凡庸の中に光る物あり！ : 寿し処 寿々

【28.9追記】
本日は秋刀魚が白眉。脂の乗り様が軽く酢で〆ることによる化学変化で生では見せない別の側面を見せて客を魅了させてくれる。シャリ味付けは相変わらず大人しいが、炊き加減が最高で硬すぎず柔らか過ぎずだがややパッツリと張りが有る。握りの仕上げも２〜３手で握りの姿よりも味を重視した本道の鮨。握りの姿に拘泥する若手鮨職人は寿々に来て藤居さんの握りを観て食べて勉強してもらいたいね。

台風で下に埋もれていた貝類が出てきて漁で獲れたこの時期珍しい鳥貝を。香りは柔らかいが肉厚で身の旨味を感じる。あとビックリしたのが穴子。今回のやつは今までとは別物で、しっとりとした身質と柔らかさからシャリと渾然一体となって解けていく美味しい握りだった。やはり今時期の穴子は神ってるーー！

蝦蛄は昨年よりも更に良くなく店で使えるレベルのものはごく僅かだったとか。１度親方が太鼓判を押した茹で上げ蝦蛄を食べたいものだ。

【握り】
鰈、大間産鮪赤身、金目鯛、いくら、鳥貝、車海老、大間産鮪中トロ、秋刀魚、小鰭新子２枚付、穴子、玉子、鉄火巻
【追加】
鰹
【汁、デザート】
蜆味噌汁
マスカット(種無)


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【27.11.18追記】
10月訪問時の記録。夜に初訪問。握りのおまかせをお願いする。正直昼のおきまりの時の強烈なインパクトと比較すれば夜は弱い。それでもネタ質はこだわりがある分味に反映されているし良質なため、他店と比べてもCPは良いと言えよう。

◉この日のおまかせ
鯛、墨烏賊、鰤(北海道)、鮪赤身(大間)、細魚、金目鯛(銚子) 、鰹 、赤貝、鯖(宮城沖)、中トロ(大間)、車海老、蝦夷馬糞海胆(厚岸) 、真鯵(東町、出水の対岸)、穴子２(塩とツメ)、玉子、干瓢巻き、蜆味噌汁

◉気になったネタについて
金目鯛はこの日河岸の人も唸ってたという逸品。脂の乗りや身の質感等申し分無い味わい深い一貫。
鰹は安定していないそうで、昨日は置いて無かったとのこと。正直な話、８月に戴いた鰹の腹身が超美味しかっただけに落差が甚だしい。
赤貝はまだまだ香りが薄いがやっと使えるレベルにと。始めの香りとファーストコンタクトは中々鮮烈であったが伸びが無い。競馬でいういきなり飛び出して先頭をひた走るが徐々にジリ貧になっていく感じ。しかし最下位転落まではいかずに中盤集団の中でのフィニッシュ。
馬糞海胆は道東の方へシフト。この日は厚岸のもの。そろそろ昆布森産も出て来る予定ですと。

兎に角今年は貝類が良くなく品が少ないという。普段は使わないツブも仕入れたと水松貝もあまり良く無いのでまだ仕入れていない。平貝も満足出来る質では無いという。貝類が揃ってくるあたりにまた昼にでも再訪しようと思う。
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こちらの鮨屋は様々なレビュワーや知り合いに見聞きしたところ、上手くまとまっているが特筆すべき物がない、凡庸だ等々様々言われているが、自分視点で確かめてみたくなり昼利用した。おそらくご主人だろうが電話対応は基本的にぶっきらぼう。丁寧さは無いが失礼というほどでもない。しかし現在の飲食店の電話対応の良さからすると悪く見られるかもしれない。店は溜池山王駅近く過ぎて店を通り過ごしてしまった。

注文は迷ったが、本日蝦蛄は無いとのことで百合(5,000円)をお願いした。始めに茶碗蒸しが出た後、ガリが置かれて握りが始まる。

この日のおきまり

星鰈(宮城)、鮪赤身(大間)、金目鯛、いくら、鰹(気仙沼)、中トロ(大間)、車海老、秋刀魚、小鰭新子1枚(江戸前)、紫海胆、新烏賊(墨烏賊新子)、穴子、玉子、鉄火巻き
◉追加
鰯(釧路)、小鰭新子3枚(佐賀)、鰹

酢飯は酢や塩が突出した物では無く円やかな酢加減。粒は立っており口中での解け具合は特に問題無い。最近の鮨BOYSは赤酢を使って鋭角にシャリを立たせたり異様に硬めに炊き上げたりと良い意味でも悪い意味でも超個性的であるが、ここのは『おいおい、そんなに尖るなよ。』と言わんがばかりのもの。
例えばとかみやしみづの赤酢が強いシャリは北斗晶でそれなりに一級品のネタの佐々木健介を叩いたり蹴り上げたりなじったりしてピンより更に個性を引き立たせる。それは２人の共同作業で成せる業。ここのシャリはそこそこ出来る旦那を影になり日なたになり支え続ける良妻賢母な妻。決して表立って出しゃばら無いが、妻がいないと旦那も本領発揮出来なかったりする。ひょっとすると不発な時もあろうが、基本的には旦那のサポートに徹する。ここの鮨は後者である(例えの夫婦が見当たらないのは御容赦の程)。

鮨種だってランチのおきまりとは思えない質の良さとダイナミックな切身で正直驚いた。本日頂いたおきまりと同等、それ以下の店などいくらでもある。そんな中、凡庸で特筆すべき物無しと本当の鮨好きには言われてしまっている(？)中でも、強い光を放っていたネタ達を紹介しよう。

◉星鰈は宮城のもので、イノシン酸の強い旨味がグイグイと襲い掛かってくる。そろそろ平目(ソゲ)も出るが旨味成分が弱いため、鰈も同時に置く時もあり完全切り替えは難しい時期となるとご主人の藤居さん。てっきり定番の真子鰈かと思っていたので思わず『おきまりでこれ出して良いの？』と言ってしまった程旨味の濃い白身であった。
◉紫海胆は明礬漬けの箱物ではなく塩水のもの。おきまりで無添加明礬無しの塩水海胆が頂けるなど思ってもみなかった。粒もしっかりしており濃厚でクリーミー。当たり前だが薬臭さは微塵も無い。
◉本日のおきまりナンバー１は鰹。
鰹は気仙沼産。赤身の酸味の旨さと腹身の濃厚な深みのある脂の旨さが融合して酢飯との相性も良かった。最後に思わずお代わりをお願いした程今シーズン最高の物。先日青空で頂いた鰹が今年最高であったがタメを張る位に旨味成分が強く其々の部位の旨さの棲み分けが素晴らしかった。口中で其々が一つとなったときの玄妙なる味は得も言われぬ幸せである。
◉小鰭新子はおきまりでは江戸前の1枚付けとなっていた。後におかわりで佐賀の3枚付けを頂く。江戸前は丸付けサイズで身のコクと脂の味わいが特徴。佐賀は皮の柔らかさと身の軽やかな食感を楽しむ。味わいは浅いが皮の柔らかくてつるんとした食感は堪らないねぇ。両方とも立て塩ではなく直接身に塩を当てて締めており、酢にサッと潜らせたものとのこと。もちろん１枚の方が３枚より塩をしておく時間は少し長め。酢潜りも同様である。双方とも美味し！
◉鮪は大間で赤身の酸味が仄かに香り、中トロも良き脂を携えてきた。切りつけはやや大振りでしっかりと味わえるサイズ。これから脂の乗った秋刀魚を食べるので更に脂は濃厚になってくるとのこと。嬉しいねぇ。

◉追加で鰯を注文。本日最高の一貫！
鰯は小骨が全く当たらず、脂の旨味が軽く酢〆されたことによって鋭角に現れていた。この鮨、鮨種にこそここのご主人の心、店の気構えや凄みが垣間見えた気がした。
大羽だが決して高級魚ではない鰯にもの凄い手間を掛け、一本一本小骨を毛抜きで丁寧に抜き、切り付け方にも細心の注意を払い、絶対に小骨をお客様に当てさせないという強い気持ちが如実に現れた一貫であった。また、軽く塩と酢締めが施されており、生で有りながら加工品のような、まるで最高級のバターや生クリームのような後味が感じ取られてとても幸福な気分にさせてくれた。おきまりの秋刀魚は脂がギリギリそのままで握れる状態であったと言い、これ以上脂が乗ってきたら酢〆が必要になってくるとのこと。

残念なのはこの日の穴子は脂が抜けており、身のしっとり感も感じられなかった。ツメも今ひとつ。煮物好きの私としては残念無念。
しかし青物、〆物は全て一切生臭は皆無で美味かったため、光る所有りと見た！
最後に味噌汁椀が出た後の巻物は干瓢かと思いきや、何と柵から切り出した鮪赤身の鉄火巻。本当、こんな事して大丈夫？と思う程ネタの味も良質。これで追加"サーン！"貫を頂いて税込7,000円で結構お釣りが来たんやで(世界のナベアツって今どこにいるんだろ。とんと見なくなったな…)。驚異のコストパフォーマンスではないか。"サーン"貫とも他店にいけば決して安くは無い内容の握りである。逆に安過ぎて自分の中の計算とは合わない逆現象が起こるという嬉しい一幕。今までの飲食店のランチでおきまりやコースの中では間違い無く一番満足出来て高品質である内容であった。

始めご主人の感じや対応がぶっきらぼうで気難しいタイプの人かと思っていたが、鰹のあまりの美味さで色々と質問していたら段々と打ち解けて色々な話をして頂けた。決して自分から話し掛けてくるタイプの親方では無いが、鮨の事、魚の事でわからないことが有ったらドンドン聞いてみるのが良いし、楽しい店である。墨烏賊新子の話でも、下足をおまけでお裾分け頂いた。『鮨屋のおやつです』と茶目っ気たっぷり。下足は身には無い大人の雰囲気(旨味)を纏っていた。蝦蛄のことを確認したところ河岸でも行きつけの蝦蛄屋を全て回っても今シーズンは本当に良い型の物の入荷が少ないという。一番質の良くて好きな能登産はまだ２回しか入荷してこないとのこと。今シーズンはもう入荷は無いかもしれないと。次回は是非茹で上げの蝦蛄を頂戴しに参上したい。