桜舞う夜に : 守破離 谷町四丁目店

2016/04
お蕎麦とお酒とアラカルト 約¥5,000/人


「トモちゃんが働いているんだったら、一度行かないとね。」
うどん友達のなっちゃんとそんな話をしたお店は、地下鉄谷町線谷町４丁目駅近くにある「守破離」というお蕎麦屋さんだ。トモちゃんは高校２年生、このお店でアルバイトをしている。
「そのお店って、お酒置いてるの？」
「置いてますよ、日本酒も焼酎も。」
「そりゃあいいね。」
東京だと蕎麦居酒屋は当たり前にあるが、大阪では稀少価値がある。
それに、なっちゃんは日本酒が好きなので「日本酒、飲みに行こうね。」と言いながら、随分長い間ブチしてきたのでちょうど良い。
「トモちゃん、元気にやってるやろか？」
「ええ、大分慣れて元気でやってるみたいですよ。」

そんなわけで、なっちゃんと僕は「守破離」へ、今年seventeenのトモちゃんの偵察に、いやエールを送りにやって来た。

お店に入ると落ち着いた感じで、和を基調としながらも、照明やフラワーアレンジメント、BGM等で洋を取り入れて洒落た空間に仕立てている。
入り口右手前に製麺室、その並びで奥まで厨房を設けてある。店舗中央には８人掛けの大きなテーブル(というより対面カウンターと言った方が良いかもしれない)を置き、その両サイドに４〜６人掛けのテーブルを幾つか配する。そして奥の壁を楕円に刳りぬき、その中には座敷があるようだ。
対面カウンターに案内された僕らは、厨房の入口の処に立つトモちゃんに目で挨拶をした。ホール担当の女性スタッフだけでもトモちゃんとスタッフAさんとBさんの３人がいるようだ。

スタッフAさんが小黒板に書かれた「本日のおすすめ」を持って来た。どれも美味しそうなメニューだ。この中から、
■若竹とホタルイカのからし酢みそ
■生桜えびのかきあげ
そしてスタンダードメニューの中から、
■鴨ロース
■うらごし おから
を注文した。
メニューの数と内容からすると、単に蕎麦居酒屋という言葉で表すべきではない構成だ。ビールを飲みながらお互いの近況を話していると、料理が次々と運ばれてきた。
よく蕎麦居酒屋でありがちの「蕎麦がメインで肴はついで」というお店ではなさそうだ。どの料理も心を込めて調理されていて、このお店の目指すところが見えてくる。ここがお蕎麦屋さんであることを忘れてしまいそうになるほど美味しい一品ばかりだ。

暫くするとトモちゃんがやって来た。
「久しぶりやね、トモちゃん。また会えて良かったよ。」
と言うとseventeenらしく、少しはにかんだ。
「頑張ってるんやね。」
と言うと、
「ハイ。」
と言って、頬の少し下にえくぼを作った。
「店長が “ だし巻き ” をサービスでと言っていますが、食べられますか？」
なかなか気持ちのよい接客だ。
「はい、頂きます。」
ありがたい話だ。蕎麦屋の出汁で作っただし巻きは、美味しいに決まっている。それにも増して嬉しいのは、トモちゃんが高校生ながらも、社会の一端を担う経験を重ねていることだ。

「黒龍(福井)」「亀鈴(広島)」「八海山(新潟)」、そのあとはよく覚えていないが、なっちゃんとの約束通り美味しい日本酒をたくさん飲んだと思う。
「トモちゃん、結構お腹いっぱいになったので、あっさり系のお蕎麦で締めたいんやけど、おすすめは？」
「ざるそばか辛味そばがいいと思います。」
彼女が咄嗟に応えられるのは、この手の客が多いからだろう。
「辛味って何？」
「辛味大根のことです。」
これはなっちゃんが応えた。
僕はうどんのことなら何でも分かるが、蕎麦のことは無知だ。
「じゃあ、十割の辛味そばで。」
このお店はスタンダードが二八蕎麦で、¥150プラスすれば十割蕎麦に変更できる。

なっちゃんがすりおろす山葵を見ながら暫し待つと、スタッフBさんが出来上がった蕎麦を運んで来た。
「今日のお蕎麦は鹿児島県の志布志産のものを使っています。」
「えっ、いつも志布志産なんですか？」
「いえ、産地はよく変えていますよ。」
どうやら年毎の収穫量や質により原材料を厳選し、まめに変えているようだ。ということは、それに伴って蕎麦の味も変わるということだろうか？
しかも蕎麦の実を挽くところから、お店でやるというから、そのこだわりは一流の証だろう。屋号を「守破離」としたのも何だか頷ける。

蕎麦の香りを愉しみ、最初はつゆに付けずに頂く。蕎麦の香りが豊かに口内に広がり、思ったよりしっかりした麺質で歯を押し返してくる。十割蕎麦のボソボソ感はない。
そして薬味を入れずに、つゆだけを少し付けて頂く。鰹と昆布の風味が蕎麦を包み、頭の中でホワンと音がする。ちょうど地下鉄長堀鶴見緑地線のあの発車音のような音だ。
そして辛味大根、山葵、葱の薬味を入れ啜ると、それはパーフェクトな蕎麦シンフォニーだ。

トモちゃんによるとNHK連続テレビ小説「あさが来た」の収録の時、出演者の風吹ジュンさんと友近さんも、このお店に訪れたという。それだけ美味しいお蕎麦のお店ということだろう。
ところで、波瑠ちゃんはどこに行っていたのだろう？
最後にデザートのアイスクリームまで、サービスで頂いて、僕らは「守破離」を堪能した。
サービス頂いたものを差し引いても、抜群に満足度の高いお店だと思う。
トモちゃん、ありがとう！
そして、なっちゃんよく飲んだよね。

帰途、電車を降りると心地よい春風に桜の花びらが舞っていた。こんど桜に会えるのは１年後だけれど、「守破離」には近いうちにまた来てみようと思った。

ごちそうさん‼️