うなぎ店に「総合力」という言葉があるなら名古屋のこの名店こそがふさわしい : 大和田

３月の連休前の名古屋出張初日の夜。

今回の出張はコロナ騒動の時節柄（特に名古屋は早い時期に２件のクラスター感染があった）、
対外的な会食は基本的にはしない事にしていた。

そんな状況下、個人的にはどんな高級料理よりも美味しいものが揃っていると思う「名古屋めし」を存分に楽しもう・・・と思ったのだが、名古屋のスタッフから「『ひつまぶし』に行きませんか？」と言われた私はその言葉で久しく来ていなかったこの名古屋が誇るべき「うなぎの名店」の事を思い出し、混雑を避けるために開店時を狙って訪れた。

実はこの店は、大阪勤務時代に「直焼きうなぎ」に出会ったことでそれまでは特には何とも思わなかった「うなぎ」にハマった関東出身の私が、名古屋勤務時代にそれまで食べたどこよりも美味しいと思った店。

皮の程よいサクサク加減。
肉厚でありながら度が過ぎないために火通りが抜群の身。
濃過ぎず「うなぎ」本来の味がしっかり味わえるさっぱりとしたタレ。
たぶんに好みもあるかもしれないが、名古屋近辺の評判店をひと通り廻った今でも私はこの店が最も好きだ。

ちなみに、この店はこれまでマスコミの取材を一切受けず、
夏の土用の丑の日はその品質維持のために敢えて休業するというこだわりの店。
あまり知られていないかもしれないが、予約を取らない店ながらいつも混みあっている（行列のために断念することも多い）。

この日、少し早めに着いた私たちは、行列がない事を確認して店の前の駐車場で車内で待機していた。

やがて開店時刻になると店の人が出て来て、
誰も居ないにもかかわらず店の左右と正面に向かって深々と一礼を繰りかえした。
私はこの段階で既に心を鷲掴みにされていたかもしれない。

すると、駐車場に待機していた他の客もゾロゾロと動き出したので私たちも店に向かった。

ドライバーのスタッフ以外は「肝焼き」と「う巻き」でビールを飲みながら主役の登場を待つ。
ちなみにここは「肝焼き」の艶々しさとプックリ加減が凄くて、この事からもこの店の腕と質の良いうなぎを使っている事が推察される。

しばらくすると「うな重（上）」が到着。
相変わらずビッシリと入ったうなぎが美しい。
今回食べて気付いたことは皮の程よいサクサク加減と身の火通り。おそらく火加減に強弱をつけてじっくり焼き上げるが故にパリパリすぎる皮にはならず、均一な焼き加減の身になるのだろうと思った。

この頃になると、店の１階部分が小上がりを含めほぼ埋まってきた。
帰り際にお店の人が言っていた。

「やはり、昨今はこれでもお客さんが少ないですよ」

確かにまだ奥や２階は空いているようだが、この時期にこれだけの客入りというのは地元の人に支持されている証拠でしょうね。

「いつも東京から来るのですが、予約は受けてないのですよね？」

よそ者故、名古屋に来た時にコンスタントにこの店を訪れたいと思った私はダメもとで尋ねてみた。
すると、開店時に無人の店の周囲に挨拶をしていた件（くだん）の男性（この人が主人？）が、

「すみません・・・でも10名以上なら・・・」と言いかけた。

「10名かあ？」と残念そうにつぶやくと、

「10名じゃなくても相談してください」と小声でささやいてくれた。

事情次第では受けてくれそうな雰囲気でした（内緒にしておいてくださいね！）。

有名店に比べると断然安くて質の良い美味しい「うなぎ」と、庭を愛でる事の出来る趣ある店内だけでなく、その愚直な営業方針と垢抜けてはいないが素晴らしいホスピタリティ精神があるこの店。

私はこのいぶし銀のような名店が益々好きになったのだった。

名古屋の熱田神宮。
ここで「うなぎ」と聞けば多くの人は別のお店を想像するだろう。
でも、ここにはマスコミに登場せず、また土用の丑の日は品質維持のために休業するという知る人ぞ知る名店が存在する。

熱田神宮のすぐ北、昔は目印だった映画館はなくなったけど、比較的わかりやすい場所にその名店はある。
外から見ると一見普通の店構えながら、中に入るととても広く、きれいに手入れされた中庭が趣を加えている。

ここ「大和田」のうなぎは、皮はカリッと身はふっくらと香ばしく焼かれていてとてもおいしい。
脂の乗り方から、関西や名古屋に多い直焼きまたは蒸し時間が短いのだろうということはよくわかる。
私は関西人ではないが、うなぎはよく蒸してある関東風のものよりもこちらのほうが味が濃くて好きだ。

この店はとにかく焼き方が丁寧だ。
それはタレの乗り方を見てもわかる。
決して濃すぎないまろやかなタレながら身に絡みつき、他の店とは香ばしさが違う。

私はここに来たら、「長焼」や「うな重」なら「上または特上」を、「ひつまぶし」なら「並」を頼む。
薬味やお茶とともに食す「ひつまぶし」、質・量ともに充実しているここのうなぎなら「並」でも十分にその良さを感じられるからだ。

実は、名古屋名物の「ひつまぶし」は大きく３種類に分かれる。

お茶漬けの際に、「ひつまぶし」の発祥といわれる「いば昇」のように「お茶」をかけるもの、有名な「蓬莱軒」のように「だし汁」をかけるもの、「しら河」のように「お茶」と「だし汁」をミックスしたもので食べるものといった具合だ。

ここの「ひつまぶし」は「だし汁」ではなく「お茶」で食べる。
私はこの形が最も好きだ。
元々旨味をたっぷり含んだうなぎにわざわざ昆布の旨味を加える必要なないと思っている。
特にこの店のうなぎなら「だし汁」は全く必要ない。

ちなみに、ここのうなぎがいかに良いものを使っていて、いかにタレがおいしいかは、この店の隠れた逸品「肝焼き」を食べるとよくわかるだろう。
それに、この店はボリュームがあってしかも近隣の超有名店に比べるとはるかに安い。


名古屋在住の時は、よく「長焼」や「うな重」を食べていたが、最近は懐かしさからか「ひつまぶし」食べることが多い。

それでも思うことは、「『ひつまぶし』を食べるなら、やはり『長焼』や『うな重』が旨い店で食べるに限る」ということだ。