ただただ畏敬 : すし処 めくみ

日曜日の夜です。
野々市市です。

一年前のdancyu鮨特集で、早川光さんの記事を読みました。

正直、遠いいし、他にも選択肢は多いし、などと、後回しにしていたお店。大人の休日倶楽部で北陸行きを決めたのち、たまたまNHKのノーナレ選で特集されていた番組を拝見しました。

やはり映像は強い。

雑誌の記事では窺い知れない魅力に溢れておりました。すかさず休暇を一日延長し、予約の電話を入れます。

なかなかお出になりません。
よくよく調べれば定休日。小デブはうっかり八兵衛ですね。

営業時間中の電話は遠慮していたのですが、水曜日にかけると直ぐに受話器がとられ、通話口の向こうから可愛らしい声が聞こえます。

ノーナレ選で見た女将さんの声だ。
これまでのジリジリとした焦りが吹き飛びます。無償の愛を感じる、明るく切なく優しい語り口。

番組でもハニカミながら『うちの旦那様は例えると、変態って、市場の方からは呼ばれます。でも旦那さんのお鮨は日本一だと思います』と、頬を染めながら、悪戯っぽく呟かれた笑顔に、柔道一直線の吉沢京子のイメージが重なります。古い！

さてさてこちらにお伺いするルートといえば、金沢駅からタクシー、もしくは野々市駅からタクシー、北陸鉄道石川線の額住宅前から徒歩、の3パターン。

小デブは敢えて第四のルートを選びます。

そう野々市駅からの徒歩。
グーグルマップでは35分とでましたが、全く問題なし。知らない街をブラブラ散歩しながら、25分程度で到着します。

開店の六時まで時間があるので、近くの公園でレビューの下書きを進めます。そろそろ良いかなと思い、お店の前に来ると、ちょうどタクシーが止まったところ。やはり普通の人はタクシーで来店されるようです。

日曜日はお昼の営業もされているので、ちょっとバタバタ状態ですね。十分過ぎたところで、ようやくカウンターに案内されます。

ズカの男役のように素敵な女子が飲み物のオーダーを取ります。それからさらに十分が経過。生ビールで唇を湿らせていると、ようやく仕込みの段取りが終わったのでしょう、親方が両手に四本の包丁と金属製の菜箸を握り、奥から現れました。

まるでシザーハンズみたい。

腰の低い親方は『申し訳ありません、申し訳ありません』と、カウンター客全てに腰をおられます。

なになに、プロローグが長ければ期待も高まるというもの。

一つ問えば、立て板に水のお応えが滔々と続きます。語り切れないもどかしさが伝わってきました。

親方としては、今夜のネタには不満足だったようです。『黒鮑は個体数が少なく、どうのこうのと言えるレベルではありません。穴子ももうやめちゃおうかなんて考えちゃうし、鮃も弱い・・・』

それを言っちゃあおしめ〜よ、と思うも、素直に吐露出来るのは、ある意味毎日真剣に魚と向き合っている証左、とポジティブにとらえました。

お酒は、料理に合わせて石川と福井の地酒を合わせてくれます。

グラスはバカラ。
お酒をサーブしてくれるヅカ系美人女子にそれとなく伝えると、笑顔が弾けます。『そうなんですぅ〜、素敵だと思って』とのこと。

気づいてくれて嬉しかったのかな。誰も分かってくれないと、つまらないですよね。

すると親方が、鮑を削ぎ切る手を休めながら『広口と狭い口のグラスを、お酒に合わせて用意しているんです。辛口甘口で香り立ちが異なるので・・・』と呟きます。

う〜ん。そんなバカラ、いや、馬鹿な。
そこまで計算しているのか？

なかなか稀有な親方です。そのこだわりは、半歩も一歩も抜きんでています。

その点は賞賛に値しますが、一斉スタートの二回転、というのが、小デブの肌には合いません。

一昨日の福井の十兵衛さんも一斉スタートですが、四人だったので、まだ許容範囲。こちらでは八名なので、どうしても間を持て余してしまいます。

自分のリズムになりません。

単なる我儘なのですが、カウンターなので、こちらの食べ進み具合を見ながら、ベストなタイミングで次のお皿をサラッと出してくれるお店が、やはり好きだな。

とはいえ、一つ一つの肴も握りも素晴らしいし、親方の姿勢も刮目に値するし、その点では大満足でした。

単に、食している、ではなく、食べさせてもらっている、という受動的な感覚。それがちょっと苦手なだけです。

いただいたものは以下の通りです。
そしてご馳走さまでした。

料理の撮影は禁止なので、お酒とお店の外観のみの写真です。

＜おつまみ＞
●真河豚の白子：能登島の須曽産
●ガス海老：越前前
●赤西貝：七尾湾、小さい
●鮃：朝締め、味が薄い
●鮃の縁側：朝締め、既にだれてきている
●ガス海老の炙り：軽い炙りに甘味が際立つ

●蒸し鮑：
磯の香りに悶絶。まるで異なる物体。能登島の須曽産と能登半島の門前産の合わせ技

●蒸し岩牡蠣：能登島の須曽産、旬は四月まで
●喉黒：炙り
●焼き海苔：有明一番の中の数%の最上級品
●蛍烏賊：付け焼、三月一日解禁の走り、小型

●生口子の炙り：十本程度を糸巻き状の球体にして軽く炙ったもの。これは悶絶。干し口子は発酵臭が個性的だけど、生なので、ただただ旨味の塊

＜握り＞
●鮃：
●槍烏賊：福岡産、地物はペラペラなので
●ムラサキウニ：函館森町産
●鱈の白子：名残を軍艦で
●中トロ：舞鶴産
●毛蟹：メスなので旨味は少ない
●小柱：知多産の大星の軍艦、旨味少なし
●鉄火手巻き：隙見、今夜のナンバーワン
●喉黒：炙りのアサツキと生姜のタタキ乗せ
●煮鮑：時間をかけて柔らかく炊いたもの
●煮穴子：柔らかすぎて形が崩れます
●中巻き：煮穴子と卵と寛平

＜お椀＞
●アオサのお吸い物

＜お酒＞
●手取川：純米大辛口、石川
●五凛：純米酒、石川
●黒龍の龍：大吟醸、福井
●手取川：純米、石川
●火いら寿：純米大吟醸、福井
●奥能登の白菊：純米吟醸、福井
●黒龍しずく：大吟醸
●満寿泉：純米大吟醸、ワインのオーク樽でフィニッシュ、ラム酒のような香り