追加　若い頃　先代にはよく怒られた！ : 伊勢藤

創業は1937年。従ってすでに80年が経過している。太平洋戦争が勃発する前からの営業とは。まさに老舗の中の老舗飲み屋。その路地裏と石畳を背景に。今でいう古民家よりも。さらに古風な建物と外観。この情緒は神楽坂の中でも傑出。

東京最古参の居酒屋は。山城屋（1897年）、次いでみますや（1905年）と言われている。ほかに秋田屋、鍵屋、ふくべなど。思い浮かぶが。この1937年もかなり古い。そのただ者ならぬ、まさに風貌。一見を冷たく拒絶するがのごとく。

その歴史を感じる縄のれんをくぐる。そして障子の引き戸を開ける。もちろん店内は照明を落としている。なにか1世紀も昔にタイムスリップしたような。囲炉裏のカウンター席とあがりの座敷。この店では静かに飲むのが流儀。それは厳しい先代と変わらない。

実際には敷居は低いのだ。もくもくと飲めば良いだけ。酒は白鷹の燗酒。それを囲炉裏暖めてから小さな徳利で。酒の肴は一汁四菜。小さな器に季節の小品が登場。燗酒を追加していく。すると料理がすこしずつ追加される。黙って飲めば良い。

一汁と塩辛、漬物などの四菜。経木のようなお品書きには。えいひれ、かわはぎ、とうふ、丸干しなど季節ごとの。手間をかけた肴類が。刺身など生ものはない。リラックスして飲みたいなら。仲間と上がりの座敷で飲めば良い。落着いて飲める。

タコわさ、アボガドの和え物、枝豆など。手間をかけた、日本酒によく合う料理なのがうれしい。

神楽坂の賑わい。まるで新橋並みの。これだけ多くの人々が何を求めてやって来るのだろうか。その魅力は街の風情。新橋、渋谷、池袋などが絶対にかなわない。歴史、古民家、情緒、人情、創造などがうまく溶け込んでいる。かっての料亭の黒塀の街が和とフレンチ、さらにニューウエーブが融合するホットスポットへと進化している。

その神楽坂の和の魅力を代表する1つがこの伊勢藤。敷居の高さでは有名だが、店の流儀を覚えればなんともない。要は、カウンターに座りただ任せっきりにして。黙って飲んで食べればよい。飲み物は熱燗、肴は決まりの4種。追加はメニュウーから。決して騒いだり、大声を発してはいけない。ひたすら黙々と。
それがこの店の魅力を楽しむ唯一の方法。本物の酒場通になれる。

ちくわ、煮凝り、豆とほうれん草
えいひれ、丸干し

＊今回の写真は最初の5枚

2012.10.21
思い出がたくさん詰まっている伊勢藤。社会人1年目に神楽坂に住み、大手町の会社に通った。当時は料亭の黒塀ばかりで気軽に飲める店なんて飯田橋まで行ったものだ。伊勢藤があっても頑固親爺がいて気楽に飲める雰囲気ではない。少しでも騒ぐと出て行け！と怒られる。居酒屋でありながら大変な緊張感。大人の世界はなぜこんなに窮屈なのかと感じた、今の若い方々には絶対に理解できないだろう。

しかし、その頑固の影に優しさも感じるので客は怒られながら押し寄せる。頑固な先代、普通は寡黙。何も無ければ店の中は静寂に包まれる。静かに飲んで、さっと帰る粋な店だった。今回は美女4人を引き連れて座敷部屋に。地味で、質素で、渋い肴で熱燗を飲む。皆さん、初めての体験にやや興奮気味。そうだろう。鍵屋、兵六、伊勢藤と頑固親爺で有名な店。その中で今もある程度の緊張感を保っているのはこちらくらいか。

スルメイカの味噌あえ、小松菜と干し海老のお浸し、タコ山葵、味噌汁

＊今回の写真は最初の5枚です

2009.3.31
かって神楽坂の料亭が軒を連ねたあたりもしばらく来ない間に新感覚の和食店などが誕生して街の景観までもが変貌しているのは寂しい限りです。

毘沙門天から道を隔てて趣のある石畳に面しています。何時訪れても情感漂う伊勢藤。 私が神楽坂に住んでいた頃からこの雰囲気は変わりません。当時はこの辺りは黒塀ばかりで、この店も厳しい先代と常連とで若い私には敷居が高く感じられました。

今回は知人2名との訪問ですがやはり何度訪問してもこの店の風景には感嘆します。何十年も時が停止しているような錯覚を覚え、本当に気持ちが癒されます。

お通しはシラスと高菜、菜の花と蟹の和え物、タコ山葵、蕗味噌ネギ、鶏肉
追加でエイヒレ、豆腐（温）、丸干し、明太子、カワハギ、イカ黒酢を。

知人達としこたま酒を飲んで声が少し大きくなってご主人から注意されました。

でも、本当にすばらしい「飲み屋」です。

＊最初の20枚が今回の写真です。

2007.6.27
神楽坂の毘沙門から道路を隔てた反対側には石畳の路地が奥へと続き料亭や有名料理屋などが点在しています。

中でもこの伊勢藤のある路地、そして更に料亭が建ち並ぶ奥へと通ずる細い道が今なお昔日の面影を残して風情を漂わせています。よき日の神楽坂を懐かしむ貴重なエリアとなっているのです。

この店は骨格のしっかりとした古民家特有の店構えと奥行きからまるで一見の客を寄せ付けない孤高とも思える凛とした佇まいを感じさせます。

実は私は社会人になってから暫くこの近くに住んでおりまして昔の神楽坂を覚えていますが、この店は当時まだ若造だった私には頻繁には訪問出来ませんでした。先代の主人が怖かったのです。いやこの店独特の大人の世界が近寄りがたかったのかも知れません。

常連でもきちんと流儀を学んでからご主人に名前を覚えてもらいます。さらにはこの店での楽しみ方を理解しないとこの店で酒を飲む事がまったく無意味になってしまいます。（初めて電話をすると前に来た事があるかについて聞かれます）

それを理解出来なかった客がぶつぶつと不満を言い合いながら店を出る姿をよく目撃したことがあります。

お通しは一汁三菜、四菜とも言うべき小皿の塩辛、漬物、海鼠酢、　それに味噌汁。酒は白鷹のみで最初は常温、次は黙っていてもぬる燗になります。

経木のようなお品書きにはえいひれ、かわはぎ、とうふ、丸干し、くさやなどなど11品が書かれていてお通しが終わったら適当に2～3品お願いする事になります。お造りのような生ものはありません。今回はえいひれと丸干しを頂きました。

今回はNY時代からの友人と私の神楽坂センチメンタル・ジャーニーを兼ねて訪問しました。早い時間であれば予約可能ですが時間はもちろん厳守です。

この店では敷居はないのですが、昔は何故か敷居を感じてしまいました。入り口が古風ながら立派なので威圧感を覚えるのです。縄のれんも風格さえ漂うのですから。

右横の入り口から入るとL字型のカウンターがあって奥に通されます。すでに2代目ながらすっかり板についた主人が仕事に集中しており店内では緊張感すら感じるくらいピーンと糸が張られているようです。

反対側の座敷の、この店には似つかわしくない風体の男性が携帯電話で話し出して早速注意されました。先代だったら間違いなく睨み付けられたでしょう。

なお席は最初はカウンターがお奨めです。主人がお燗をつける様子を眺めながらお酒を飲むのが通と言われています。カウンターの内側には囲炉裏があってその横には燗の出来る穴が空いていて主人が絶えず調整しています。

銚子が空いたら敷ものから前にずらしておくのが合図です。

2回目からは奥の座敷がお薦めでしょう。風情格別の趣ですっかり落ち着いてこの伊勢藤を楽しめます。