『⑤山種美術館:照明の秘密』コロコロさんの日記

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日記詳細

今回行われたブロガー内覧会で、
私にとって一番、印象深ったのは、
会場に山種美術館を設計した日本設計の山下博満さんと、
照明を担当されたStudio REGALOの尾崎文雄さんが参加をされていて、
美術館の照明についてのいろいろを伺えたことでした。

今回、内覧会に参加するにあたって、私の中にいくつか見学ポイントがあり、
ライティングを見てくるということが、サブ目的になっていました。

  ⇒①若冲生誕300年記念:「ゆかいな若冲・めでたい大観」 山種美術館 (2016/01/12) 


まさか設計された方、照明を担当された当事者が会場にいらしていて
その方のお話を直接伺えるとは、思ってもいませんでした。
願ってもないチャンスです。



■建築段階から考えられていた照明
まず美術館を設計された山下さんのお話。

この美術館の照明は、極力、見えないように作られているのだそう。
「天井を見て下さい・・・・」といわれて一同、見上げると・・・

そこには、一直線に伸びる白と黒のツートンカラーの天井が広がっていました。
(青字の部分をクリックすると拡大写真が見えます)

   ⇒【①】天井の照明

黒い部分が、くりぬかれていて、そこにランプが仕込まれていました。

   ⇒【②】埋め込まれたライト



そのため、天井からライトが飛び出ているということがありません。
黒のくり抜かれた溝に押し込まれたライトは、その存在が消えています。

さらに心憎いところが、こちらの美術館が日本画の美術館ということで、
幅の広い白い部分は、掛け軸や巻物をイメージしているそうです。



■モネ展で見たライト
昨年12月に、東京都美術館のモネ展で、
光のあて方ということに着目するようになっていました。
照明が絵に対してどの方向からあてられているのか。
ライトの位置を気にしながら見ていた直後だったので、
照明の設置状態の違いが歴然とわかりました。

   ⇒【②】種類の違う光源
      黒いレーンには、2つの強い光源があり、
      これは、作品の解説プレートにあてられていました。
      小さなライトは、作品にあてられていた照明です。

      それぞれに違う光源が使われていました。

 
このような細やかに照明が、見えないように設計の段階から、
綿密な照明計画を立て設計された理想的な美術館。
良き出会いがあったのだろうと想像されます。

そして、そんなハードを生かした、展示ケースや、ガラスケースの
照明を担当された、尾崎さんのお話も興味深かったです。



■照明の妙
美術館には、壁面に設置された展示ケースと、
フロアに置かれたガラスケースがあります。

最初に、柴田是真の「墨林筆哥」 が展示された、
フロアのガラスケースについて解説されました。

この作品は、他の作品と比べて異彩を放っていました。
独特の艶感と、色彩を持った作品で、
他とは異質のものが感じられ、なんだろう・・・と思っていました。

「漆」で着色されていることがわかりました。
どうりで、何か違う発色をしている・・・・

そのケースの照明は「電球がケースの枠に仕込まれています」とのこと・・・

やっぱり・・・・  それ、知ってます! 
と思わず言いそうになってしまいました(笑)


ここからかなり話題がはずれますのであしからず
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宝飾品ライティング
宝飾品のショーケースで使われているライティングと同じ構造です。

ダイヤモンドなど、光を反射させる石は、
「こんなにきれいでしょ~」とペンライトをあてて、
煌々に輝かせてよりよく見せるという方法が行われます。
ショーケースの中でも、スポットライトを加えて、別の光をあてて
より綺麗に見えるような照明の工夫がされています。

ところが・・・・・

スポットのライトがないのに、とても輝いていて見えたことがありました。
その石は、もともと質のよい原石が選ばれているブランドなのですが、
それだけではないと思われる輝きを放っていました。

そのショーケースは、スポットライトがないだけでなく、
全体の光がどこから当てられているのか、光源がみあたらないのです。
どうなっているのだろう・・・・と思っていたら、
ケース上部の縁に見えないようにLEDランプが仕込まれていたのでした。
目線を少し下げると、その光を見ることができました。


美術館の展示ケースの枠に見えないように・・・と言われた時、
これと同じ方法がとられているのだとピンときました。

このライティングトリック(?)を、美術館の展示ケースで
撮影してみようと試みたのですが、美術館の展示用のライトは、
とても小さく、ほのかな弱い光だったため、
カメラに収めることができませんでした。
また、ガラスケースのため、ガラス面の反射もあって、
撮影しても、よくわかりませんでした。



ライティング技術の応用
このライティング手法は、最近、生活の中の至るところで目にします。
デパ地下のショーケースでも使われています。

グラマシーニューヨークでは店舗のデザインやケーキ、
照明などトータルデザインをデザイナーがプロデュースしており、
ケーキのショーケースのライティングはそれはそれは見事なものです。

   ⇒グラマシーニューヨークの行列について思ったこと

上記の冒頭に書いていますが、ケーキのデザインは光に映えるよう
材料も計算しつくされています。
キラキラ光に輝くジュレをあしらったり、
つやつやのコーティングされたチョコレートでおおわれ、
さらに、デコラティブな目をひく斬新なデザインが
強い光の中で照らし出され、それはそれはおいしそうに輝いています。

しかし・・・・
ショーケースで当てられている光は、見えないのです。
ちょっと視線をずらすと、その光は目に入ってきます。
しかし、光さえもデザイン化されて馴染んでいるので、
照明をあてているように、
感じさせない工夫までされていたのです。

また、同じ系列のお店、「オードリー」というイチゴ菓子のお店も
全く同じスタイルの照明使われ、お菓子が輝いています。
しかし、照明は基本見えません。

アーチ状にカーブしたガラスを使っていて斬新さがあり、
ケースの横から見ると、そのアーチのフレームに、
デザインされた照明が仕込まれています。
しかしそれはケースのデザインの一部となって
女性が好むキラキラ状態で、その計算しつくされた
演出におみそれしてしましたという感じになりました。

よりおいしそうに見えるようなキラキラとした光源が使われ、
デザイン化され販売に「光」が大きくかかわっていることを
感じさせられたショーケースでした。

これらの会社の母体となる本社「プレジール」の方針のようなもを、
下記の中半、■系列店のところで紹介しています。

  ⇒グラマシーニューヨークチーズケーキを散策してみて   (2015/08/25)

これらのデザインは本社の名古屋発ではなく
「N.Y在住のクリエイター集団が、レシピから店舗デザインまでトータルプロデュース
していたものだと知って納得しました。

これからの時代は、美味しいだけでは売れない。
人の心理的な効果も取り込んで、デザイン、店舗設計、光などを
駆使していく時代に突入?
逆においしいと感じなくても(私にとってですが)
トータルプロデュースいかんで、ものは売れてしまう。
分かっていても買ってしまう。
私自身も、包装のおしゃれさや話題性で、手土産利用するなど、
場面に応じて利用してしまうのでした。


これまで、販売において光というものについて、
いろいろ思うことがあって見てきたのですが。
それらは共通してより強く当てるという傾向にありました。

しかし、今回美術展示においては、作品保護という面が多分にはありますが
主張しすぎない光
、あえて柔らかく影からほのに照らされている
ことが対象的でした。

いずれの場合も、「光をあてている」ということを意識させない
工夫をいろいろな形で実現しており、
光は私たちの視覚に大きな影響を与えていることを感じさせられました。
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というわけで、これまで、店舗のショーケースの枠に
光を仕込んでいることは気づいていたので、
壁面の展示ガラスケースの底部の光も、見れば
すぐにわかるだろう・・・・と思っていました。


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【追記】2015.1.27 
>LEDの光による物質感が強調されて感じる件  by尾崎文雄氏
>LEDの光そのものの影響なのか、光の拡散のさせ方によるものか
>はっきりと分かりません。

>LEDが作品の物質感を強調すること。
>わかりやすい例を挙げるなら、作品固定のテグスが以前より目立つ
>絵画の絵の具や絹の繊維が目立ってくるということです。

  ⇒新しい光の評価について考える


LEDランプが使われている商品はきれに見える。
それはもともとの「光源が持つ特性」なんだと思っていました。

それと、照明を当てる「物質が持つ特性」・・・
光の「拡散」というよりは、「反射」ととらえていました。

その理由がわかりました・・・・
私が見ていたアイテムがダイヤモンドとケーキーのジュレやチョコの光沢。
乱反射というよりは、フラットな面にあてた光の反射。
光の特性を引き出すには、商品も光をストレートに反射しやすいものを選ぶことで、
光源の特性をより効果的に生かしているのだと思っていました。

それに対して、日本画やモネの筆跡への光は、乱反射=拡散と捉えてました。
ところが、LEDランプは、物質感が強調されるのだそう。
だから、ソーヤブルの石は、よりきれいに見え、
テカテカした素材を使ったケーキはより、つやつや、キラキラに
見えていたのだと・・・・


【参考】2016.11.26
橋本コレクション 指輪 神々の時代から現代まで ― 時を超える輝き(国立西洋美術館)
vol.618 この色と輝きを引き出す光は(【日日の光察】 アーカイブ)より


話はずれますが、「光」つながりで思い出したこと。
お肌をきれいに見せるのも、化粧品のパウダー、粒子を使って光反射を利用。
その下地は、フラット面をつくり乱反射を防ぐわけですが・・・

さらに、おどろいたのは、その光は、肌内部にまで進み、
皮膚の基底膜で反射しているのだそう。
その光の反射が多ければ、肌は輝く・・・・

この基底膜のハリがなくなりフラットになると光の反射が弱く・・・・
そのために、コラーゲンや、セラミドを・・・なんて説明している
ブランドがあり、肌の光も内部反射まで語られるようになったんだ・・・・
と感心してしまったのですが。
ところで、基底膜は、ウェイブがあった方がいいというのは、
どういう理由なのかが、今一つ理由がわからないのでした。
乱反射してしまうのでは? と思ってしまうのですが・・・ (笑)


そして、肌が乾燥してくるとシワシワになります。
そこに水分補給をすると、ハリのあるお肌に・・・・
しかし、それは、肌が水分を吸収したからというのもありますが、
肌表面が水分で濡れたことによって、光を反射しツヤツヤに見せている。
また、凹凸のあう肌面に、水分で肌表面をフラットにして、
凹凸による影がなくなったり、光を均等に反射するという効果も・・・

お風呂の鏡のウロコ。水で濡らして掃除をすると、
一見きれいになったように見えます。
しかし・・・・ 乾くとまたウロコが出てきてしまいます。
それは、水で膜ができて、凹凸をフラットにし、ウロコが消えているだけ。
乾けば、凹凸が出てきて、光が当たられば乱反射して浮き上がる。
肌に水分を補給すると綺麗に見える理由は、これと同じ原理が一部に・・・

女性はこうやってごまかされて(?)化粧品を買わされているということ? (笑)
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■壁面のガラスケースの底面のライティング
どう見ても、ライトが見えないのです。 ⇒【⑤】 ライトはなし
ライトをこのような設置状況で、どう仕込んでいるのでしょうか?

すぐにわかると思ったのですが、わかりませんでした。
その秘密をお聞きしたので、次の日記でご紹介します。



■壁面ガラスケースの上面
そしてガラスケースの上を見ると・・・・・

   ⇒【④】 若冲 《群鶏図》 上部からの光


こんな感じでライトが仕込まれていたのですね。

鑑賞者がフロアで天井のライトが眼に入らないように・・・という配慮は、
据え置き型のガラスケースでも同様に生かされていていました。

こちらも詳細は、次の日記にて・・・・



■日本初、世界初の照明技術がここに!
美術館の照明にちょうど興味を持ったということもあり、
山種美術館の照明は、美術館においては、どういう位置づけなんだろう・・・
って思ったら、そのあたりの資料(?)が出てきました。

詳しくは、山種美術館 | LIGHTING STYLE Vol.5 | パナソニック照明設計 にあります。

新たに博物館を作るにあたり、山種美術館の照明については、
館長をはじめ、設計、証明デザイナー、そして、
メーカーも一丸となって取り組んできた様子が、上記のサイトから伺えます。
メーカーが博物館と同じ環境をととのえ、そこで繰り返しデータをとりながら
実証を重ねた上で、選定されたそうです。



パナソニック 美術館・博物館担当照明デザイナーのお話
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当社の実験室に実寸大モックアップを作りました。また展示作品の複製品を入れて検討。照明の実験だけでなく、実際の操作性やランプなどのメンテナンスのしやすさ、寸法、ケースの壁紙、ガラス、仕上色などすべての実験をやったという形です。一度実験すると必ず課題が出てくる、その検証に実験をまた重ねる繰り返しで、社内検討も含めれば10回以上行っています。
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■相思相愛の施設
以前、公共の美術館で聞いた話ですが、建築家はコンペで選ばれ、
コンセプトは華々しいけども、実際の作品管理などとてもしにくい構造で、
お客さんの動線も、全く考えられていない。
運営が大変・・・・と聞いたことがありました。

ベストマッチで作られた美術館というのはあるのか、と伺ったときに、
なかなか難しいと聞いていました。
しかし、私設美術館だからこそできることがあるようです。

館長さんは、全国の美術館を歩き、
そこで、これだ! と思った美術館の建築家にお願いしようと思ったそうです。

  ⇒日本画の魅力と山種美術館~ビジネスパーソンのアートの愉しみ方

上記の動画の中で(7:30 あたり)語られていましたが、
岩手県立美術館に心惹かれその設計者にラブコールを送ったそう。

コンセプトが「今、還る場所」という、日本の原点回帰と、
一度、来館された方に帰ってきてもらう、
そして、以前のファンにも帰ってきていただくという
意味のテーマのもと、建築が主張せす、日本画を活かすという
ことでお願いされたそうです。


明確なビジョンを持ってそのこだわりを実現できる建築家さんや、
照明デザイナー、メーカーさんとタッグを組むと、
このようなことが実現できるのだなと思いました。


建物が主張せず、作品の邪魔をしない
山種美術館は、作品の魅力だけでなく、館長さんの思いや、
それを共有する人たちが一体となった美術館・・・・
そんなところも注目してみると、楽しみも深まりそうです。



写真の作品は
○柴田是真 《墨林筆哥》1877ー88(明治10ー21年) 山種美術館蔵
○伊藤若冲 《群鶏図》 1795年 (寛政7)    
○横山大観 《竹》   1918年 (大正7年)   山種美術館蔵
撮影掲載は許可済み



■ブロガー内覧会 「ゆかいな若冲・めでたい大観」レポート 
若冲生誕300年記念:「ゆかいな若冲・めでたい大観」山種美術館 (2016/01/12) 
「めでたい大観」が描いた「竹」の屏風・・・・竹林に迷い混む (2016/01/14) 
めでたい大観:「竹」 屏風という特徴が生かされた構図の妙 (2016/01/15) 
ゆかいな若冲:「群鶏図」・・・左右の印象が違う? 踏ん張るニワトリ?   (2016/01/16)
山種美術館:照明の秘密 (2016/01/17) ←ここ
山種美術館:照明の秘密 からのつながり (2016/01/19) ←次
山種美術館:ブロガー内覧会で学んだ美術館見学のポイント (2016/01/20) 
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