もっと知られていい岐阜の優良割烹 : 心の味 のむら

たまたま日程の都合から、岐阜で夕食を食べる店を探していると、知人からこの店を紹介された。
比較的、岐阜市街の中心部に近く、それなりの老舗であるように感じられたが、平日の訪問では、カウンター席こそ賑わっているものの、個室や離れの部屋は全く使われておらず、ご主人も自嘲ぎみにその事を語っていた。
しかし、個人的な印象では、ここはカウンターメインの店なのであろう。カウンターの座席は安楽椅子に近いようなゆったりした造りで、ショーケースの上に見るも食欲をそそる旬の食材が煌びやかに並べられている。そして、そのような空間でのご主人や女将さんとの会話が非常に心地よい。その人当たり、客あしらいの妙、またアラカルト式での注文方法などから、店のタイプとしては広島のたこつぼを彷彿させるが、ここはそこまで超一流の高級食材が取り揃えられているとまでは言えず、あくまでも庶民的と呼べる程度の相応の価格帯で相応の優良食材を使いつつも、総じて調理レベルが高く、いわば素材を１２０％活かし切る料理を供しており、また、所々に唸らされるような独自の一工夫が凝らされている事にも感心させられる。
地元客がこの店を利用するスタイルとしては、ここでしっかり一食というよりは、どこかで軽く飲んで食べてきた客が、サッと訪れて、パッと目を引いた食材から２、３品頼み、１、２杯飲み、或いはおにぎりなどを持ち帰っていく、というような、まるでご主人の顔を見にちょっと立ち寄ったというような、ある種、岐阜の街の食の中継局とでも呼べそうな立ち位置にあるようである。
とはいえ、私は、夕食をほぼ丸々この店に委ねる（締めのラーメンのためにご飯ものは割愛したが）という利用法で、初訪問ながら、大変な満足感を得ることができた。
アラカルトで注文することができるメニューの多彩さ（と隅々まで透徹されている、客に美味いものを供したいという真心とそれに足る抜かりのない技術）もまた魅力の一つと言えようが、やはり私は所々に現れる「光る逸品」に何よりも心惹かれた。
今回、もっとも印象的であった一品は、オカラである。私は食に関してアレルギーの類は無論、好き嫌いなども全くない人間であるが、オカラに対するイメージはどうしてもパサパサした、味の抜けた（或いは味を付けていてもどうしても満足のいく食感にはならない）ものという固定観念をこれまで拭えずにいた。それを覆したのがこの店がさりげなく供したオカラであった。シットリ、或いはネットリと形容しても良さそうな、濃厚なコクをスッポンのエキスから出したという、この店のオカラは、食感、風味ともに申し分のない極めて優れた逸品であった。
たった一度の訪問でこのような「光る逸品」に出会えた事を考えると、季節を変え、頼む品を変えれば今後もこれと同等かそれを凌ぐ逸品に出会えるであろうことは想像に難くない。
それほどに、ポテンシャルを秘めた隠れた名店であると感じられた。
地元客に愛され既に営業スタイルとしては自足していると見ることもできようが、個人的にはここまで光るものを持ちながらあまり脚光を浴びずにいるこの店は、もっと知られていいのではと思い、ここにレビューを記した次第である。
今回いただいた個々の料理に関する詳細な説明は、もっとも印象的であり最後にお代わりをしたオカラを除き、基本的には写真を参照していただければ十分かと思う。

最後に、もしもこのレビューを読み、訪問を検討しようという人がいるのなら、大枠での嗜好・ポリシー等の面から２点、注意を述べておく。
まず、この店は全面喫煙可である。カウンターにも灰皿が置かれ、私が食事をする最中にも肩を並べる数人の客が喫煙をしていた。私は喫煙をしないまでも取り立てて嫌煙家という訳でもなく、さほど気にはならなかったが、禁煙の店以外には行かないという方は訪問を避けるべきである。
また、これまた私個人の嗜好からすれば、心地よい旅情を感じさせるBGMのようなものではあるのだが、この店の客層は基本的に地元の常連客であり、カウンターという密着した空間で繰り広げられる馴れ合いのような会話が、人によっては疎外感を覚えさせるかもしれない。私の印象としては、地元客贔屓とまでは感じられず、自然に会話に加わる事もできたのだが、この手の濃密な地元の人間同士の空気が醸成された店に不快感を覚えた事のある人は、念のため、訪問を控えた方が良いであろう。

以上を踏まえ、なお訪問してみようと思う方であるならば、是非とも一度訪問していただきたい。
私の、もっと知られていい岐阜の優良割烹との感想を共有できる事を願うばかりである。