居酒屋大吉@2017年02月11日（土）の晩ごはん : 居酒屋大吉

それにしても寒い寒い高知の夜です。昨日来、この冬一番の寒さだそうです。
昨夜は風に煽られた雪が斜めに吹き付けていました。
おそらくそのせいでしょう。土曜日の夜だと言うのに街の人出はじつに疎らです。
酒好きの高知の人たちも、さすがにこの寒さには適わないのかもしれません。
それでも私たちは「居酒屋大吉」さんを目指します。

ショッピングセンターでの小さなイベントの打ち上げです。首筋に突き刺さる風を感じながら
総勢5名で20時半にお伺いします。いつもなら店先に酔いたんぼが屯しているのですが
さすがに今夜は静かなものです。店内に入る前に提灯の下の今夜のおすすめを確認すると

えぇ～っ!!「本日カツオ売り切れました」のお知らせが貼りだされています。
なんと!!カツオはもとより、はがつお、サバまで売り切れています。
高知の酔客の寒さ対策は「酒場に出掛けるのをあきらめる」のではなく
「チャッチャと呑んでチャッチャと帰る!!」って方法なのかもしれません（笑）
もしくは、この時期のカツオを高知県民が好むとも思えませんから
あるいは県外から高知を訪れたおきゃくがカツオを食べて
そそくさと帰路についたのかもしれません。
まぁ私の目的はカツオではありませんのでがっかりするには及びません。

まずは乾杯ではありますが、このメンバーでの飲み会も数回目になりますので
乾杯の飲み物も自由です。生ビールが2名、梅酒と梅酒ソーダが各１人ずつ。
私はいつもの「船中八策」を手酌で満たして乾杯です。

「高知県民の大好きな山菜料理・イタドリの炒め煮」。もちろん、これまでも
イタドリを食べたことは何度もあるのですが、このイタドリは灰汁を全く感じません。
むしろ、かつお出汁の旨味がじんわりと沁みこんでいます。上品な味わいです。
ところで、“高知県民の大好きな”って書いてある通り「イタドリ」は高知では絶大な人気です。
不思議なことに隣県の愛媛県では、大して喜ばれるものではないのです。
一方、愛媛県では「土筆」は珍重されるのですが、高知県人は好んでは食べません。
そこで、それぞれが県境を越えて他県へ山菜狩りに出掛けていくのです。
ほんの少し県境を越えただけでそれぞれの好みの野草がたんまりと手に入るのです。

なんて話題でイタドリを突いているところに

「刺身の盛り合せ」です。マグロ・イサキ・ネイリです。ここでも広島県人から
「ネイリって魚は初めてです。」って確かに愛媛県人の私にとっても
高知ではカンパチをネイリと呼ぶらしいと言うことぐらいしか知りません。
「カンパチの小さなものをネイリと呼ぶんです。」って高知県人が説明してくれます。
スズキの小さなものをセイゴ、ハマチの小さなものをヤズと呼ぶようなものです。
ネイリもセイゴもヤズもすべて成魚のほうが美味しいのですが、このネイリは
脂乗りもしっかりとしていて美味しいものでした。
ところで、高知の酒場をあちこち出入りしている酒呑みの愛媛県人に依ると
「大吉のおやっさんの刺身の引き方には適わん」って
有名な高知の居酒屋の大将が絶賛しているのだそうです。

刺身は身自体の美味しさはもちろんのこと、包丁の引き方も重要なんです。

「ミョウガの天ぷら」です。今回は高知のうまいもんというコンセプトですから・・・・
って言うかここ「大吉」さんに来るたびに旬の高知のうまいもの特集になるのは必定です。
ミョウガの生産量は高知が圧倒的な日本一なんです。
施設栽培のミョウガなら国内生産量のなんと98.2%、露地栽培を含めても64.7%を
高知のミョウガが占めています。（平成16年農林水産庁資料）
さらに言うならミョウガを食用にしているのは日本人だけだそうですから、
世界のミョウガの65%は高知産です!!　世界一のミョウガが美味くないはずがない（笑）

「川海老の唐揚げ」だって高知らしい肴です。大きいものなら中指より大きいものも
あるのですが、残念ながら今回のものは小指ほどの大きさです。
それでもしっかり身が詰まっていますし、塩味を利かせて
パリパリに揚げられていますから、噛みしだく度に心地良い食感とともに
海老の旨味と塩味が鼻孔からツンと抜けていきます。

「あおさ海苔の天ぷら」だって高知名物です。外側の海苔はパリっと揚がっていますし
内側のそれはしんなりとした柔らかさを残しています。なにより海苔の香りが堪りません。
ほんの少しだけ天つゆに浸して口に運ぶごとに海苔の風味が一層引き立ちます。

「名物手づくりイカ団子」はここの一推しの逸品です。イカの切り身がたっぷりと入った
さつま揚げです。フッと生姜の香りが漂う誰にでも好まれる味です。

「チーズカリカリ」です。チーズを餃子の皮で包んで揚げただけのものではありますが
塩気とチーズの旨味とパリっとした食感が酒のつまみに最適です。
真夏の生ビールにならさらに完璧です!!
日本酒を飲み進めている私はここで「金目鯛のあらだき」を注文したのですが
今夜は金目鯛が入荷してないのだそうです。残念!!

金目鯛以外の魚では当たり外れがありますので、「玉子焼き」で日本酒を
呑み進めることにします。ふんわりと仕上がった出汁巻き玉子です。
ずいぶんと食べているように見えるでしょうが、まぁ5人で食べていますからね。
この「大吉」さんて１人前の量が多いですからこれくらいの人数で来るほうが
あれこれ食べられて良いのです。

「軍鶏鍋」です。醤油仕立てにたっぷりの軍鶏肉、餅にうどんまで入っています。
冬の時期だけの料理なんですけどね、これが大好きなんです!!
後輩に取り分けを任せておいたら「骨付き肉すきですよね!!」って。

確かに骨付き肉は美味しいんだけど・・・これは骨だけだから!!
軍鶏肉って歯応え十分ですからこの骨についた肉はまず噛み切れません（笑）
　ですが、ここからすっごく美味しい味が染み出しているんです。
しゃぶるように味わってから齧りますが・・・やっぱ無理!!（笑）
おかわりにはちゃんとした身を入れてもらいます。日本酒に合います!!
軍鶏鍋っていうと竜馬暗殺を連想してしまいますが
竜馬の時代もこんなに美味しい軍鶏鍋を食べていたのかなぁなんて
思いを巡らせるのも高知ならではでしょうか。

〆は「鯖の押し寿司」と「鉄火巻き」。本当は「土佐巻き」で〆たかったのですが
今夜はカツオが売り切れてました!!　それでも・・・・作り置きがないかなぁって
注文してみましたが、やっぱり注文ごとに巻くんですよね。残念ですが
初めて食べたこの鉄火巻きがバカウマでした。
まず、見たとおりマグロの量が多い!!　赤身だけどねっとりと脂がのっています。
これは美味いですねぇ。「土佐巻き」がなければ迷わずこれでしょう。
そして「鯖の押し寿司」だってこの鯖の美しさで美味しさは一目瞭然です。
少し強めに酢を利かせた酢飯の押し寿司ですが、その押し具合が絶妙です。
口中で酢飯がほろりと崩れる仕組みです。美味い!!
寿司が運ばれて来るのと同時に熱い緑茶を運んでもらって食事会終了です。
20時半からスタートしたのですが気がつけば23時前。
よく喋り、よく食べました。呑みこそ、そこそこでしたがこれで５人で18,000円。
安過ぎるんじゃないですかって思ってしまうのです。

世間はゴールデンウィークですが私は仕事です。
しかも高知に２泊3日の出張中です。
憂さ晴らしに大いに呑もうじゃありませんか!!さぁ高知の夜です。

宿泊先のホテルのフロント係の方に「おすすめの呑み屋さんは？」
って尋ねてみますが「GWですから、どこも満席でしょうね。」
って応えです。私はかねてより行きたかった
「居酒屋大吉さんってどうですかね？」ってあらためて尋ねます。
「おぉ大吉さんは素晴らしいですよ。観光客より
地元の方でいっぱいでしょうね。地元の大人気店ですよ。」
なるほどなるほど、酒宴が好きな高知人の贔屓の店なら間違いないでしょう。
なおさら居酒屋大吉さんに行かざるを得ません。

このお店のことは2014年の「高知家の食卓」県民大投票で
上位入賞していたことで記憶していました。
その紹介記事の印象では新進気鋭の創作居酒屋をイメージしていたのですが
なんと40有余年の老舗居酒屋でした。ますます良いじゃないですか!!

しかも、さっきのホテルマンの説に依りますとこの一角はお店が続かない場所
なんですって。その中で商売を続けていられるのはこの「大吉」さんと
向かいの中華の「華珍園」さんだけだそうです。
「華珍園」さんについては、以前に西原理恵子さんにエッセイで読んで
気になっていました・・・・。
なんだか、さまざまな都市伝説まで纏ってますます気になります。

さて、店先には数組の客が待っています。
このお店は３名以上でないと予約ができないらしいので
２人連れはこうして店頭で待つことになります。
今は季節も良いので待つことは苦にもなりません。

店先には「今日のおすすめ」が貼り出されていますから
じっくりと本日の献立を決まられるのですが・・・・どれも魅力的過ぎます。

さて、30分少しほど待ったでしょうか・・ようやく店内に案内されます。

１階はカウンターと小さなテーブル席がいくつかあります。
２階・３階は予約客用の座敷とテーブル席なのだとか・・・

カウンターに座ることが出来れば調理の様子や
ショウケースの中身を愉しむことだって出来ます。

まずは飲み物を選びます。せっかくですから地酒にします。
土佐は甘口のお酒が多いんですよね。そこで「桂月の冷や」から始めましょう。

お通しの「青菜のお浸し」と冷えた桂月の瓶と小さな冷酒グラスが
運ばれてきますから、まずは一献。
桂月の淡い甘味がじーんと口中に拡がります。う～ん、旨い!!

まずはおすすめの「完熟フルティカトマト（４５０円）」です。
中玉サイズのこのトマトは糖度が高いことで有名です。
たしかにやや甘味が強いですね。
ただし、日本酒よりはビールにこそ合いそうです。

「清水さばの刺身（1,100円）」です。
まず何よりこの色合いはどうですか!!　その皮の部分が鈍く光っています。
まるでいぶし銀のような輝きです。
ひとくち目は醤油もなにも漬けないままに味わってみます。
口に運ぶとまず鯖の身がぬるりと唇に触れます。
鯖の刺身ってこんなだったけと思いながらその身のすべてを
口中に入れて味わいますとここからがまるで違いました。

身の外側・・・皮の部分は少しぬったりとしていますがそれ以外は
きりりと引き締まっているのです。それが新鮮さの証なのでしょう。
こりこりとした食感が味わえます。
ふた切れ目には醤油を漬けてみましょう。淡口醤油におろし生姜を溶きます。
その醤油に刺身の先をほんの少しだけ触れさせます。
瞬間に鯖の脂が醤油の表面に拡がっていくのが見てとれます。
生姜醤油に触れた身を口中に運ぶと
先ほどの身の引き締まりと同時に生姜醤油で際立たされた
鯖の旨味がジーンと口中に拡がります。

名物料理の「イカ団子（400円）」です。
さきほどのホテルマンもこれが大好物だと話していました。
熱々のイカ団子が５個、皿に乗っかっています。
これはイカが入った薩摩揚げですね。

イカの切り身が十分に入っていますし、生姜が効いています。
そしてカリカリに芳ばしく揚がっていますから
これを熱いうちに齧ると旨味が弾けるようです。
ビールとの相性が最高であることは想像に易いのですが
冷酒にも十分に合います。薩摩揚げとしてはやや甘めに出来上がっています。

そしてそして今回のどうしても食べたかったもののひとつが
この「カツオの塩タタキ（1,200円）です。
きれいな身が見てとれます。言わずもがなの新鮮さです。
この時期になると「目には青葉山不如帰初鰹」って
山口素堂さんの句を何度も耳にします。
高知沖の太平洋を北上していく鰹の美味しさを謳ったものですが、
昨今では、鰹の旬は戻り鰹の11月だという意見の方が大勢を占めます。

考えてみれば、江戸時代はマグロでも赤身の方が好まれていたと言います。
大トロなんて見向きもされなかったと言いますから
江戸時代には、この季節の脂乗りの薄いカツオをこそ
好んだのかもしれません。
この時期の脂のりの薄いカツオにこそ塩タタキがふさわしいのかもしれません。
それにしても美味いですね!!
この時期のカツオには清涼感があります。
燻された香りと清涼感のある味わいが絶妙な風味を醸しだしています。

ここで「金目鯛のあらだき（1,000円）」を注文します。
高知で食べたかったものはこれで一通りです（笑）
「カツオのタタキ」「土佐清水の鯖」そしてこの「金目鯛」だったのです。
高知で金目鯛といえば室戸のものでしょう。
旬は冬だそうですが一年を通じて美味な高級魚です。
それがしっかりとした味付けで煮込まれていますから
酒に合います!!　高知の甘口の酒に合いますし、
きっとごはんにも合うでしょうね。
一緒に盛り付けられている牛蒡の土の香りも良いアクセントですし、
じっくり煮込まれてタレが沁み込んだ豆腐も最高です。

お通しも含めてここまで６品を食べて大満足ではありますが
〆に食べたかったのが

「土佐巻き（900円）」です。これも大好きな土佐料理です。

カツオのタタキをニンニクやネギと一緒に巻きものにしています。
スモーキーなカツオのタタキとご飯と海苔の芳ばしさ
それを、ちょんっと醤油に漬けるのですから堪りません。
本当に堪りません!!

端っこのカツオがはみ出しているところを惜しげなく
パクリっと平らげて店を後にします。

もっともっと食べたいものもありますが
ここには絶対に次回も来ましょう。リピ確定です。
お勘定をして（2人で8,000円弱でした）、お礼を告げて店外に出ようとすると

こんな色紙が目にとまります（笑）
吉田類さんのサインです。吉田さんは高知のご出身でしたよね。
こういった雰囲気のお店が大好きであろうことは間違いありません。
氏が上機嫌でこの店で盃を重ねただろう様子が簡単に想像できました。
高知らしいとっても愉しい居酒屋さんでした。最高です。