一言で現せない : コモレビ

　母が「何か美味しいもの食べに連れてって～」とおねだりしてきた。歳をとると
どうも立場が逆転するようですね。仕方が無いのでたまには親孝行を…と思って
この店に白羽の矢を立てました。昨年、仕事仲間とランチに行ったことがあり、
とっても美味しかったのを思い出したのです。そのときのメイン料理は豚ソテー
のココナッツミルクカレーソース。エスニック要素を取り入れながらも流され
過ぎず、きっちりとしたフレンチに仕上がっていて「このシェフ…只者じゃな
いな」と驚きを感じたのでした。
　場所は南流山駅と流山セントラルパーク駅の中間くらい。周辺は絶賛開発中
でしばらく行かないと新しい道や建物ができていて土地勘がある私でも何が
何やらわからなくなってしまうような地域です。

ディナーコースは３５００円、５０００円、８０００円の３種類があった
ので真ん中の５０００円コースにしてみました。

アミューズ：ビシソワーズ
　コースの中でこれだけは塩気がややきつめでした。

前菜：キハダマグロのタルタル、サマートリュフ風味
　上に乗ったイタリア産トリュフはゴージャス感があって目を見張ります
が、香りは強くなくて噛んでいてやっと薫る…という具合でした。キハダ
マグロは脂乗りが少なくさっぱり系なので、もうちょっとたたいて粘りを
だしたほうがソースや他の具との絡みがよくなるんじゃないかなと思い
ます。キタアカリの細切り素揚げがパリパリで香ばしく、オイル感が
プラスされて良いサポートになってました。ソースはマスタードとバジル
の風味がふんわり香るレモンソース。香りも酸味も出しゃばりすぎず調和
がとれていて、このソースがマグロの素材の弱さを上手くカバーして
いたと思います。お皿の縁に並べられた色とりどりの野菜が美しく、一片
一片の味わいも濃くてただの飾りに留まっていません。

・ポワソン：モンサンミシェルのムール貝と鯛、イサキのポワレ
　おしゃべりに夢中で写真を撮り忘れたのが残念ですが、これも紫の
ごぼうや黄色いジャガイモなど目に鮮やかなカラフル野菜がたっぷり
盛り付けられていて美しかった。モンサンミッシェル産のムール貝は
７～８粒乗っていて、小ぶりですが身がぷっくり締まっていてクリー
ミー。一山食べたいくらいくらい美味しかった。皿の底にはコンソメ
スープがひたひたに入っていてムール貝から磯の、野菜からは大地の
エキスが溶け込んでいてスープだけスプーンで掬って飲んでも旨みは
十分。鯛とイサキがそのスープをたっぷり吸い取り、身がしっとり
ほぐほぐ～。

・ヴィヤンド：イノシシのロースト、ブルーベリーソース
　噛むとキシキシするくらい硬めですが、力強い旨みとコクが感じら
れました。特に脂肪の部分が豚よりコラーゲン質っぽくて重くなくて
美味しい。良い処理がされていたらしく臭みや癖があまり感じません
でした。歯が悪くて普段はあまり硬いものを食べがらない父も「こん
な美味いイノシシは初めて食べた！」と大感激していました。甘めの
ブルーベリーソースは果実感があり、華やぎが感じられて良かったです。

・デセール：桃のコンポート、ヴァニラアイス添え
　アイスはクリームもヴァニラも超濃厚。桃は甘く、よく熟したもので
蕩けるような口当たりでした。ゼリーは色から判断するとシャンパンが
ベースかな。ほんの少しミントが効かせてあって爽やかな香りがすぅ～っ
と抜けていい感じ。他が濃い口なのでそれを和らげていました。

　味付けや香りは穏やかですが、ぼんやりとした印象になっていないのが
素晴らしいと感じました。あまり脂肪分に頼っていない調理法なのも二重丸。
　後日、母がかねきの渡辺大将から聞いてきたのですが、この店の
伊藤シェフは以前はかねきでアルバイトしていたそうです。その後、フランス
アルザス地方のレストランで修行を積み、銀座の超高級店（聞いてきた母
が忘れてしまったのですが三文字で地下一階にある店だそうな。レカンのこと
かいな？）などで働いて地元の流山に帰ってきたということだそうな。言わ
れてみれば素材感を大切にして旨みを十分に引き出す調理法はちょっと和食
にも通じるような…。
　「木漏れ日」は日本独自の言葉で外国にはこれに相当する単語が無いそう
ですが、まさに日本人らしい繊細な表現は一言では言い現せないお料理だと
思いました。

※写真はランチ時に撮ったものもアップします。