畳屋町筋の美味魚 : うろこ屋

2015/11
魚料理とお酒 およそ¥4,500/人


♪まる たけ えびす に おし おいけ
あね さん ろっかく たこ にしき
し あや ぶっ たか まつ まん ごじょう♪

京都にはこんな親しみのある「通り名唄」がある。この唄を知っていれば地方から来た人に、京都のことを少し知った風に案内ができる。
だけど大阪にはこんな唄はない。(と思う) 京都と同じように碁盤の目のように通りと筋が交差するが、最近は通り名で呼ばれることがすっかり無くなってしまった。

「今日のお店は清水通りと畳屋町筋の交差点にある〝うろこ屋〟やから、そこで19時に。」
と言っても多くの人はこう言うだろう。
「そこって、一体どこやのん？」
通り名ではよくわからないかもしれないが、実は「うろこ屋」は心斎橋のど真ん中にある。
今は通り名で呼ばなくても、LINEでお店のURLを送ればそれで済む。スマホで地図を開いて、長堀通りから数えて南へ４番目の通り、心斎橋筋のひとつ東の筋と覚えればよいわけである。
僕はトモヒロにその方法で声をかけた。

スマホは僕らの情報伝達の在り方を変え、早く便利にしてくれた。しかしその反面、昔から続く文化を寸断する危険性も孕んでいる。

大阪で東西に繋がる道は「通り」、南北に繋がる道は「筋」と言われている。(あながちその通りにならないこともある) 因みに大阪ミナミの東西に繋がる道は誰もが知ってる長堀通りから南に向かって、こんな通り名だ。

長堀通り、鰻谷北通り、鰻谷南通り、大宝寺通り、清水通り、周防町筋、八幡筋、三津寺筋、宗右衛門町通り

東西の通りにも「筋」と名のつくものもある。通り名で呼ぶことを僕は情緒であり、商都の文化でもあると思うのだが、手のひらに地図が現れる時代にはもうそれも消え去るのだろうか？
周防町筋に至っては近年「ヨーロッパ通り」と呼ばれるようになり、その歴史を無視した表面だけの装飾には少し閉口する。

さて、僕とトモヒロは車と人が溢れる繁華街の清水通り畳屋町筋の交差点にやって来た。「うろこ屋」はその交差点角の商業ビルにある。
エレベーターを３階で降りると、右手すぐに紫色の無地の暖簾が掛かる。店内に入ると、想像していたより広いお店だ。左手に20席くらいの座敷があり、奥は右手がカウンター席、左手にはテーブル席が６脚並ぶ。
どうやら僕らは一番客のようだ。僕とトモヒロはゆっくりと話ができそうなカウンター席のいちばん端っこを陣取った。
「久しぶりやな。」
トモヒロが言う。
「うん、前に会った時は暑かったよな。」
ここのところお互い時間が取れないこともあって、随分間が開いてしまった。
「いい感じの店や。それにお酒の種類がすごく多いね。」
トモヒロは僕と同様に日本酒でも焼酎でもいけるタイプなので、沢山の銘柄があれば上機嫌だ。壁には「祝４周年」と書かれた祝い熨斗が多数貼られているので、開業５年目ということなのだろう。店内は整然として、５年目とは思えないくらい綺麗だ。
僕らは生ビールで乾杯して、メニューを眺めた。

今日注文したご馳走は次の通り。
・名物造り盛合せ ¥500×2
・いたや貝酢味噌 ¥420
・牡蠣天ぷら ¥680
・焼下仁田ねぎ ¥420
・特製魚〜ざ ¥370
・海老スイートチリソース ¥680
・おでんトマト ¥250
・塩煎ぎんなん ¥420
なんとリーズナブルなことか。
造りの盛合せは、スズキ、真鯵、いら、マトウ鯛、クログチ、つばすの６種類。多分食べたことのない「いら」とか「クログチ」とかも含め全体的に活きがいい。
いたや貝は青森産のホタテ貝の仲間だ。酢味噌であっさりと戴ける。
「魚〜ざ」は肉の代わりに魚のすり身を使い、揚げギョーザにしものだ。珍しく美味しいが、これは酒の肴ではなくビールのあてだろう。
おでんトマトは茹でたトマトにおでん出汁をかけ、粗挽胡椒を振りかけたもの。トマトの酸味と出汁、胡椒が予想外にマッチする。これは家でも簡単に作れそうなので、おでんのお供にいいかもしれない。

「トモヒロ、なかなか美味しいな。」
「うん、酒がいくらでも飲めるやん。」
単品のボリュームは、それぞれがそんなに多くないので様々な肴を愉しめる。コストパフォーマンスもかなりのものだ。
いつの間にか客は増えて、座敷では団体さんの宴会が始まったようだ。テーブル席もカウンター席も満席になった。安くて美味しいものが食べられれば、ビルの３階という不利な立地でも客は集まってくる。

そして今日のお酒はこちら。
・生ビール
・日本酒 浦霞(宮城)
・日本酒 真澄(長野)
・日本酒 刈穂(秋田)
・麦焼酎 兼八(大分)
・ハイボール
「ハイ、今日も酔いました。」

「忘年会、いつやろうか？」
相当飲んだはずなのに、トモヒロは顔色変えずに言ってくる。
「うん、12月になってからがいいな。今度は肉を食べようか。俺、美味しい肉を出す店知ってるし。」
「よし、決まりやね。」

長く付き合う友とは自然体で会えるけど、お互いに新しい情報も持ってくる。議論を交わすこともあれば、馬鹿な話もまた趣に変わる。
今日も美味しい酒だった。

秋の夜の 友と酌み交う 清き酒

僕らはすっかり酔っ払って畳屋町筋に降りた。

ごちそうさん‼️