あれだけ生い茂っていた窗邊の蔦は刈られてしまったけれど。 : ストリームヴァレー

都心への便の良さと、郊外の自然が適度に調和する、千葉県北西部の街、柏(かしわ)。
駅から30分も歩けば手賀沼のほとりに出ます。
蕎麦好きの間では知られる「竹やぶ」さんと同じ敷地に建つのが、周囲とは別世界の珈琲空間を提供する「ストリームヴァレー」さん。
久しぶりに、午後のひとときを過ごしてみます。

前回と同じ、カレーセット1,100円をお願いして。
ブレンドコーヒーは食前から丁寧に淹れてくれて、おかわり自由の嬉しいサービスです。

ごはん大盛りがサービスになる、カレーライス。
相変わらず、かなりスパイシーな本格派。
牛肉とえのきがたっぷり溶け込んでいます。
午後にずれ込んでの訪問なのに、丁寧に作ってくださいました。

食後にまたコーヒー。
ここのブレンドコーヒーは、渋みえぐみが出ないように焙煎したものを、じっくりドリップする。
マスターが湯灌の湯を少しずつ豆に落としていくのを眺めていると、こちらにまでいい香りが漂ってきまて、なんとも堪りません。

窓の外には休日ののどかな風景が広がるけれど、何か雰囲気が違うと思ったら、以前窗邊に茂っていた蔦の葉がそこにないのですね。
これがちょっと寂しい。

マスターに事情をお伺いしてみると、大家さん(竹やぶ)が、数年前に壁を補修して、その時に全部取り払って綺麗にしたのだと。
蔦があるときには、窓の開閉に蔦が邪魔にならないように曲げてみたりと注意が必要で、それはそれで大変だったそうです。

あらためて外に出て眺めてみると、昔の風物詩だった蔦が絡んだ壁から、そういえばさっぱり綺麗になって雰囲気は少し変わったけれど、店内は以前と比べてそのまんま。
マスターもそのまんま。
そしてコーヒーやカレーの美味しさもそのまんまでした。

周辺の住宅街とは鬱蒼と茂る竹やぶで離隔した、手賀沼(てがぬま)を望む一角。
丘の斜面を切り取るように建てられた建物は、打ちっ放しのコンクリート壁に蔦が絡んで、独特な雰囲気を醸し出しています。
個性的な造作が施された階段をゆっくり上がって行くと、「どうぞお入りください」の木札が。
懐かしき木製の桟が入った窓からは、風にそよぐ街路樹のシルエットとともに、穏やかな木漏れ日が射しています。

カウンターの中では、年配のマスターがゆっくりコーヒーを淹れています。
漂ってくる香ばしい香りと、ゆっくりと流れる時間。
明確に「大人向け」に設えられた空間ですね。
窓辺のテーブル席に腰かけてみると不思議に気持ちが落ち着いてきます。
ここは、本当に柏の喧騒も近い住宅街なのか、はたまた空想の中に迷い込んだか・・・・・

本来、強い拘りを持った本格コーヒーを楽しむお店である「ストリームヴァレー」さんが供する、お昼のサービスを頼んでみます。
ホットサンドウイッチセットとカレーセットが用意されていて、それぞれ1,000円。
とりあえず今回は「カレーセット」を頼んでみます。
えのきのカレーライス、サラダ、そしてレギュラーブレンドのコーヒーは、ポットで好きなだけ堪能して構わないのだと。

まずは、付け合わせのサラダから先に持ってきてくれます。
木鉢に盛られたレタスやキュウリに、キドニービーンズやざっくり削ぎ刻んだチーズがたっぷり。
チーズの香りが効いた手製のドレッシングは、酸味が穏やかでコクがあって、まろやか。
おまけのサラダのレベルとはちょっと違いますね。
ついつい、カレーが来る前に平らげてしまいます。

そして、肝心のえのきカレー。
ご飯が、意外にも結構たっぷり盛ってある。
ちなみにこのご飯、さらに大盛りも無料で対応してくれるのだと。
えのきばかりが目立つカレーなのかと思いきや、ちゃんと牛肉が入っています。
これなら、「えのき入りビーフカレー｣と書かないと・・・・・

こういうカフェにいかにも似つかわしい、上品なビーフカレーですね。
サラッとしたテイストですが、あと入れのジャガイモがアクセント。
ふんわり優しい甘さが、スパイシーなカレーに変化をもたせてくれます。

そして、カレーとともにやってきた、レギュラーブレンドのコーヒー。
カップとは別に、ポットにたっぷり淹れてあります。
「これでも足りなければ、どうぞお替わりをお申し付けください｣、と。

ここのコーヒーはどれも拘った豆を使って丁寧に焙煎するので、すっきりとした後味の旨さには定評がある。
ランチメニュー用のブレンドだからと、お店の眼鏡に適わないものなど出してくる筈もありません。
ひと口目を飲んだ瞬間、すっきりとした中にも鼻腔を擽る爽やかな香り。
それに、心地よく感じる微かな苦みがあって、これゆえに｢ミルクやシュガーに合います」との但し書きが添えられているわけですね。

メニューを見ると、実に趣味性の強そうなものまで、さまざまなコーヒーの品揃えがされていて、定番である｢スタンダードコーヒー｣でも、通常は680円で提供しています。
そう考えると、このランチのサービスは格段に敷居を低くしてくれているわけで、本当にありがたい限りです。

ほどなく持ってきてくれたのが、バナナにヨーグルトと生クリーム、ブルーベリージャムをあしらったデザート。
質の良い生クリームで、口直しのレベルを超えて、これでまたたっぷりコーヒーを楽しむことができます。

とにかく後味がすっきりとして旨いコーヒーで、砂糖やミルクを入れたり入れなかったり、何杯飲んでも飽きない。
それに、メニューブックにたっぷり記された、コーヒーの蘊蓄や淹れ方の指南、考え方云々が、読んでいてとにかく楽しい。
ご主人はきっと、コーヒーのわかる人に来てほしいと願っているに違いなくて、その点、我々では聊か役者に不足があったかと・・・・

追加で頼んだ「シフォンケーキ」(320円)。
代官山「パティスリー イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」（IL PLEUT SUR LA SEINE）のレシピに沿って作ったのだと。
口もとに近付けると、卵の香りがふんわりと。
これにも質の良い生クリームが添えられています。

なお、このストリームヴァレーさんのお店は、入口・出口兼用の玄関が２ヶ所、階段も２ルートあります。
それぞれとても凝った手作りの意匠が施されていて、行きと帰りで違う趣を楽しめますね。
南側の階段は、蕎麦屋「竹やぶ」の裏口と兼用になっています。