お料理の内容だけなら2つ星レベル : 菅井

毎年10月1日～3日間の予約だけで年間の予定が総て埋まる横浜のミシュラン一つ星店。

私も地元がこちらのほうなのでよくわかりますが、ひと昔前は横浜といえば、石川町の山の手や関内の馬車道通りのことだったんですよね。当時学生だった私には馬車道沿いの飲食店はちょっと敷居が高く、もっぱら中華街ばかりだったのを覚えています（笑）。

とそれから15年20年が過ぎ、ずっと行きたかったお店に招待されて伺いました。

ミシュラン本を読まない私がこのお店を知ったのは、知人の自宅でおせち料理を頂いてから。

そこには何店かのおせち料理が並んでいたのですが、一つだけ見た目は華美ではなく妙に静かな気迫に満ちていて、お味が素晴らしい。最初は新橋『京味』や銀座『小十』や銀座『とよだ』あたりのかな？と思ったのですがさにあらず、横浜『菅井』のものと言われそこでこちらのお店を知ったわけです。

店内は元々高級な鉄板焼き屋か何かのお店を居抜きで活用している昭和バブリーな若干ちぐはぐ気味な内装で、この内装だけ見ると都内のグルメ人は少しドキドキするかもしれません。女将もラフな格好で気取らず、適度な距離での接客です。食器も珍しいですが、中の上くらいの普通のモノです。

ただ、出てくるお料理が素晴らしいです。

お刺身もさることながら、今の時期でしたら毛蟹や松茸を筆頭に、食材は都内のミシュラン2つ星3つ星レベルのモノをこれでもかと出して頂けます。

毛蟹もしっかり食べ易く調理してあり、尚且つ、味が抜けておらずしっかりと蟹の濃い味がします。私は松茸には特段有難みを感じませんが、頂くときはあの総ての生物を虜にしてしまうような香りを大満喫したいため、国産のそれも岩手や京都や兵庫あたりの良い土で育ったモノだけ頂くようにしていますが、今年は雨で特に手に入らないと聞いています。その中でこのレベルをこれだけ出して頂けるのか？と驚きました。いちいち産地のことなど聞きませんが、銀座のミシュラン店ででてくるような最高級レベルなのは間違いありません。とらふぐの白子に海鰻のかば焼きなども素材の抜群の素晴らしさもさることながら、火入れが本当に絶妙で素晴らしい。

そしてそれらを丁寧に引いたお出汁や割烹の技術で繊細に、ときには完成度の高い独創的な味付けで、頂けます。

この内容で最後は土鍋の松茸ご飯までお腹いっぱい頂けて、デザートまで頂けて12,000円/人ならそれは予約が殺到するわけです。お料理の満足度でいえば25,000円/人前後と同じかそれ以上だからです。ふと、京都『天ぷら　松』を思い出しました。

ただ、それは都内よりもテナント料の安い横浜だから、内装にお金をかけていないから、そしてその分浮いた利益を総て次の来店者の食材にオールインして準備して下さるお陰で食べ手が得られるこの満足度なのでしょう。

このオールインがどれだけすごいことか、、、。

毎年10月最初の3日間で年間の予約が総て埋まるまでのご夫婦と有能なスタッフの方々の様々な苦労の歩みを考えると泣きそうになってしまいます。

このお料理の内容に、高級な内装と食器と相応のサービスとこのお料理に合う飲み物を加えたら都内の和食のミシュラン2つ星になるからです（必ずしもなる必要はありませんが）。

私は横浜方面で食事する際にたまにお昼に寄る横浜『元町　梅林』で修行されたと聞いてとても嬉しかったです。あのお店も元町にいったら寄る、個人的に大好きなお店だからです。

美味しさを価格×味でしっかりと判断できる方にとっては、日本で食べる高級和食はここだけで良いという方がいらっしゃるのも不思議ではありません。

いくら食材費や人件費やテナント料がずっと高騰しているとはいえ、私自身常日頃から色々食べ歩いているものの、50,000円/人70,000円/人の満足度は中々得られないのが実情だからです。

リーズナブルにミシュランレベルの和食を学びたい20代30代の方は来年の予約をめちゃくちゃ頑張る価値あり。

金沢『めくみ』もそうですが、ご夫婦が健康でいつまでも地元に愛される素晴らしいお店として続くことを心よりお祈り申し上げます。

※どのお店でもそうですが、予約して直前でのキャンセルは控えましょう。どうしてもの直前キャンセルの際は別の人を紹介するのが良いお店と良い関係でお付き合いする最低限のエチケットの一つです。