東北の地の食材を中心に使った江戸料理の流れを受け継ぐ日本料理 : 日本料理 たかむら

　一般に、日本料理の場合、｢京都を代表とする関西は薄味で、東京など関東は濃い味の料理を好む。｣というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。

　日本料理を極めたわけでもない私如き未熟者の分際で偉そうなことは言えないのですが、実際には、もしかしたら関西ではない土地からの訪問客の味覚にある程度合わせるためなのかは定かではないものの、京都でも必ずしも想像ほど薄味のお店ばかりではないように思われます。

　とは言え、｢関西＝薄味、関東＝関西よりも濃いめの味を好む。｣という一般的な図式は、ある程度当たっているのではないでしょうか。

　しかし、東北にお住まいの方々が気を悪くされたら本当に申し訳ないのですが、関東の東京に住んでいる私の感覚では、｢多量の雪が降る東北は、濃いめの味を好むはずの関東よりも、さらに濃いめの味を好み、日本料理店に行ってもそういう味付けのお料理ばかり。｣という印象を勝手に抱いておりました。

　今回は、そのイメージが覆されるのを期待して訪問しました。

　こちらのお店のお料理ジャンルは、日本料理の中の｢江戸料理｣。

　御主人の高村宏樹氏は、東京の目白の｢太古八（たこはち）｣ で長年江戸料理の修業を積まれ、１９９９年に故郷の秋田県秋田市でお店を開かれました。

　｢え、江戸料理？京料理なら知っているけれど、江戸料理は知らないなあ。名前からして江戸時代に江戸で食べられていた料理だと思うけれど、今でも食べられるお店なんてあるのかな。｣と思われた方も多いと思われます。

　お料理は、全国各地の地の食材や気候や食習慣など様々な要因で、独自の発展をしてきました。

　現在の東京２３区の一部であった江戸も、徳川家康の１５９０年の関東への転封、１６０３年の江戸幕府開府により驚異的な発展を遂げ、それと共にお料理も京都や大阪の｢上方料理｣とは異なる特徴を持った｢江戸料理｣が作られ食されるようになったわけです。
　
　ただ、明治維新による京都から東京への遷都後、かつて親しまれていた｢江戸料理｣も｢京料理｣などの｢上方料理｣に押され、段々すたれてきて、今ではその味を継承するのは大塚の｢なべ家｣などごくわずかなお店で味わえるのみです。

　現在の東京って、京都や滋賀などで修業された料理人のお店が人気店になっていますから、｢江戸料理｣の名が親しみがないのも理解できます。

　その今では貴重になった｢江戸料理｣の技を継承するのがこちらのお店なのです。

　江戸料理と京料理などの上方の料理との決定的な違い何か御主人に単刀直入に尋ねたところ、江戸料理は①出汁を鰹節（一番出汁のみ）でとり昆布を使わないこと、②味付けに濃口醤油を使うこと、この２点において京料理とは異なるとのことでした。

　高村氏のお料理は、上記の江戸料理の特徴を守りながら、時には洋の食材を織り交ぜ現代的な要素も研究されたお料理を提供されます。

　今回いただいたのは、夜の１万円のコースです。

　お料理の味については、結論から先に言うと、こちらのお店の方やお店を愛されておられる方々には本当に申し訳ないのですが、今回の訪問に限っては、ハートを鷲掴みされるに至ったお料理には残念ながら出会えなかったというのが本音です。
　
　ただ、しっかりとした調理技術をお持ちですし、これはきっと｢江戸料理｣の奥深さや素晴らしさの何たるかがまるでわかっていない私の未熟さゆえのことだと思うので、私などよりも日本料理に精通された方ならそのお料理の美味しさに魅了されるのかもしれません。

　誰しも資金には限りがあり、様々な苦労を経て稼いだ貴重なお金を滅多やたらと使うわけにはいきません。

　そして、貴重なお金を無駄に使わない、例えて言えば、｢地雷を踏んで爆死｣しないためのためのナビの役割の一端を担うのがこの｢食べログ｣の本質に他なりません。

　でも、私は本やネットで事前に調査し情報を得ておくことが資金を無駄にしたり不快な思いをしないために大切なのは十分に理解しているつもりですが、結局お料理は最後は自分で実際に食べて五感で感じて初めて理解できる性質のものです。

　そういう意味では、お料理って、｢百聞は一見に如かず。論より証拠｣です。

　飛行機のパイロットだって、フライトシミュレーターで１００回訓練したって完璧に飛べるわけなどなく、予想外の事態が発生する実際のフライトを行ってみた初めて理解できることも多く、はるかに有益なはずです。

　お料理だって、実際に食べてみなければ本当の味わいがわからないという点では、飛行機のフライトと同じではないかと思います。

　よって、日本料理がお好きで江戸料理に興味をひかれた方は、私のレビューは参考程度にとどめ、秋田県秋田市まで直接を足を伸ばされ、皆様の五感で直接味わい、判断されるのがよろしいかと存じます(^_^)

　私も機会があれば再訪し、改めてこちらのお店のお料理をいただいてみたいと思います。

　
　さて、今回は以下のようなお料理をいただきました。

　こちらの中で私が最も印象に残っているのは椀物。

　多くの日本料理のお店では、鮪節などを使うお店もあるものの、基本的には鰹節と昆布で出汁をとるはずです。

　これに対し、江戸料理の出汁は、鰹節。昆布を使いません。

　ただ、私が鰹と昆布の出汁に慣れているせいか、今回は、どうにもお椀を飲んでも、脳裏を襲ってくる津波のような迫力やキレが感じられませんでした。

　また、風干しした鮎の焼物についても、味のインパクトが薄く感じました。

　でも、秋田県産のぎばさ（アカモクという海藻）を練り込んだ麺（おそらく高村氏が開発された｢たかむら麺｣と同じものではないかと思われます。間違っていたらすみません。）は、独特の歯触りで、なかなか美味しかったです(^_^)

　また、京都の薄味に慣れている現在の味覚が形成された今でも、濃口醤油の味わいは、懐かしさを感じ気分がホッと和らぐ気がします♪

　私が経験値をさらに上積みし、未熟さをもう少し克服できたら、次回の訪問の機会の際に、江戸料理の素晴らしさをもう少し理解できるかもしれないので、お店の方は気を悪くされないでくださいね。

　なお、高村氏のお料理にかける情熱と真摯な姿勢には、頭が下がる思いですし、これだけの品数と要所に高級食材を使っている点を考慮すると、ＣＰは悪く無いと思います。

　また、こちらのお店は、エクステリア（外装）もインテリア（内装）もとっても素敵で、高揚感が沸きますし。

　そして、高村氏の奥様と思われる女性の接客が大変心地良く、気持ち良くお食事ができると思います。


【２０１５年（平成２７年）７月のある夜のコース（１万円）】


（八寸）｢昆布締めした鱚（きす）の握り鮨、枝豆、フォアグラをのせた卵、ばい貝など｣

（先附）｢毛蟹の身、ずいき｣

（椀物）｢車海老、鱧そうめん、冬瓜、万願寺唐辛子、蓴菜（じゅんさい）の椀｣

（向附）｢鱸（すずき）、紋甲烏賊（もんごういか）、エゾイシガケガイ（石垣貝）のお造り｣

（鉢肴）｢徳島県産一夜風干しした鮎の焼物（確認していませんが、吉田川のものと思われます）｣

（強肴）｢吉野葛を使った牛肉の煮物｣

（止め肴）｢生牡蠣のジュレがけ｣

（揚物）｢三陸産馬糞雲丹（ばふんうに）の春巻｣

（食事）｢ぎばさ（アカモクと言う海藻）を練り込んだ麺（おそらく高村氏が開発された｢たかむら麺｣ではないかと思います。）、つけ汁（鰹出汁、すっぽんの出汁、鮑の出汁）｣

（甘味）｢メロンのムース｣

（日本酒）｢山本ドキドキ純米吟醸（１,０００円）｣