満天の星の中で ・・・ 【満天】 : 旦過屋台寿し満天

にぎり寿司を最初につくったのは、文政初年、両国元町に住む与兵衛という男であった。

尤もその原型は以前からあった。

天明年間、マグロが獲れ過ぎてタダ同然になってしまい、農家のコヤシとして分配したくらいだった。

ある工夫好きがこのマグロをブツ切りにして酢漬けにし、にぎり飯の上に乗せて売り出したら大当たりした。

この工夫が更に改良されて、魚の脂を絞って混ぜた飯にマグロを乗せて、一個あてに笹で仕切って、

箱の中に並べ、その上にタクアン漬けのように板で蓋をして石を乗せ、数時間待って売り出した。

こうしたら三日間くらいは保つことが出来たらしいが、如何せん脂を絞ってしまった魚は美味くなかった。


そこで与兵衛が、客の前で、即座ににぎることを考え付いたのである。

当時の江戸は食通だらけで、彼らを唸らせる料亭が次々に店を構え、板前が自慢の腕をふるった時代。

その江戸で与兵衛のサッとにぎって喰わせる「早鮨」はしだいに評判になった。

上述の日保ちのする「押鮨」は正確には「押鮓」と表記されていた。

与兵衛のつくるのは「これは旨い！」ということで「鮨」と改字されたのである。


そんな新鮮で旨い「鮨」を岡持ちに入れて売り歩いた与兵衛鮨は裏長屋の人足でも思う存分食べられる

安価さでもあったので大評判になった。

古道具商に失敗して借金だらけだった与兵衛にとっては正に起死回生だったのである。

そんな「鮨」を高価にしたのは、つくった与兵衛当人だった。。。所詮は成金根性の持ち主であったのか、

専売特許的評判をとると、どんどん値段をつり上げて、金を持った通人にしか食べられないようにした。

貧乏人は金を貯めて、店で行列して、与兵衛の折詰を買い求めるしかなくなったのだ。


人生というものは本当に何が起こるか分からない。

天保に入って、あの水野越前守忠邦が老中首座に就いた、となれば、あの「天保の改革」である。

徹底した「倹約令」は、与兵衛鮨もぜいたくである！としてなんと与兵衛当人を召し捕ってしまったのだ。

皮肉なことにこれで、にぎり鮨がますます「美味中の美味」に祀り上げられてしまった。

与兵衛鮨は食べられなくなってしまったが、その跡を継いで研鑽・努力して儲けた職人が居たのだろう。

３０分ほどで数万円の勘定になる鮨屋もあれば、二貫で￥１００の皿が数珠繋ぎになって廻っている鮨屋も

ある現代。与兵衛が見たらどんな感想を漏らすのだろうか？


とまぁ、そんな寿司の歴史を毎度思いながら寿司屋を探して喰っているわけではないけどネ(笑)

今回は北九州は小倉で寿司屋の新規開拓をしたくて事前に食べログで一生懸命探してみたのである。

その前々週、大阪で正に「狂熱のオフ会」を主催してしまい、その後体調を悪くして飯も喰えなかった。

元々歯肉炎ではあるが、そこに東京か広島の変なバイ菌でも入ったのか腫れ上がってしまったのだ。

おかげでロクに物を喰えなくなり、カップのポタージュばかりの生活をしていたら３㎏痩せた。

それ以来、初めての外食、初めての飲酒なのである。「喰うぞぉ～！吞むぞぉ～！」

安全・正確・快適 北九州モノレールの沿線で仕事があったので旦過(ﾀﾝｶﾞ)の駅近を探してみた。

なんと言っても彼の有名な「旦過市場」周辺であればイイ寿司屋が見つかるかもしれない！！


そして見つけた店がここ「満天」だったのだ。

先ずモノレール旦過駅から至近。宇宙的方向音痴の私には嬉しい立地。

そして食べログ・レビューに「立ち食い寿司」とある。つまり勝負が早い。暴飲暴食を防げる。

そして、そして評価が低い。レビュー数が少なくて評価が低いのは何故か？？？

サディスティックな興味も湧いてしまったのだった。

もう３月も半ばというのに寒い日だった。薄手のトレンチ・コートでは寒かったのだ。

そしてそんな時ほど道を間違える。旦過駅の北西にある店に行くのに南東方向へ歩いてしまった。

間違いに気付いて取って返す。予定の二倍の時間で二倍の距離を歩いた体は冷え切った。

本来ならば旦過駅から数十メートルの場所に位置する満天。

狭小な店内に先ず驚く。但しもう立ち食いではなくなっている。ちゃんと座って寿司を喰えるようになっていた。

御夫婦で切り盛りされるには丁度良いのだろう。店主の銅崎雅久さんは大阪・辻調出身の５４歳。

「え？？大将、大阪出身なん？」て聞いたら「イヤイヤその時だけです、小倉出身ですよ」とのことだった。


「なかなか日本酒そろってますな。先ず立山下さいナ」

「寒いからねぇ～、熱燗にしときましょうかぁ～！」

うん、息が合うではないか！嬉しくなってしまった。

午後２時少し前、他に客もない。写真撮影の許可をいただき店内をパチパチ撮りながら料理注文。

※鯛の塩炙り￥８００・・・肉厚の鯛の身を炙って塩で。表面しっかり炙ってあるのにプリッと食感。

※焼穴子￥４００・・・これは普通にあるのだけれど、￥４００は安いですよね♪

※貝三昧￥６００・・・先ずシャリが合った。これは嬉しい。ネタには文句のつけようがない。

※庭のうぐいす￥６００・・・福岡は久留米の酒。

※お魚五彩 五貫盛￥１２００・・・この店ではとにかく、こういうセットで注文が圧倒的に得である。

※タコのやわらか煮￥４００・・・タコが新鮮なのだろう。絶妙の歯ごたえに絶妙の味付けだ。

※獺祭スパークリング￥１８００・・・レビュー書いてて、もうこの辺に来ると自分が壊れてたんだなぁと感じる。

※つぶ貝をアテで￥５００・・・新鮮なつぶ貝はとにかくコリコリ感がイイでしょぉ～！

※つぶ貝をにぎりで・・・そやから寿司でも行ってしまいましたで！

※出汁巻￥３００・・・なんで出汁巻なんて喰ってんねん！美味かったからエエけど・・・。

※雲丹(軍艦)・・・どうしても喰いたくなった。

※雲丹・・・やっぱり私は海苔がない方がイイ。

※デザート代わりの「苺寿司」・・・こんなん初めて喰った。喰えた。この喰い方アリですよ！！

つぶ貝や雲丹の値段は忘れてしまった。面目ない。しかし￥５～６００だったと思う。


優秀な寿司屋だと思う。

大将の熱意を感じる。一生懸命さを感じる。

元々北九州の寿司屋でも居酒屋でも鮮魚の新鮮さには毎度驚かされている。

そしてモチロン食べログで見てから良心的な店を狙って行くので「安い！」。この店も。

狭い客席に狭い厨房で魚も酒の品揃えも限界にまで挑む。そしてシャリには「湯たんぽ」入りだ。

なんとか温度を一定に保って安定したシャリを提供したい、という「思い」。醤油にも手を加えている。

エエ歳したスーツを着たオッサンが写真を撮りまくり、色々聞きまくって来るのだからもあるだろうけど、

一生懸命に商売への「思い」を聞かせてくれる。お客への「思い」を聞かせてくれる。プライドも覗く。

まだ開店二年目だと言う。もっと頑張ってもう少し広い店を出したい。


また調子に乗って喰い過ぎた、呑み過ぎた。勘定は￥５０００を超えてしまった。

普通にしていたら一人当たり￥３０００代で充分に美味い寿司と酒が味わえる店である。

客単価の設定はそちらにしておいた。


満天にちりばめられる星たちのごとく、日本中いや、世界中に拡がっている「寿司屋」。

そんな中で輝き続ける店であって欲しい。今回偶々の御縁で出会った店に過ぎないかも知れない。

でも美味かったから！同世代の銅崎大将やから！ますます発展して欲しいと思った。

呉々も「与兵衛」みたいにはならないで下さいよ、大将！