昔のバゲットモンジュが戻ってきた？！ : メゾンカイザー 大船ルミネウィング店

前回のレビューでさんざんこき下ろしてしまったメゾンカイザーだが、撤退せずに存続しているとこ
ろを見ると、それなりにお客さんが付いているようだ。仕事が立て込んで遅くなった金曜日、週末用
のパンを買いに、久し振りに寄ってみた。バゲットモンジュと2種類ほど購入。かつてはちょっと高
いかなと思ったバゲットモンジュだが、200円台というのは、最近では割安感がある。

翌朝食する。切っている時に気づいたのだが、随分と固い。何か昔のバゲットモンジュをほうふつと
させる手応えだ。食べてみる。クラストは堅く、クラムはかなりしまって凝縮されている。噛むと味
が出てくる。悪くない。フランスパン風のバゲットを売っていたのに、随分と改善されている。以前
レビューを書いたときに、レビュアーの方にメゾンカイザーショップは隣のサンジェルマンでパンを
焼いていることを教えてもらったのだが、バゲットは焼き方を変えたか、ブーランジェリー店から持
って来るとかに変えたのだろうか。それくらい違う味と食感でした。

何はともあれ、昔のバゲットモンジュが戻ってきたようで、よかった、よかった。

今から15年くらい前、フランスからPaulとメゾンカイザーが日本に上陸し、一世を風靡した時代があった。フランスパン（かつてはバゲットと言う呼び名もあまり知られていなかった）やデニッシュ、総菜パンなどが主流だった日本のパン市場に、フランスの本場（風）のパンというのは、ずいぶん衝撃的だった。あくまで主食のハード系食事パンという概念を日本に持ち込んだのは、この2社の功績によるところが大きいと思う。

それから十余年、Paulは一時期親会社の意向が前面に出過ぎて（この辺りはサラリーマンである私もよくわかるが）パス〇のパンを売るフランスのパン屋さんになってしまったことが響いて、拘りのパン好きたちを遠ざけてしまった。

一方のカイザーは、割と地味に美味しいパンを提供し続けていたのだが、いつの頃からかやたらと多店舗展開するチェーンになってしまった。木村屋のご子息が社長を務め、サンジェルマンと同系列ということで、そうなっていったのだろう。

都立大学のブレッドプラントオズとか、西日暮里のイアナックとか、こちらで修業をして自分のお店を開いた（そして名店と呼ばれる）方は数多い。店舗数が少ない頃は、本当にいいパン屋さんだったのだが。大量に（30店舗以上）店舗を展開する中で、残念ながら凡庸なデパ地下系のパン屋さんになって行った感は否めない。

ということでこちらのお店だ。カイザーはついに大船にまで進出してきた。ルミネの改装に伴ってできた店舗だが、通路を隔ててサンジェルマンに隣接しており、かつては更に背中合わせに木村屋まであった。開店当時は随分混雑していたが、最近はお客さんもまばらだ。多店舗展開をしても、商品ラインアップはいじっていない（そういう契約なのかもしれない）ため、菓子パン・惣菜系が充実しておらず、この辺のお客さんにはあまり受け入れられないのかもしれない。近所にはハード系では、都内の名店にも引けを取らないCalvaもあるし。

Calvaには最近ほとんど毎週伺っているので、久し振りにと思ってこちらに寄った。購入したのは定番のクロワッサンとバゲットモンジュ。かつてクロワッサンは本当に良心的で美味しかったし、バゲットモンジュは何となくフランス本場の風味を感じて、わくわくしながら食べたものだった。

翌朝食する。思った通り凡庸な味だ。時は残酷に過ぎ去ってしまったのだ。以前は上品なバターの甘みが感じられたクロワッサンだが、今日本はバター不足だし、あまりいいものは使えないのだろう。バゲットモンジュはデパ地下のフランスパン系にどんどん近づいている。生地の目が細かいタイプのバゲットは、うまく作らないとそうなる。オズのバゲットや、有名店のセイジアサクラのバゲットもこのタイプだが、チェーン店と名店を比べても仕方があるまい。オズには1度しか行ったことが無いが、かつてカイザーが目指したものがそこあるような気がした。

メゾンカイザーはどこに向かっているのだろう。どういう位置づけで、どういうターゲット層に何を提供しようとしているのだろうか？サンジェルマンがあるのだから、別に多店舗展開をしなくてもいいような気がするのだが。