地元鹿児島の焼酎とともに、多彩な薩摩料理の数々をいただける老舗郷土居酒屋さん。 : 天文館 吾愛人 本店

今回は久しぶりに鹿児島を代表する老舗郷土居酒屋のひとつ「吾愛人」さんへお邪魔してまいりました。

創業70年を超える老舗ですが、いつまでも変わらない気軽な雰囲気がまた嬉しいですね。
以前と同じようにカウンターの一席に座らせていただきます。
メニューには、鹿児島ならではの地産料理、郷土料理がずらりと並び、その種類の多さもまた圧巻です。

とりあえずは鹿児島と言えば定番の「きびなごの刺身」「さつま揚げ」「とんこつ」からいただきましょう。
飲み物はまずはやはり「一番搾り」の生で。
ところが、春先とはいえ天候さえよければ汗ばむほどの鹿児島の陽気のさなか、ジョッキはすぐに空になってしまいます。
そうなると当然、地元鹿児島の誇る焼酎へとチェンジですよね。
ということでこれまたド定番の「桜島」の黒をロックでいただきます。
すっきりとしたドライな味わいはどのような料理にも合いそうです。

まずは早速「きびなごの刺身」から運ばれてきました。
独特の甘い味付けの酢味噌がプリプリのきびなごの身にとてもよく合いますね。
そういえば昔、地元の方からこんな話を聞いたことがあります。
「きびなごの酢味噌、さつま揚げ、とんこつ、鹿児島の肴はどれも甘い味付けなのはどうしてだと思います？」
「答えは簡単。芋焼酎に合うからですよ。」
なるほど、実際にいただいてみると、この話の説得力の強さに妙に納得させられてしまいます。
確かにこの甘さは大きなポイントのひとつかもしれませんね。

続いて運ばれてきました「さつま揚げ」と「とんこつ」。
「さつま揚げ」は自家製の揚げたてでアツアツです。
ほんのり甘い味付けがまた焼酎のお供にぴったりですね。
そして「とんこつ」。
「とんこつ」とは、豚のあばら肉を焼酎と黒糖とともに豪快に煮込んだ、鹿児島を代表する郷土料理のひとつ。
見た目はかなりくどそうではありますが、意外にさらっとしていて、なおかつ味付けはなかなかの深さでもあります。
このこそまさに芋焼酎のロックにはピッタリですね。
脂分と糖分を焼酎がまるで溶かしていくかのようです。

続く焼酎は「伊佐美」をロックで。
「伊佐美」らしいどっしりとした飲みごたえのある味わいです。

続いての料理はこれまた鹿児島らしい郷土料理のひとつ「豚しゃぶ」をいただくことにしましょう。
「吾愛人」さんで使われるポークは、数ある鹿児島黒豚の名ブランドの中でも特に定評のある「六白黒豚」を使用されているとのこと。
固形燃料で熱せられる小さな鍋ですが、肉はもちろん、スープも野菜も全てが本格的です。
このような本格的な鍋料理が一人前からいただけるのもまた「吾愛人」さんの大きな魅力のひとつでもありますよね。
味付けされたスープの中に豚肉をくぐらせていただくスタイルは、あの「あぢもり」さんと同じです。
深みのあるダシは効いているものの、濃すぎない味付けのスープだからこそ、六白黒豚本来の脂の上品な甘さが非常に引き立つわけですよね。
何もつけなくてももちろん十分すぎるほど美味しいのですが、添えられた柚子胡椒とともにいただくと、肉の甘さはさらに倍増します。

三杯目の焼酎は「蛮酒の盃」をいただきます。
5年ものの古酒は、まろやかでありながらとても深い味わいです。
鹿児島らしい肴の数々ともまさにぴったりですね。

そういえばこちらの「吾愛人」さん、鹿児島市内限定とはいえ、いつのまにか4店舗を展開されるチェーン店になっていたのですね。
きっと従業員の方々もいっきに増えたのでしょうね。
もちろん接客は悪くはありません。
むしろ丁寧なくらいです。
しっかりと教育されているというのも十分伝わってきます。
ただですね、良い意味でも悪い意味でもサラリーマン的というかマニュアル的になってしまったことは否めませんよね。
こちらから質問したりすることはもちろん丁寧に答えてはくださるのですが、板場の方から積極的に話しかけられるということは、ここ２～3回の訪問ではすっかりなくなってしまいました。
もちろん今のご時世、全ての客がそういうことを歓迎していないことは十分承知しています。
ただ昔の「吾愛人」さんの、自然に店員さんやら周囲のお客さんとの会話の輪が広がっていたあの頃の雰囲気がすごく懐かしく感じられてしまうのもまた正直なところです。
あと、「これ、食べてみてください」とサービスの小鉢がどん！　
そして「よかったらこれも是非試してみて」と焼酎のロックをどん！　
こういうサービスもすっかりなくなってしまいましたね。
それが当たり前のことかもしれませんが、やはり寂しいものです。

それでも「吾愛人」さんの薩摩料理の美味しさと焼酎へのこだわりは昔と全く変わりません。
お一人客様限定のメニューももちろん健在です。
一人でも肩肘張らずくつろげる雰囲気といい、お一人客を大切にされる姿勢が変わっていないのはやはり嬉しいものですね。
以前ほどの過剰サービスはないとはいえ、また再訪したいと思えるお店であることもまた変わりはありませんね。