上げると筆者とは相性が悪い予感ビンビンなのですが、
食への姿勢はマニアックで食材を語らせるとご主人の話が止まらなくなります。

また脂に頼った旨味を嫌うご主人。
例えば竹岡（具体的な地名はおっしゃっていませんでしたが竹岡と推測）の太刀魚は、
釣り餌で脂が増えているので雑味が気になるとのこと。
（フワフワ蕩ける食感なので高級鮨店の竹岡産太刀魚塩焼きを喜び貪る筆者。）
相模湾で獲れる（おそらく神経〆の）太刀魚のほうが美味しいと豪語していました。
（とはいえ食材に関する会話以外は慇懃無礼なぐらい謙虚です。）

この点でも筆者とは相性が悪いように思えましたが、
脂ノリノリな地鯵やミンク鯨のウネスが出てきて決して脂を否定しているわけではないです。
おそらく軽やかな脂は積極的に取り入れているのでしょう。
ジビエや魚介の軽やか爽やかな脂を好む筆者と必ずしも相反するわけではないようです。
（過度な脂を嫌う方針ゆえか、偶々か、この日の客層は年齢層高めでした。）

魚のカリスマと知られる三浦半島の長谷川さんとの繋がりが深いようで、
お店で扱う魚の殆どが長谷川さんの神経〆地魚。
長谷川さんは山の食材まで採るそうで本日は天然の明日葉など長谷川さんの収穫物も登場。
キノコの時期はヤマドリタケモドキ（ポルチーニ系の天然キノコ）を楽しめるそうです。

高山（岐阜県）の肴（3.94）や開田高原（長野県）のわらび野（3.96）など、
テロワールにこだわる（特に山の食材を楽しめる）和食を好む筆者。
海に面した神奈川県なので岐阜県や長野県より海産物の比率が高いですが、
都内東側から1時間チョットで行けて都内の和食とは全然違う食材を楽しめる特異店。
7月にポルチーニ系の天然キノコと出会えることを願って次の予約を入れてしまいました。

おまかせコース（24,200円）

01.玉露茶
02.～上巳の節句～ 薹立ちした蕗を練り込んだ胡麻豆腐 白子のすり流し 桃の花
03.～上巳の節句～ イバラガニモドキのちらし寿司
04.地物神経〆甘鯛10日熟成お造り
05.和歌山産鰤お造り
06.地物神経〆鮟鱇のお椀
07.和歌山産鰤の炭火「焼きしゃぶ」大根
08.白和え（天然明日葉、独活、赤蒟蒻）
09.江の島産蛤と春キャベツの餡掛け
10.地物アンキモと海老芋を練って牛蒡に鋳込んだ強肴
11.ご飯、香の物（大根、赤蕪、牛蒡）、止め椀（長芋と三つ葉の赤出汁）
11-1.真鯵棒寿司
11-2.鰤のヅケ丼
11-3.ミンク鯨ラーメン
11-4.ブダイと蕗の炊き込みご飯
11-5.鮟鱇のアラ解し雑炊
12.湘南ゴールド（柑橘）と湘南そだち（苺）
13.ぼたもち
14.お抹茶

田酒 純米吟醸 百四拾 桜（青森県）、而今 特別純米 無濾過生（三重県）、
Tsuchida 12（群馬県）、いずれもワイングラスで飲んでお会計27,000円。

食べた料理の寸評は以下の通り、【】内は個別の採点、表示価格は税サ込です

【3.2】薹立ちした蕗を練り込んだ胡麻豆腐 白子のすり流し 桃の花

まずは上巳の節句（桃の節句）を意識した2品が出てきます。
白子のすり流しに魚臭さのような風味を覚えてしまってこの料理だけイマイチでした。
（あくまで高級店の料理としてはであって居酒屋の冷や奴より桁違いに美味しいです。）

【3.6】イバラガニモドキのちらし寿司

都内高級鮨店に比べると酢飯を（米粒は大きいのですが）やわめに感じました。
お米の中には酢蓮根と椎茸旨煮が忍ばせてあり、イバラガニモドキの赤色、
錦糸玉子の黄色、木の芽の緑色が層となってヴィジュアルが美しいと思います。

面白かったのが相模湾の長井漁港（長谷川さんのホームグラウンド）で獲れた、
イバラガニモドキというタラバガニのような味わいの蟹。
「モドキ」と名付けられたのは発見が後だったからであり、
ご主人曰くイバラガニよりイバラガニモドキのほうが美味しいとのこと。
確かに繊細なズワイガニより大味なタラバガニに近いですが旨味そこそこあります。

【4.7】地物神経〆甘鯛10日熟成お造り

刺し網で獲れた活けの甘鯛を神経〆。
野〆ではなく活けを神経〆する甘鯛は非常に珍しいと力説していました。
10日熟成しても身に適度な歯応えが残っておりクリアーな旨味と滑らかな食感を楽しめて超絶。

相模湾ならではの神経〆甘鯛。
駿河湾にも神経〆する漁師いるそうですが日本海側では皆無。
（そういえば鳥取県の某ミシュラン店では地元の漁師はスキルが低いと嘆いていました。）

甘鯛はお造りより鱗焼きで食べるほうが美味しいと思っていましたが、
お造りで食べてここまで美味しい甘鯛とは既成概念が打ち砕かれます。
都内高級店（つまり豊洲市場経由）でもこのレベルの白身魚にはなかなか出会えないです。

【3.5】和歌山産鰤お造り

和歌山の新物に近い鰤（相模湾ではまだ漁が始まっていないとのこと）。
この鰤だけ相模湾ではなく、それ以外の海産物は全て地物となります。
醤油餡と薬味に三浦大根（ちなみに魚に応じて醤油は全て変えているそう）。

ご主人の「過去一鰤」ということでしたが筆者には脂ノリが物足りません。
脂がアッサリしているので大根おろしでサッパリという食べ方も苦手に思ってしまいます。
氷見や北海道の脂ノリノリな鰤を好むコッテリ嗜好な筆者とは好みが少し外れました。

【4.8】地物神経〆鮟鱇のお椀

椀種は長谷川さんの神経〆鮟鱇の身、椀妻は蕪、吸い口は黄柚子の皮、吸い地は一番出汁。
もう食べる前からワクワクしていました。
何故なら長谷川さんの神経〆鮟鱇の身を椀種に使用しているからです。

水戸のレストランオオツ（4.15）というフレンチレストランも、
長谷川さんや愛媛の藤本さんといったカリスマから魚を仕入れているのですが、
そこでポワソンに食べた長谷川さんの神経〆鮟鱇が5.0満点クラスに美味しかったのです。

ブリブリ弾力を楽しめながら凄まじい旨味も溢れてくる格別な鮟鱇。
相模湾で獲れる鮟鱇は北海道の鮟鱇に比べると肝が小さくてアンキモはイマイチなのですが、
その代償としてなのか神経〆の賜物なのか身はメチャクチャ美味しいです。
吸い地の一番出汁も調和を感じる素晴らしさで鮟鱇を昇華させていました。

【3.5】和歌山産鰤の炭火「焼きしゃぶ」大根

カウンター前に炭火をセットして軽く「焼きしゃぶ」にした鰤。
前述の通り脂がアッサリしており筆者のストライクゾーンとは外れるのですが、
レアーな火入れと出汁を含む大根の美味しさは良かったです。
なお筆者のマイベスト鰤大根は佐倉のプレゼンテスギ（4.36）という西洋かぶれ。

【4.0】白和え（天然明日葉、独活、赤蒟蒻）

前述の通り長谷川さんが山で採ってきた明日葉を使用。
シャキシャキ感を残す明日葉と独活、クニュクニュした赤蒟蒻に、
濃厚ネットリした白和えが絡んでベジタリアン歓喜しそうな素晴らしい美味しさ。

【3.5】江の島産蛤と春キャベツの餡掛け

レアーな蛤の火入れは良いのですが代償として生臭みを覚えます。
これは同店に限らず他店でもレアーな蛤に感じてしまう宿命的な欠点。
一方で火を通すと臭みは消えるも蛤の身は硬くなるという難しさ。
和食で蛤を食べるのであれば大粒な個体を「天ぷら」が筆者の理想。
（ご主人が油脂添加を嫌うので同店のコースに揚げ物は出てきませんでした。）

【3.6】地物アンキモと海老芋を練って牛蒡に鋳込んだ強肴

前述の通り相模湾の鮟鱇は身の美味しさの代償なのか肝は小振り。
海老芋と練って牛蒡に鋳込んでいるのですが、
アンキモに期待する濃厚な味わいという点で少し物足りなさを覚えました。

【4.5】ご飯

料理10品目でもう〆の「ご飯」となります。
24,200円とはいえ観光地の鎌倉でボリュームを求めてはいけないか。
どうせ（原価の安い）炭水化物で誤魔化して終わるのであろう。
同店の評価は良くて4.0ぐらいかと「ご飯」を食べるまでは思っていました。

ご飯の候補は、真鯵（あじ）棒寿司、鰤（ぶり）のヅケ丼、ミンク鯨ラーメン、
ブダイと蕗の炊き込みご飯、鮟鱇のアラ解（ほぐ）し雑炊、以上5種類。

全てをチョットずつ（Sサイズ）という選び方も可能とのこと。
むしろ全てをLサイズも可能なので厚かましくも5種類をLサイズでお願いしました。
余った料理に関してはおかわりまで可能という大盤振る舞い。

まず真鯵棒寿司ですが仕上げにご主人が炭を押し付けて炙ります。
部屋にモクモクと煙が立ち込めて窓を開けるハメになるぐらい脂ノリノリな真鯵。
鯖（さば）かよと思うぐらい身厚かつ脂が凄くて驚愕しました。

ちらし寿司同様に都内高級鮨店に比べると酢飯をやわめに感じるのですが、
脂ノリ良く蕩ける口当たりの真鯵が圧倒的に美味しくて弱点など吹き飛ばします。
Lサイズとして3切れ（Sサイズのお客さんは1切れ）出てきたのに、
おかわりまで食べてLLサイズを堪能しておりました。

鰤のヅケ丼は本わさび、醤油漬けにした鰤、叩いたメカブという構成。
お造りや鰤大根のときにアッサリし過ぎると文句を申し上げていた鰤ですが、
このヅケかつメカブとの組み合わせこそ最適解な食べ方ではないでしょうか。
大根おろしやら炙って脂を落とすなんて配慮はこのアッサリした鰤には不要。
醤油やお米と合わせてストレートに味わってこそ鰤の真髄を堪能できました。

ミンク鯨ラーメンにはチャーシュー代わりかウネス（畝須）が乗っています。
筆者の感覚ではウネスってモツ焼き屋のカシラアブラや馬刺しのコウネなのですが、
アブラ嫌いではなかったのかと突っ込みたくなるラーメンの構成。
尤も同店が採用するウネスだけあって脂が軽やかではあります。

ブダイは「あやかり鯛」であって真鯛とは食感がまるで異なります。
火を通しても身がパサつかず独特の弾力感を楽しめました（イメージとしてはギンダラ）。
鮟鱇は腹下の部分を使っておりホルモンのようなコリコリ食感。

5種類を全てLサイズ以上で食べて圧倒的に美味しかったのは真鯵と鰤。
炭水化物だけでなく地魚（鰤だけ和歌山産）をこれでもかと楽しめて満足度が爆上がり。

【3.5】湘南ゴールド（柑橘）と湘南そだち（苺）

フルーツも地物にこだわります。

【4.0】ぼたもち

粒餡も糯米もシットリしており洗練された美味しさ。