懐古三題（その弐）・・・【しゃぶ亭 千里中央本店】 : 千里しゃぶ亭 本店

大阪の北部に「千里中央」という結構なターミナルがある。

北大阪急行･千里中央駅があって､ここから乗れば江坂から大阪市営地下鉄御堂筋線に乗り入れていて、

新大阪、梅田、淀屋橋、本町、心斎橋、難波、ハルカスのある天王寺から堺市まで繋がってしまう。

他に大阪モノレール･千里中央駅もあって西は伊丹空港、東は門真市まで繋がる。このモノレールは世界最長である。

1970年の大阪万博に合わせて開発され、同年には千里阪急百貨店、大丸ピーコック、千里阪急ホテルなどが開業。

1972年には「セルシー」というＳＣが開業し、他にも有名な会社の本社や支店も進出して来て活況を呈している。

通称「せんちゅう｣。千里ニュータウンや豊中市における最大のターミナルであり、ショッピングセンターなのである。

斯く申す私も出張の時などよく利用しているし、買い物にも時々は行く場所だ。


10月の或る日のこと、昼飯を喰っていないままやって来た「せんちゅう」。

久しぶりにウロウロ歩いて、セルシーの地下へも侵入してみた。一体何年振りであろうか？？

ウチのガキを連れてゴジラだかドラえもんだかを観に「セルシーシアター」に来て以来に違いない。

その「セルシーシアター」は今年の８月に閉館してたりして、少々寂しい気持ちで歩いていたことだった。

知っている店もほとんどなくなってるなぁ～、とか思っていた処で見つけたのが今回ご紹介するこの店だった。

カウンターに穴を開け､そこに銅製の一人用鍋を嵌めて炊く。「一人しゃぶしゃぶ」のパイオニアがこの店なのだ。

「しゃぶてい」と読ませるのは他の店。この店は「しゃぶちん」と読ませる。あまりに懐かしくて立ち竦んでしまったわい。

なにしろ38年前私ウキワ星人が18歳の頃、今でいえばキムタクの18歳の頃と思ってもらえばイイが、その超カッコよかった時、

生まれて初めて「しゃぶしゃぶ」なるものを喰ったのがこの店だったのである。「ちゃんとまだ在るがな！！」

もう午後２時を過ぎているのに７～８人客が居る。円形のカウンターの奥へ隣席と詰めて座って呉れと誘導される。

鍋が固定されているので詰めて座らないと席にロスが出るからだ。この時間になってもそれは徹底しているようだ。

男性スタッフが２人、パート？のおばちゃんが３人で忙しそうにしている。「何になさいますかぁ～？？」

「お姉さんとりあえず瓶ビール＠540円くれる？」「はーい！どうぞぉ～！何になさいますか～？？」

ランチタイム真っ最中でもないのにせわしないなぁ～！急いでミックス定食1000円(税込)を注文。

目の前に鍋がセットされ、そして笊に盛られた野菜を置きながら「ごまだれとポン酢はどちらがイイですかぁ～？」と聞かれた。

内心「両方寄越せよ！」と思ったが小心者なもんで「ごまだれ下さい」とお願いした。

後で聞いたところによると、夜メニューでは「ごまだれ」も「ポン酢」も黙って両方とも出すらしい。

牛ロースと豚ロースのミックスで肉が出て来た。グラム数を聞こうと思っていたが余りにもペラペラなので聞く気を失くした。

箸袋に「ゴマたれにはネギ･ニンニク･豆板醤が、ポンズにはネギ･ニンニク･一味唐がらしがおすすめです」と書いてある。

しかし残念ながらニンニクは人に会う前だし胸焼け起こすし避ける。豆板醤はキツ過ぎる気がする。ネギを多い目に入れよう。


そう言えば38年前初めて来たときはニンニク思いっ切り入れた記憶があるなぁ～。

７～８歳年上のバイト先で知り合った大好きなお姉さまに連れられてやって来たんだった。

要領が分からないからそのお姉さまのやる事を見ていたらニンニクをドバドバ入れているではないか！

「一人だけニンニク食べたら一緒に居て臭くてしょうがないで！キスもでけへんよ！」と言われて舞い上がってしまって、

阿呆みたいにニンニクを入れた思い出がよみがえった。ネギもこれでもか！というほど入れたっけなぁ～。

その日はリーバイスのスリムタイプのＧパンだったので段々突っ張って来てしまってモゾモゾと困り果てた記憶が鮮明だ。

とにかく生まれて初めて喰った「しゃぶしゃぶ」が､「ごまだれ」が､美味くて！美味くて！感激したなぁ～。

それから38年だ。歳を喰って好みが変わったか、生意気に口が肥えたのか「ごまだれ」がゼンゼン美味くない。

やはりおすすめ通りにニンニクとか入れないとイカンのか？豆板醤を入れないとイカンのか？

もちろん味の好みは人それぞれである。この「ごまだれ」が好きな方も居られるに違いないので文句を言う気はない。

ましてやこの味を守って今年で創業42年になられると言うのだからトヤカク言うては失礼であろう。

しかし私にとってはどうにも後味がシツコクてイカンので100円払って「ポン酢」を貰って豚ロース＠450円を追加した。

これでスッキリと喰えるようになった。ヤレヤレだ。二本目のビールを飲み干して御飯を貰う。

ポン酢に浸したペラペラの豚肉を先ず御飯の上にチョンチョンと二度ほどバウンドさせて口に放り込む。

豚の脂と旨味が混ざったポン酢が飯に「シュン」で行って、少しあとからこの飯だけを喰うとまた美味いのである。

〆にはラーメンが付いていて、器にラーメン用の味付けが用意されて鍋の中の出汁を入れてスープにする。

この時のコツは麺が湯掻き上がる前にスープを作ってしまうのではなく、湯掻き上がる寸前にスープを作るべしである。

柔らかめに炊いて喰った。少々しょっぱい｡｡｡｡確か昔はラーメンじゃなくて饂飩だったなぁ～。

腹一杯になった。もう３時を過ぎたのに新規の客が入って来る。なんと４時までランチタイムなのである。

夜に来たら肉はもう少し厚みが増すのかなぁ？「ごまだれ」はこのままなのかなぁ？とか思っていた。

そう言えば昔来たのは夜だったなぁ。

結局憧れていただけで指一本でさえ触れることも出来なかったあのお姉さま。それからの交流は先細りになったなぁ。

そして私が大学を卒業し､就職して東京に居た時にあのお姉さまが亡くなったとの知らせがあったのだった。

死因は肺炎。今で言う「違法危険薬物」の過剰摂取による免疫力の低下が大きく影響したそうだ。

お陰で生前交友関係があったと言うので当局に尋問されて参ったものだった。

だからであろう、あれから「シャブシャブ」は喰う気がしなかったのだ。


愛想の良いおばちゃんに「ごちそうさん！」と言ったら店の全員で「ありがとーございましたー！」と来た。

レジでこれまた愛想の良いおばちゃんに2630円払って店を出る。

昔､むかしに入ったことのある店が今でも健在で頑張っておられて、そこでまた懐かしく食事を楽しめてしまう。

嬉しいのは嬉しいのだけれど、私も歳を取ってしまったもんである。