パリ的で日本的な名店。 : エーグルドゥース

珍しく目白駅の西口側に用事があったので、その後の休憩を兼ねて
評価の高いこちらのお店を訪れてみました。

店舗の外観は、パリの路面店風。
通りの反対側から見たときには正直「しゃらくさい」と思ったのですが、
実際に入ってみると、けっこう良い雰囲気です。
販売スペースは広く、カウンター周りの什器の使い方なども含めて
ちゃんとパリのパティスリーっぽい。
「ああ、この店は本気なんだ」ということに気付くわけです。

イートイン希望であることを店員さんに告げ、
ケースの中のケーキ類をとりあえずザーッと見てみます。
ああ、どれもけっこう美味しそう。たたずまいが良いです。

連れと「小さめだから二人で4つはいけるね」と合意し、
今度はじっくりと品定めをします。

　　こういうときって慎重に選んでいるようで、実はほとんど
　 「あ、これ食べたい!」という直感で決めているものですが。

お会計が済んだ頃にはイートインスペースの席が空いたようで、
ほとんど待つことなく席に着くことができました。

以下、ケーキ4種類の感想です。

　　プディング・オー・ラムレザン
　　かなりラム酒が効いたモチモチのプディング。
　　上に乗っている生クリームとのバランスも絶妙です。

　　フォレノワール・ア・ラ・ピスターシュ
　　下半分のフォレノワール部分の濃厚さ、甘酸っぱさと、
　　上部のピスターシュクリームのコントラストが素晴らしい。

　　カスレット
　　表面はブリュレのようにパリパリ、中はプルプルグズグズのカスタード、
　　なめらかで濃厚な美味しさの中にバナナの風味も。

　　シャルロット・オー・フランボワーズ
　　こちらも外側のカスタード系のクリームが美味しい!
　　しっかり酸味のあるフランボワーズとうまく調和しています。

　　飲みものはアイスティー（アールグレイ）と、アイスコーヒーを選択。
　　こちらもしっかりした味でした。


いやー、期待していた以上に美味しいケーキです。

300〜400円台という価格ですが、かなり密度感のあるハイレベルな美味しさ!

カスタードの甘さとコク、果実類の香りや酸味などをしっかり感じさせつつ、
けっこうあっさりと食べられて、しかも満足感が高い。
サイズの小ささが良い方向に作用していると思います。

また、ホイップクリーム類が不思議な美味しさです。
口当たりはフワッと軽いものの、けっして軽いだけではなくて、
口に含んでから飲み込むまでに「最後のひとコク」が広がるような味わいなんですね。


食べながら思ったのは、このパティシエは「若手」ではないだろうな、ということ。
それなりに古い時代に基礎を学んだ人なのではないかという気がしたのでした。
洋酒の香りの効かせ方や、生地のしっかりした質感など、
クラシカルな洋菓子を知っている世代のように感じられたのです。
例えていうならオーボンヴュータンみたいな感覚っていうか。

調べてみたら、シェフパティシエの寺井さんは1965年1月生まれなんですね。
高校を卒業して調理師学校に入ったとすると、1983年の春。
となると、その時点の講師はたぶん70年代かそれ以前に技を身につけた人たち
ということになるので、やっぱり基礎はけっこう古いのかもしれません。

もちろん、こちらのケーキが古くさい感覚ということではないんです。
本場フランスで修行して、その後日本の第一線で活躍を続ける中で技を磨き続けて…
といった、シェフの経歴をそのまま反映したような積層的な味だと感じます。

小手先の薄っぺらい味ではなくて、クラシカルな良さと、
現代的な軽さ、華やかさ、楽しさが見事に調和していると言ってもいいでしょう。

こういう感覚のケーキを、意外と今まで食べたことがなかったかもしれなくて、
食べ終わる頃にはかなりハッピーな気分になっていました。


そんなわけで、イートインスペースを出てから、再び商品を見て、
いくつか持ち帰り用に購入しました。

焼菓子（ケーク）等もやっぱり美味しいですね。
多少日持ちのする小さな焼菓子類は、他店でも似たような商品がありがちで、
しかし、どこの店でもそれほど違いがなかったりするのですが、
こちらのは生地のしっとりもっちりした食感や、香りの立たせ方など、
ケーキ同様にレベルの高さを感じます。

特筆すべきはムラング・フランセーズ!
要するにメレンゲですが、これがちょっと感動するくらい美味しい。
原材料名には「砂糖、卵」としか書いてないのに、どうしてこんなに美味しいのだろう!?

いや、冷静な書き方をすると、砂糖と卵白を混ぜたものを焼くだけで、
これだけ美味しい菓子を作れる実力と感覚の持ち主ということですね。
フランスで修行して「砂糖の甘さとコク」の使いこなし方を身に付けた人でないと
作ることのできない味だと思いました。


たぶんこの店のケーキや焼菓子は、どれを選んでもハズレがないはず。
ぜひ再訪して、いろいろ食べてみたいですね。
ムラングを買うためだけでも訪れる価値アリ、とさえ感じています。