「お席すぐ用意、ドリンク類２割引きますよ。」 : 紅音 横浜西口店

混雑する週末の横浜駅周辺で、街のお兄さんから標記のような声を掛けられて、足を止めたら
最後、選択の余地無く、入店するしかありません。
概ね、こうした甘い誘いの勧誘には、それなりの訳があったり無かったり･･･。

繁華街や駅近の居酒屋の類は競争も激しいから、どこでもある程度客を掴むために頑張ってる
んだろう、言い換えれば程度の差はあまりないのではないか。
･･･という思い込みが間違いだったと痛感することもあるのです。

　～～～～～　湘南パラダイス物語　後半そのⅥ　～～～～～

パラ子が一次会の引け際に調べた店は、悉く満席で、最低でも30～45分待ちと言われて、途方
に暮れていました。
みんな、バラバラに勝手な方向に歩き出そうとするのを咎めるように、声を荒げます。

　パラ子　　「もう、皆どっち行くつもりヨ。」

モアーズビルを出たところで、橋を渡るの渡らないのと右往左往するうちに、スレンダーな茶髪
のお兄さんが近寄って来て、「お店お探しですか？　今ならドリンク２割引いちゃいますよ。」
ときたもんだ。

　大輔　　　「お、お得じゃん、お兄さん。いいねぇ。」
　楽ちゃん　「ダイ、本気かぃ？　客引きの言いなりで･･･。」
　お園　　　「・・・。」

結局、モアーズビルのすぐ裏手の雑居ビルにある「紅音（これでkurenaiって読むんだって）」
に入店することになった４人。

店奥には、半分個室になったような狭いコーナーが連なっていて、何とか６人は入れる席に案内
してもらいました。

　パラ子　　「続きだよ～、ドリンク決めよう。」
　お園　　　「レモンサワー」
　大輔　　　「ジャスミンハイ」
　楽ちゃん　「香るプレミアムじゃぁ。」
　パラ子　　「オールフリーお願い。」
　楽ちゃん　「何だぁ？　パラ子飲まないのか。」
　パラ子　　「ちょっと覚ましてからネ。」
　
本日、何度目かの『クヮンパァ～イ』を叫び、ややヤケクソぎみに無理やり盛り上げる４人。

いつの間に連絡をとったのか、大輔は楽ちゃんと共通の友人で関西出身の岩間八州男（いわま
やすお）君=通称ガンチャンを呼びつけていました。
そのガンチャンは、最近付き合い始めたばかりの彼女・まーみんを皆に紹介するという厚かまし
い思い付きでカップルで登場してしまいます。
　
　ガンチャン　「ジャーン！！　ガンチャン登ーォ場ーゥ♪」
　まーみん　　「ども、･･･ﾍﾟｺﾘ。」
　楽ちゃん　　「あれ、なんでおまいがそこ居るの？」
　ガンチャン　「なんでって、ご挨拶やな、今日は楽ちゃんのバースデイやったら知らんぷり
　　　　　　　　でけへんやん。」
　楽ちゃん　　「あ、そ。　ﾌーﾝ、ﾌーﾝ･･･そゆこと？」
　大輔　　　　「イインダよ。おいらが呼んだの、さっさ入って。」
　ガンチャン　「くいもん頼んでもええのん？」
　パラ子　　　「良いわよ、はいメニュー。」
　
　＊お通し　　　　　　 ¥350×６
　　　　　　こ、･･･これが350円！というびっくり小鉢。

　＊枝豆　　　　　　　 ¥430
　　　　　　冷凍の戻し丸出しの味。一握りの豆は粒にしたら何個あるんだか。

　＊シーザーサラダ　　 ¥720
　　　　　　そうなんだぁ。普通です。

　＊出汁巻玉子　　　　 ¥750
　　　　　　これしきで、750円取る？みんなで分けられない。

　＊縞ほっけ　　　　　 ¥800
　　　　　　小型のホッケは、それでも旨いけどね。

　＊焼き鳥盛合せ　　　¥1180
　　　　　　小さい串（塩）が５本･･･。この人数では行き渡らない肉。

　＊旬のお造り５種　　¥1850
　　　　　　まさか、この薄く小さな刺身ごときに1850円なのかよ。

腹いっぱいだった４人組に、新たに腹ペコ２人が加わっただけで、立て続けに食べ物を注文し
て周囲をげんなりさせます。
しかし、ポーションの小ささから、負担感が消えたのは良いとして、逆に貧弱な盛りに軽い
失望感を味わう破目に陥るのでした。

　ガンチャン　　「最初から呼んでくれたらええのに、そしたらプレゼント持って来たデ。」
　楽ちゃん　　　「いらない。祝ってもらう程の活躍してないし。」
　パラ子　　　　「存在自体が貴重なのよ、楽ちゃんは。」
　お園　　　　　「きょとーん。」
　楽ちゃん　　　「絶滅危惧種ってこと？　俺。」
　まーみん　　　「きゃははは、受けるぅ。」
　大輔　　　　　「先輩は、居てくれるだけで俺らの心の支えってこと。な、」
　パラ子　　　　「うんうん。」
　お園　　　　　「楽ちゃん皆から愛されてるナ。」
　ガンチャン　　「こんな冷静クールな振りして、温かい奴もおらんで。お園ちゃん。」
　大輔　　　　　「そうそう、･･･お姉さんドリンク、ウーロンハイとREBOOTそれに香るプ
　　　　　　　　　レミアム、ジャスミンハイ、パラ子はっと、ウーロン茶ね。」
　まーみん　　　「あたし、梅美人飲みたい。」
　ガンチャン　　「せやからなお園ちゃん、放したらあかんで。楽はモテルから他のオンナに
　　　　　　　　　取られるて。」
　お園　　　　　「取られる･･･。」

かなり飲んでいるのに、この日は、メンバーも増えたことでペースが落ちません。

　ガンチャン　　「もっと食べたいなぁ。ええよな。」
　大輔　　　　　「おう、食べよう食べよう。」

　＊カニのクリームコロッケ　¥680
　　　　　　さすがに揚げたての熱々は美味しい。

　＊旬魚の西京焼き　　　　　¥680
　　　　　　自家製かどうかわからない。切れが小さい。

　＊ソーセージ盛合せ　　　　¥680
　　　　　　値段を上げてもいいから、もうちょっと本数増やしてほしい皿。

　＊海藻サラダ　　　　　　　¥780
　　　　　　サラダ系メニューぐらい「お得感」を演出したらどうなんだと思う。

微妙な空気を知らないまま、途中参加のガンチャンは楽ちゃんとお園に「煽り」を入れて
結婚への決意をけしかけます。
故郷と家族を人一倍愛するお園にとって、それら周囲からの励ましや煽りはイコール、ジ
レンマでもありました。

　パラ子　　　「復活した！　あたしプレモルぅ。」
　大輔　　　　「ジャスミンハイおかわり。」
　楽ちゃん　　「俺、オールフリーでいいや。ゲップ」　
　まーみん　　「ジャスミン茶って美味しいの？」
　ガンチャン　「好きな人は好きな味。」（笑）
　パラ子　　　「それって説明になってないじゃん。」
　楽ちゃん　　「一回飲んでみればいいんだよ。」
　ガンチャン　「あ、遅れましたけど、この子“まーみん”と呼んだって。まだ二十歳。」
　まーみん　　「ﾍﾟｺﾘ･･･。美容師してまーす。」（一同拍手）
　お園　　　　「うちよかしっかり者見える。」
　まーみん　　「今日はぁ、ガンチャンのお友達のお誕生日で婚約発表が聞けるって聞いて
　　　　　　　　きました。」
　ガンチャン　「さぁ、発表です！・・・どうぞ！」
　パラ子　　　「・・・バッカ。そっちはまだよ。岩間クン。」
　ガンチャン　「へっ、そうなん？　一寸早まったんか俺。」
　大輔　　　　「そんなこたぁねぇよ。きっかけとか勢いってあるじゃん。」
　楽ちゃん　　「おまいの生き方かぶせるなっつーの。時の流れが必要な場合もある。」
　お園　　　　「・・・。」
　パラ子　　　「そうだよ、最後にも一回乾杯して終わろ。」

一同は、今日集まれたことに感謝して、乾杯しグラスを開けました。

　パラ子　　　「会計はねぇ、２万ちょっとだから一人あたり男４の女３で。」
　ガンチャン　「たっかぁ、ほんの一時間半で俺７も払うんか。」
　大輔　　　　「それ言いっこなし。お祝いだし。」
　まーみん　　「この後、歌うんでしょ？　ねぇねぇ。」
　ガンチャン　「せやな。行こなカラオケ。」
　
会計を済ませた一同は、横浜駅北口前にあつまり、主賓の楽ちゃんとお園を見送りました。　
後半、楽ちゃんが気持ち悪そうに顔を歪めていたことをお園が気づかって三次会を遠慮する
流れになったのでした。

(総評として)
　ガンチャン　「ま、それにしても今の店、一見雰囲気よさそやけど・・・。あれで２割
　　　　　　　　引いてんのん？」
　パラ子　　　「グラスとか食器の管理って大事だよね。でないと唇切っちゃうしさ。」
　まーみん　　「あたしは綺麗なトイレのお店が好き。ちょっとちゅらかったよ。」
　大輔　　　　「すまん、俺が客引き兄さんの誘いに乗ったばっかりに。」

残った４人は、げんなおしにカラオケ店目指して歩き始めました。

　～～～～～　つづく　～～～～～