秘境の温泉宿で極上の休日を過ごす。 : 都わすれ

秋田県仙北市の温泉宿「都わすれ」露天風呂付き特別室に宿泊。
非日常を満喫するのにちょうどいい温泉宿。

もう4カ月も前の話で恐縮だが、今年4月の東北旅行の際に宿泊した温泉旅館について記す。

私とツレの二人は、旅館から差し向けられた送迎車の後部座席にいた。
ハイブリッドエンジン特有の無機質で妙な静けさを感じさせながらトヨタ・アルファードは
田舎の長閑な国道を滑るように走っている。
いささか長旅の疲れか、会話もしぼみがち。
私は、アイボリーの革シートにどっぷりと体を沈みこませ、外を眺めた。
何処までも続く田園風景。
天候は残念ながら良くない。
どんよりとした鉛色の雲が空一面を覆っている。
車は、国道を離れ地方道と分かる道へと乗り入れた。
良く手入れされた見事な杉に一瞬目を奪われる。
道路はやがて、アスファルト舗装がなくなり砂利道へと変わった。
こんな立派な車じゃなくて、そうジムニーがよく似合う道だ。
路面はひどくえぐり取られて出来た、でこぼこが続いている。
道路との境、崖にはガードレールさえないのだ。
道は、いよいよ林道の様相を呈してきた。
数え切れないほどの杉の木は、次第にブナの木へと変わり、やがて全てが
ブナの木に覆われた。
うっそうとしたブナの原生林だ。
山はどんどん深くなってきていた。
ふと気づいて携帯を確認するが、電波は圏外の表示だ。
ここまでただの一軒の民家も旅館すらない。
こんな山奥に本当に素晴らしい温泉宿があるのかと、心配し始める頃、
美しいエメラルドグリーンの水を湛えた湖が見えてきた。
「あちらです」
運転手が手で指し示してくれた先に、確かに建物が見える。
着いたようだ。

物音ひとつない、シーンと静まり返った山奥。
ブナの林の中に建つ平屋建ての旅館。
どちらかと言えば簡素な造りだ。
館内へ入ると、太い梁が目につく。
古民家風の作り。
ロビーラウンジに案内され、ウェルカムドリンクをいただきながらチェックイン。
ラウンジは、重厚感ではなくファンシーなのに苦笑。
仲居さんが荷物を持って部屋まで案内してくれた。

露天風呂付き特別室。
なお、テレビは衛星以外は受信しない。
携帯はauだとアンテナ1本、ソフトバンクは圏外、
ドコモはロビーラウンジのみ使えるとのことだ。
和室とベッドルームから成る2部屋タイプ。

障子を開けると、素晴らしい景色が広がっていた。
テラスの向こう、
太い桜の木、さらにその向こうにはエメラルドグリーンの水を湛えた湖。
はっとする景色に息を飲む。
桜のハイシーズンには、さぞや美しい景色が広がる事だろう。

そそくさと身支度して、早速どぼんと露天風呂に浸かる。
川のせせらぎ、静かにこんこんと湧き出でる温泉の音、遠くに聞こえる鳥のさえずり、
目をつぶり、静かに聞き耳を立てる。
ここには雑念を抱かせるような無粋な物は何もない。
大自然に囲まれ、山の息吹をたっぷりと感じ取る。
私は、手足を思いっきり伸ばす。
俗世を忘れ、煩悩を捨て去る瞬間だ。
「ああ、何と言う幸せ」思わず口に出る。
いつまでもこの美しい景色を眺めながら、この風呂に浸かっていたいと心の底から思う。
本当に来て良かった　!

こちらの温泉は、源泉かけ流し100％。
聞くところによると江戸時代から湯治場として親しまれて来たらしい。
しばらく前に廃業された温泉宿を現経営者の、当地では大変高名な女将が買収して
建て替え、ラグジュアリー路線に転換して成功を収めたようである。
海外からのゲストも多いと聞く。

露天風呂の他に、勿論大浴場と野趣溢れる共同露天風呂(時間制貸切)がある。

さて、お待ちかねの食事だ。
これは、食事処でいただく。
地元秋田の食材にこだわった会席料理だ。

詳しくは写真を参照されたい。

どれも素晴らしく美味しい。
東京の会席料理店と競っても負けることはないだろう。
美しい器や盛り付けも楽しませてくれる。
地酒を幾つかいただいた。
どんどん進む、当たり前か。
朝食も同じように料理処で。
この朝食は、今までたくさん食べてきた旅館の朝食で一番美味しいと感じた。
ハタハタを網焼きにした物や、たっぷりの新鮮な野菜サラダ、絶品の卵かけごはん。
などなど。
ああ、それから米のうまさと言ったら本当に素晴らしい。
味噌汁も文句なく美味しい。
フルーツは食べ放題だ

チェックアウト、スタッフの皆さんでお見送り。
JR角館駅まで送迎車で送ってもらう。
楽しい旅も終りだ。

角館周辺で宿をお探しなら、是非ここも候補に入れてみてほしい。
価格は高いが、十分それに見合った満足度を得る事が出来るだろう。
但し豪華さを求めたり至れり尽くせりを期待する人向けではない。
都会の喧騒を離れて自分を見つめ直すとか、静かな環境でリラックスするとか
そんな用途にぴったりの宿。
出来る事なら、お気に入りの本やDVDをたくさん持ち込んで長逗留したいものだ。


★JR角館駅から送迎車で約30分です。
携帯の電波状況は2013年4月中旬の状況です。