ただ料理とだけ向き合う／未在 : 未在

言わずとしれた京都を、いや日本を代表する懐石の名店。

八坂神社を抜けた先、円山公園の敷地の中にそのお店はあります。店のすぐ脇までタクシーで行くこともできますが、その風情を存分に楽しむために、よほどの悪天候ではない限り、行き帰りとも祇園辺りから歩くことをお勧めします。

食事は、18時一斉スタートですので、遅刻は厳禁。この日は、17時30分過ぎにはお店を空けていただき、中に入り青梅の食前酒でほっと一息。17時45分には席に着いて、料理が始まるのを待ちます。

カウンターは14席で、席間は十分に取られていて、カウンターはやや低めに感じます。また、客席の方が若干床が高くなっていて、仕上げの調理を施すところが見えやすくなっています。一瞬東京青山のフロリレージュのカウンターが頭をよぎりました（笑）。恐らく”ライブ感を味わってもらう”のが主目的ではなく、お客さんを一段高いところに上げるという”おもてなし”が目的のような気がします。

料理は、最初（一の膳）だけ茶懐石の作法に則って進められます。こちらに行かれる方は、茶懐石の作法を少し頭に入れてから行かれるとより楽しめることと思います。私は、事前準備なく伺ってかなり後悔しました（涙）。以降は、ご主人の石原さんからも「リラックスして好きにやってください」という言葉を掛けられ、普段通りのお食事です。

さて、肝心のお料理。まず、これも茶懐石のもてなしなのでしょうが、他の皆さんも一様に書かれているように量自体がとても多いです。品数もそうですし、一皿の量も通常の日本料理店の倍近くはある気がします。

中でも圧巻なのはお造り。この日は剣先烏賊、真鯛、鱧（霜降り）、鮪（赤身づけ、腹身、皮目の炙り）と出てきましたがどれも1人3切れ以上という配分。盛り付けも美しく、今まで見たお造りの中では圧倒的に魅惑的なビジュアルです。正直、鮪などは東京の寿司屋で食べるものと比較するとどうしても劣ってしまうのですが、そんなことはきっと石原さんも分かっていて、それでも手に入る最高の鮪を出してやろうという、もてなしなのだと自分的には得心。

また、食材としては、お米を筆頭に石原さんのご出身である島根産の食材が多く取り入れられています。そして、さきほどのお造りでも述べた通り、どの料理も盛り付けが大変美しく、この辺りは石原さんの修行店である嵐山吉兆のDNAなのかな、と思ってみたり。八寸に辿り着くころにはもう腹10分目に到達してたのですが、その見た目に圧倒されてしまいました。出てきた料理に圧倒されるという経験は、自分の記憶では松川以来です。松川ではその素材の力に、ここ未在では料理の美しさに。

そして、口にして最も印象に残った（要は美味しかった）のは、最後の”お焦げの湯がけご飯”。ご飯のお焦げにお湯をかけ、僅かに塩を入れた湯を白いご飯にお茶漬けのようにしていただくのですが、米の旨みと絶妙な塩加減の組み合わせが素晴らしく、この時点で既に”腹十二分目以上”であったにも関わらず、自分でもまさかのおかわり（笑）。シンプルな食材、調理法にも関わらず感動的な味でした。

最後は、全部で48種類の果物が使われているというデザートをいただき約2時間半の食事が終了。ここまでお腹いっぱいになったのは本当に久しぶりです。

店を出るときには入口で石原さんのお見送りを受け、その後は祇園まで約10分の散歩を楽しみました。

お店を出た後、色々思い返しましたが、ここでの楽しみ方は少し他の料理屋とは違う気がしました。この日は気心の知れたレビュアーさんとのオフ会的な利用だったということもあり、いつもの調子で料理も会話も楽しんだのですが、ここでは少し会話は控えて、最初から最後まで料理とだけ向き合い続けることが更に満足度を上げる秘訣なのかと思いました。

こちらは皆さんご存知の通り、料理の写真はNGですし、一斉スタートでゲストが同じ料理を同時に食べるというきまりです。また、お料理の説明も物凄く丁寧です。それに応えるゲストの方もその料理に込めた思いや料理のビジュアルをしっかりと頭の中にしまい込むのが礼儀なのかな、と思ったりして、そのためにはしっかりと料理とだけ向き合うのが良い気がしました。

今回の訪問で色々と思うところありましたので、次回はしっかり準備をした上で伺いたいと思います。といってもその機会は来年まで待たないとならないんですがね（笑）

【この日のお料理】
1.一の膳：向附、汁、御飯
★島根県仁多米の煮えばな
★破竹の入った八丁味噌の汁
★（お酒）白泉の未在
★水無月豆腐と大納言小豆、銀不老豆など５種類の豆、むき胡麻と吉野葛
★木の芽と花山椒のお浸し
2.お造り
★淡路島の鱧の霜降り３種のソースと伴に(チリ酢、梅肉新生姜、鱧肝)
★対馬産剣先烏賊、淡路島の鯛
★青森産鮪、鮪の皮を塩焼き、中トロ、大トロ、はらぼ炙り
3.椀物
★汲み上げ湯葉の鮎真丈　よもぎ麺のお椀
★鮎の骨せんべい
4.焼き物
★奥出雲産の和牛の炙り、新玉葱ソースかけ
5.箸休め
★スナップえんどうのすり流し、天草の才巻き海老、蓴菜
6.八寸
★鮎浅酢掛け
★こはだ もずく酢
★海老せんべい
★空豆揚げ
★鴨のロースト
★徳島の山桃
★燻し玉子（鱧と海老のすり身）
★さつまいも
★甘鯛の柿の葉寿司
7.炊き合せ
★三重産本ばい貝
★上賀茂茄子の胡麻田楽
8.御飯
★お焦げの湯がけの御飯
★お新香
9.デザート
★さくらんぼ（レーニアチェリーと山形美人）
★ライチ
★京夏蜜柑のゼリー
★りんごのコンポート
★ベビーマンゴー
★干し葡萄
★36種類のフルーツ寄せ
★じゅうじゅうトマトのシャーベット
★（お酒）伏見の山本本家の白泉の未在、金泉の未在
★（お酒）岐阜の千古岩酒造の岐阜の未在

お勘定：約40,000円